【コラム】IBC報告3 コンテンツ流通の基盤を整えるプラットフォーム、配信で相次ぐ新製品 「モバイル・デバイスをモバイル・ビルボードに」

2014.11.5 UP

英Cambridge Imaging Systemsの映像配信プラットフォーム「Imagine Cloud」

英Cambridge Imaging Systemsの映像配信プラットフォーム「Imagine Cloud」

Brightcoveは「Perform」をデモ。写真右はブライトコーブ(株) アソシエイトディレクター川延浩彰氏

Brightcoveは「Perform」をデモ。写真右はブライトコーブ(株) アソシエイトディレクター川延浩彰氏

CDN大手の米Akamai Technologiesは、ソチ五輪などの大規模イベントへの対応を示した

CDN大手の米Akamai Technologiesは、ソチ五輪などの大規模イベントへの対応を示した

 映像コンテンツ流通の重要性は広く認識されるとともに、コンテンツ流通を支える技術や製品への関心も急速に高まっている。数年前までは、配信を行うには「自社でサーバを立ててソフトを組み合わせて配信」であったが、その姿は大きく変わってきている。また、流したコンテンツがどのように見られているかが従来以上に注目されるようになった。「マネタイズ(収益化)」を合言葉に、コンテンツを持つ側も、機材やサービスを提供する側も知恵を絞っている。また、コンテンツの制作段階においても、ストックを活用する方向に変わった。そこで、ストック提供に特化したB2Bサービスも大きくなっている。9月に開催されたIBC2014では、配信に注目した企業の動きが活発に見られた。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)

■配信のその上の要求に応えるサービスへ
 今や、「映像配信は自社で立ち上げたサーバから」という常識は過去のものだ。コンテンツがあっても配信のために大きな力を割かなければならない時代は、急速に過去のものとなりつつある。クラウド空間中に仮想化されたサーバを立ち上げ、ここからコンテンツを流すのは当然の流れとなっている。例えば、米Amazonは、2010年に最後の物理サーバを停止している。管理面で自社でサーバを持つ必要があることは否定しない。しかし、多くの局面では、クラウド中でサーバの機能を用いることで済むだろう。
 データの多い映像コンテンツのためには、容量の大きな回線を引き込まなければならなかったのも過去のことだ。CDN(コンテンツ配信ネットワーク)事業者と契約すれば、太い回線を引き込まずとも世界中への安定配信が可能となる。また、クラウドとCDNをつないで配信するのも有効な手段となる。
 ここまでは、従来の「配信」に対応した手法であるが、ビジネスへの要求は単純な配信に留まらない。自社のブランド価値の向上や、顧客の誘導といった使命の先には収益化が求められている。そのためには、数々のツールを備えたプラットフォームの利用が進んでおり、プラットフォーム事業者から適切なサービスを購入するのが流れとなっている。

