【ニュース】欧州最大のケーブル、衛星、ブロードバンドに関するコンベンション「ANGAケーブル」開催レポート(2)スマートTVに積極的な取り組み

2012.7.19 UP

ANGA 機器展示会場
DVB-C2対応ヘッドエンド

DVB-C2対応ヘッドエンド

HbbTVのデモ

HbbTVのデモ

DVB-C対応USBチューナー

DVB-C対応USBチューナー

4Grejectionを宣伝するアンテナ

4Grejectionを宣伝するアンテナ

(「ANGAケーブル」開催レポート(1)より続く)

3.3 展示会:B2Bが主体の実用的な交渉の場

 展示会場は、ケルンメッセ10号館の2フロアを使って行われた。BtoB目的が強く出されているので派手な演出は少なく、各ブースでは商談スペースを用意し、ビール、カクテルを用意して昼から飲みながら顧客と話しているのがドイツ的である。以下は、展示会での主な特徴である。


3.3.1 欧州デジタル放送規格 DVB規格が実用化へ:地上・衛星・ケーブル・IPTVの各最新規格が一堂に

 欧州のデジタル放送規格は、放送事業者、メーカ等が参加するDVBが作成し、すでに地上、衛星、ケーブルについて規格を定め、それぞれDVB-T(地上), DVB-S(衛星), DVB-C(ケーブル)としてまとめている。また、共通インタフェースとしてDVB-CIがあり、DVBをとおしたIP伝送(IP over DVB)にも早くから取り組み、一部を標準化しDVB-IPTV規格もとりまとめている。
 DVB-C,T,Sの規格をまとめたのは、1990年代半ばだ。当時の欧州はデジタル放送は、HDTVより多チャンネル志向であったこともあり、HDTV対応と新技術への対応のため、近年規格の見直しを行い、それぞれDVB-T2, DVB-S2, DVB-C2としてまとめた。
 S2はすでに実用化され、衛星でのHDTVサービスが開始されている。T2は、所要CN比が下がり、移動受信特性などが改善されている。T2対応の機器も販売されている。T2, S2については、後から開発した日本方式ISDBに近い方式になったといえるが、C2については、わが国で実用化していない1024QAM, 4096QAM方式を実用化し、最も進んだ伝送方式といえる。
 T2,S2,C2とも誤り訂正には、LDPC(Low density parity check)+BCKを共通採用している。共通インタフェースのCIについても、CI+をまとめCI+対応のカードも展示されていた。
 DVB-C2は2010年から実用化試験が始まり、ソニーが変復調のチップを開発している。今年2月にC2の評価試験が行われ、開発は完了した。ケーブルドイツでは、DVB-C2をVODサービスから導入し、HDTV伝送、DOCSISへ順次組み込んでいく。ユーロDOCSISでは96x8NHz(欧州は1chは8MHz)で4,870Mbpsのスループットが得られているが、4096QAM、3x256MHzで8,010Mbpsのスループットが得られる。C2の実用化でHFCでも当面増加する高速化に十分対応できる。
 今回の展示会では、変復調器、測定器、C2対応ボックス等が展示されていて、C2は実用化段階に入った。


3.3.2 放送・通信連携型テレビ「HbbTV」規格が稼働:通信ネットワークを活用した新たな放送サービスも登場

 HbbTV(ハイブリッドブロードバンド放送)は、EBUが主体となってまとめた規格で、通信ネットワークも活用した放送サービス。ドイツ等ではすでにサービスを開始している。テレビポータル、番組情報提供、番組補完情報、見逃し番組サービス(Catch-up TV)などをデータ、静止画で提供するもので、我が国のデータ放送の連携サービスと同様なものである。
 我が国では、データ放送モードを使用するので、通信網を前提とするものではないが、HbbTVはデータ放送ではなくブロードバンドを前提としている点が異なっている。ドイツではHbbTVサービスの開発のためコンソーシアム(DeutscheTV-Platform)を作り、テレビはHbbTV対応のものが増えている。今回、提案されている各種IPハイブリッドBOXもHbbTV対応となっている。
 データ・静止画は、反応時間は従来のデータ放送よりは早いが、情報量が多いと遅延が生じている。HbbTVはさらにバージョンアップを検討している。現在NHKが中心になって開発しているハイブリッドキャストは、メイン画面での通信・放送連携であるため、ブロードバンドの高速化が進んでいない欧州では、この段階に達するにはまだ課題が残っている。
 なお、我が国のデータ放送では、メイン画面の上にデータ画面を重畳することは、番組を傷つけるものとして運用上認められていないが、欧州ではその規制はなく、メイン画面の上に半透明のデータ画面を重畳している。

