【ニュース】NHK放送技術研究所 一般公開 報告(1)SHV(スーパーハイビジョン)が正式にHFR(ハイフレームレート)化 次世代テレビは120Pへ
2012.5.31 UP
145型プラズマディスプレイは同方式としては初のフル解像度機
今年4月に技研所長に就任した藤沢秀一氏
SHVの上映作品「スペースシャトル 最後の打ち上げ」
5月24日から27日までの4日間、NHK放送技術研究所(以下、技研)の一般公開が東京都世田谷区の同研究所で行われた。今年はスーパーハイビジョン(SHV)用カメラの小型化が進み、フル解像度のプラズマディスプレイも登場した。また、120fpsへ向けた研究が本格化していた。裸眼立体視は、ハードウェア仕様は同等ながら、信号処理により立体感を大幅に改善がなされていた。(映像新聞 論説委員 杉沼浩司)
■技研の4大テーマ
技研の研究テーマについて、 NHK放送技術研究所の藤沢秀一所長は、
1)ハイブリッドキャスト
2)スーパーハイビジョン
3)インテグラル立体テレビ(裸眼立体視)
4)「人にやさしい放送」の技術開発
ーーの4つを挙げた。1−3の3つは、将来を指向したテーマ、そして4つめは普遍的なテーマとして位置づけている。
1)のハイブリッドキャストは、海外でサービスが一部始まっている「セカンドスクリーン」をより多機能化すると同時に、多様なデバイスに展開することを目指していると見られる。
2)のスーパーハイビジョンは、試験放送開始の目標まで10年を切った。まだ、地上放送については技術開発の途上であるが、衛星放送については目処が立ちつつあるようだ。今年は、カメラ、ディスプレイに加えて、局内の伝送、交換についても進展が見られ、実用化への準備が進んでいることが見てとれた。
3)のインテグラル立体テレビは、30年先のものであり、まだ基礎研究の段階といえるだろう。走査線本数8000本級というSHVの倍の映像システムを用いても、NTSC解像度以下の立体映像しか得られない。HDTV並の解像度を持った立体映像を得るには、背後に置かれる映像システムはSHVの数十倍の解像度が必要となる。
4番目のテーマである「人にやさしい放送」技術の開発は、常に必要とされるものだ。このテーマの一環として開発されているものとして、手話CGへの自動翻訳や外国人向け日本語変換がみられた。また、今年は背景音のレベルを受信側で調整する背景音レベル調整システムが登場した。
■技研講堂でSHVの最新デモ映像を上映
技研講堂では、SHVミニドキュメンタリー作品「スペースシャトル最後の打ち上げ」が上映された。マルチカメラ撮影、夜間撮影などが取り込まれており、一般的な番組で必要とされる多くの要素を満たすに至った。
スチュワート製300型のスクリーンを用いることで、SHVの設計パラメータにある視聴距離0.75H(Hは画面高)、見込み角110度を満たすことが、多くの座席でできなくなった。最前列では、従来並の臨場感が得られたはずであるが、講堂後部の座席においてはHDTVと同様な見込み角になったと考えられる。この場合の臨場感をHDTVや4Kデジタルシネマと比較することも、研究の上では必要ではないかと感じられた。
■品質を保持しながら劇的に小型化したSHVカメラ
大きく重かったSHVカメラが劇的に小型化された。従来の2.5型3300万画素CMOS撮像素子による3板式のフルスペック機は、カメラヘッドとレンズを合わせると65キログラムもの重量になる。その後開発された1.25型800万画素CMOS撮像素子を4枚用いた「画素ずらし方式」カメラは、30キログラムに軽量化された。
今回出展された「小型カメラ」は、2.5型3300万画素CMOS撮像素子を単板で用いている。レンズは市販品が使用でき、重量は5キログラムと大幅に削減された。
解像度は3400TV本以上(フルスペック機4300TV本、画素ずらし方式機3200TV本)。画素ずらし方式カメラと小型カメラはベイヤ配列により色処理を行っている。小型カメラでは、色信号処理に新開発の方式を用いて、単純なベイヤ配列信号処理より解像度等に優れていた。
■静岡大学との共同開発で120Pに対応した撮像素子が登場 液晶パネルも120P対応で一工夫
今回、SHVの展示において、初めてフレームレート120Hz(120P)化に伴う技術が現れた。
一つは、120Pに対応した撮像素子である。今回、高速AD変換器に独自の技術を持つ静岡大学との共同開発で1.5型3300万画素CMOS撮像素子が完成した。デモでは、この素子を用いて撮影した映像がHD解像度にダウンコンバートされて120P対応のテレビに表示されていた。パン部分などで、明らかに画像のボケが減少しており、非常に快適な絵となっていた。
一方、出力の側も120Pへの対応が始まっている。8K×4Kの投射用液晶パネルの120P化は難しいため、4K×2K@120Pのパネルを用いて、画素をずらすことで8K×4K表示に対応させたプロジェクタが展示された。画素をずらすためには、電圧を印加すると屈折率の変化が起きる「e-shiftデバイス」を使用する。
展示では、このデバイスによるプロジェクタの映像をリアプロジェクションにて投射し、60P映像との違いを見せていた。馬術やチアリーディングのシーンが使われたが、速い動きに限らず、多くの動きで動画のボケを効果的に抑えていた。
SHVは、120Pと決定したことで、従来の懸案だったボケをほぼ抑圧できそうだ。次の課題は伝送となる。(つづく)
145型プラズマディスプレイは同方式としては初のフル解像度機
今年4月に技研所長に就任した藤沢秀一氏
SHVの上映作品「スペースシャトル 最後の打ち上げ」