■収益機会を拡大するモバイル向け配信
 配信クラウドサービス大手の米Brightcoveは、IBC2014において新開発のプレイヤー管理システム「Perform」(パフォーム)を発表した(https://www.brightcove.com/ja/perform)。 Performの構成要素の一つには同社が独自開発したHTML5対応の次世代動画プレイヤーがある。このプレイヤーは、ロード速度が他社比で最大70%高速化されており、接続から出画までの時間が極めて短い。会場では、他社の動画プレイヤーとの速度比較が行われていた。Performと次世代動画プレイヤーを組み合わせれば、特定の端末への広告挿入やアナリティックス(分析)、そしてプレイヤー機能のサーバによる一括管理が実現する。
 同社のシニア・バイスプレジデント(常務)兼メディア事業部長のAnil Jain(アニール・ジェイン)氏は「スマートフォン、タブレット、テレビなど多くのコネクテッド・デバイスにビデオを送りたいという要求は非常に高い。あるスポーツチャネルは、視聴の30%がモバイル向けだ」として、コンテンツ配信にモバイル対応が重要であることを指摘している。また、同氏は「モバイル向けの配信は、収益機会を拡大すると同時に(配信システムの)複雑化を招く。モバイル・デバイスをモバイル・ビルボードとするには知恵が必要で、適切なプラットフォームを選択する必要がある」として、各種モバイル・デバイスへの配信まで統合的に対応したプラットフォームの重要さを強調した。
 Jain氏は「現在最も注目されているのは、視聴者の行動だ」として、分析機能・能力が重要であるとの認識を示した。同社の旗艦製品であるVideoCloudではリアルタイムアナリティックス機能も搭載され、アナリティックス機能が強化されている。「コネクテッド・デバイスへの期待がコンテンツ業界を駆り立てている」と業界が前向きであることを示すと同時に「過去に結ばれた契約が、適切なデバイスへの配信を追加するなどの状況に対応した動きへの障害となっている」と、技術以外の部分の問題もあるとしている。ただし、配信事業者も対応は進めており「デジタル・セントリック(デジタル中心)と視聴者の統合的取り扱いという2つの流れがあり、モバイルテレビと固定テレビの広告を統合して扱うようになった」という。広告効果を最大化するためには、固定、移動の両デバイスをまたいだ広告戦略が求められ、それが実施に移されている。ストリーミングで、自在な広告挿入を実施することは、配信事業者が採る新たな広告戦略を実現する強力な手段となる。

■B2Bにおける"YouTube"の構築
 コンテンツの蓄積(アーカイビング)とB2B取引のためのプラットフォームを提供する英Cambridge Imaging Systemsは「Imagen」(イマジェン)をクラウドに拡張した「Imagen Cloud」をIBCに出展した。 Imagen は、自社が蓄積したコンテンツを販売する際に顧客が検索、視聴をするための機能が充実している(http://www.cambridgeimaging.com)。同社のマーケティング・ディレクターのIan Mottashed(イアン・モタシェッド)氏は「コンテンツB2Bにおける"YouTube"を構築できる」としている。
 Imagen は、サーバを客先に設置しコンテンツの収納は自前のストレージやクラウドの利用ができる形態をとる。今年は、利用可能なクラウドにAmazon S3とMicrosoft Azureを追加している。また、このプラットフォームは、導入先が自社のブランドに適合するようUIを構築できる構造だ。他のサービスがImagenを呼び出して機能するためのAPIも用意されており、サービス間の連携にも対応する。同ソフトを利用するのは、大英図書館、英国国防省などの国家機関や、英国大学フィルムビデオ評議会、そしてテレビ局、コンテンツ事業者などがある。英国大学フィルムビデオ協議会は、大学向けの「教育・研究用VOD視聴サービス」を構築している。1998年以来録画された80万本以上の番組がイマジェンにより管理されており、研究機関が利用できる。
 Imagen Cloudは、Imagenの機能をクラウド上に展開したものだ。このため、最低利用料金を月額45ポンド(約8,000円)という低価格に設定されている。同社は、「オン・プレミスからクラウドへという流れを強く感じている」(Mottashed氏)としており、クラウド版により顧客拡大を目指すという。
 なお、Imagenは、英IABMが選出する「デザイン&イノベーション・アワード」の最終選考にリストされている。結果は、12月4日に発表される。
 IBC2014では、米国の配信プラットフォーム事業者「WOWZA(ワウザ、http://www.wowza.com/)」や、CDN事業者であるAkamai Technologies( http://www.akamai.co.jp/enja/)も大きなブースを構え、配信に一層注目が集まっていることを感じさせた。

英Cambridge Imaging Systemsの映像配信プラットフォーム「Imagine Cloud」

英Cambridge Imaging Systemsの映像配信プラットフォーム「Imagine Cloud」

Brightcoveは「Perform」をデモ。写真右はブライトコーブ(株) アソシエイトディレクター川延浩彰氏

Brightcoveは「Perform」をデモ。写真右はブライトコーブ(株) アソシエイトディレクター川延浩彰氏

CDN大手の米Akamai Technologiesは、ソチ五輪などの大規模イベントへの対応を示した

CDN大手の米Akamai Technologiesは、ソチ五輪などの大規模イベントへの対応を示した

#interbee2019

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