 
3.3.3 IPTV対応ボックス:地上・衛星・ケーブルすべてに対応、進む小型・高機能化

 多くの社からHDTV, IPTV, OTT, DVB (T2, S2, C2)対応のハイブリッドボックスが展示された。いずれもWiFi機能を搭載し、タブレット端末からの操作も可能としている。また、一部の機器はアンドロイド搭載であることを宣伝していた。
 各種のボックスは小型化が進んでいる。従来のDVB-SやC対応の単機能チューナーではなく、OTTのアプリを搭載し、機能を複合化し、高度化している。PVR(Personal Video Recorder)機能内蔵のものも多いが、DVD書き込み機能を本体からはずすことで小型化に対応しているのも多い。
 ボックスはメーカーからの提案であり、OTTも含めたシステムとなっている。あるケーブル関係者が OTTを扱うセッションで、次のような発言をしていた。
 「OTTあるいはIPビデオを取り込んでいくことは必要だが、ビジネスモデルは、これまで通り有料多チャンネルで継続したい。現在、加入者の数は減りつつあるが、ブロードバンドとのパッケージで収益は増加傾向にある。通信事業者もスカイプの登場で国際電話市場が大きく変わるなど、収益構造が変化している。ケーブル事業者も、10年後のビジネスモデルは今と同じではなくなることを受け入れなければならない」

 
3.3.4 マルチスクリーンとテレビポータル:IP VIDEOが中核に

 米国の最近のケーブル展示会では定番となっている、マルチスクリーンのための配信システムやタブレット・テレビ画面による総合案内ポータルなどのシステム提案が多数あり、IP Videoが中核の技術になっている。

 
3.3.5 方式変換と事業所対応:IP放送システムがデジタル化の「促進剤」に

 デジタル化対応は戸建住宅では進んでいるが、集合住宅、事業所、ホテル、病院等ではまだ進んでいない。今回泊まったホテルでも、テレビはデジタルテレビ(DVB-T対応)であるが、信号はアナログのみでテレビ放送を見る状態であった。
 欧州では、衛星多チャンネルが主であり、ホテル等でも多チャンネルを伝送する需要がある。地上波だけ再放送すればよい日本とは状況が異なる。衛星受信に対応した集合住宅等のデジタル化には、館内配線を改修して、衛星信号を伝送可能する必要がある。ケーブルであれば、DVB-C対応アダプタを各テレビに追加することで対応できるが、まだ普及の途上である。
 こうした状況に鑑み、衛星やケーブルのデジタル信号をDVB-T信号に変換するシステムや、IPに変換し、IPTVや有料放送を組み合わせたIP放送システムの展示があった。IPの場合はテレビにIPボックスを付ける必要はあるが、十分小型なボックスが実現している。こうしたシステムが導入されれば、遅れているホテル、事業所等のデジタル化が進むことが予想される。
 

3.3.6 中韓の台頭:韓国関連団体がスマートホームをアピール

 440社の出展社のうち、中国から45社、韓国から17社、台湾から9社が出展し、中国のホアウェイ、韓国のサムスン、ヒューマックスなど大企業は大きなブースをもっていたが、中小企業も多数出展していた。韓国はヒューマックスだけでなく、数社がIPハイブリッドボックスの展示を行い、欧州DVBシステムに対応できる技術力の高さを示している。
 大きなスペースを確保している企業は、説明員に韓国人が多いことを除けば、欧州企業と区別がつかないくらい充実していた。また韓国中小企業は、韓国スマートホーム協議会と韓国パビリオンを作り、韓国でのスマートホームに関する展示会をアピールしていた。中国企業の多くは、同軸ケーブル、コネクタなど部品レベルの企業が多いが、地デジ受信用平面アンテナ、IPTVソリューションなど確実に技術力をあげているのがわかる。
 今回の展示会には日本からの出展はなく、セミナーに欧州ソニーの方がDVB-C2の説明をしていただけである。DVB-C2のチップ開発にはソニーヨーロッパが寄与し、欧州市場でのテレビ受信機は韓国企業、欧州企業と並んで日本企業も活躍しているので、日本企業の参加を期待したいところである。


3.3.7 テレビは衛星とケーブルのチューナー内蔵、STBは不要に

 欧州では、DVBが放送規格を標準化しているが、機器の製造・販売は市場にまかせている。デジタル放送開始当初、テレビ受信機はディスプレイのみの「素テレビ」で、チューナは外付けであった。現在販売しているテレビは、地上放送だけでなく、衛星放送、ケーブルテレビのチューナを搭載し、顧客管理にはDVB-CI+のカードスロットを用意している。最新の上位機器には、DVB-S2も内蔵しており、T2, S2の内蔵化も時間の問題である。さらに地上、衛星、ケーブルとも外付けチューナが販売され、DVRも衛星、ケーブルチューナー内蔵が増加している。
 さらに、PC向けにUSB対応の3波(衛星、ケーブル、地上)対応のチューナーも販売されている。価格は100ユーロ程度。地上放送用外付けチューナーは20ユーロから、衛星放送用外付けチューナーは30ユーロ程度から多数の機器がある。HDTV対応のS2に対応するものは100ユーロからある。
 ケーブルチューナーは衛星、地上に比べてやや高く、50ユーロ以下のものは少ない。量販店の特売コーナーでは、ヒューマックス製の録画器内蔵ケーブルチューナーを99ユーロで販売していた。家電量販店では、最新のテレビ、DVR、チューナー、パソコンアダプタ等が多数販売されている。
 米国では、ケーブル、衛星、IPTV事業者そろってこれらの端末機器を支配し、実質的に量販店による自由販売は行われていない。こうした米国の状況を考慮すると、極めて大きな違いであり、欧州はメーカーによる創意工夫が生かされる市場となっている。


3.3.8 遅れるFTTHの普及:加入者数はアジア圏の10分の1程度 意外に遅れている西欧諸国

 欧州FTTH推進協議会によれば、FTTH (直接光配線のFTTHと、建物まで光化しLAN接続をしたFTTBを含む、VDSLは含まない)の加入者数は、アジアが5,430万世帯に対し、欧州は570万世帯と遅れている。欧州の中でも北欧と通信基盤が遅れていた東欧諸国が光化が進んでいるが、西欧では遅れている。また実接続率もEU28か国では2,850万世帯が光接続可能で、実接続数は450万世帯と低い。しかしながら、ケーブルの高速インターネットの攻勢を受け、テレコム事業者も光化、特に集合住宅の光接続を進めていて、ケーブルインターネットとともにEUの超高速ブロードバンド目標(2020年にすべての世帯で30Mbps以上に接続可能)を達成できると予想されている。


3.3.9 RFoGとDPoE:オーロラネットワークがDPoEを提案

 FTTHで既存のDOCSIS設備を使うことを可能にするRFoG(RF over Glass、次世代のCATVネットワーク技術)については、すでに製品化が進み、展示会でも多くのソリューションが提案されている。これにより家庭内は同軸のままケーブルモデムが使用できるが、上り信号の衝突の課題なども示されている。
 セッションでオーロラネットワーク社は、FTTH化へのソリューションとしてEPON (Ethernet Passive Optical Network)にDOCSISを使用可能とするDPoE(DOCSIS Provisioning on EPON)(ケーブルラボで開発中)に着目した提案を行い、FTTHへの道筋を示している。


3.3.10 LTEとの干渉

 HFCケーブルでは、862MHzまでのチャンネルプランを示しているが、LTEの800MHz帯への割当により、LTE基地局からの妨害が懸念されている。欧州ケーブルテレビ協議会ではすでにEMC対策など対応案をまとめている。一方、DTT直接受信者も、高いチャンネルの場合、干渉を受ける可能性があるので、アンテナメーカーはLTEの排除能力を向上したアンテナを提案している。


4 欧州でもブロードバンド、IP、スマートテレビへ意欲的な取り組み目立つ

 ANGAケーブルはSCTEと同様に多くのメーカー、事業者が参加する展示会とセッションであり、共通点は多い。日米欧ではデジタル化の取り組み状況やケーブルの置かれている地位も異なるが、参考になる点は多い。
 ケーブルテレビのブロードバンドシェアが高くない欧州でも、ケーブルがブロードバンド、IP、スマートテレビに正面から取り組む姿勢が意欲的である。台頭する中国・韓国に比べて存在感のない日本企業であるが、今後の参加を期待したい。(日本CATV技術協会 審議役 浅見洋)

 この項終わり

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4Grejectionを宣伝するアンテナ

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