【NEWS】NHK技研公開 多彩なハイブリッドキャストサービスを披露 8Kでの新たな活用方法も提案

2013.7.5 UP

民放・有料放送各局もハイブリッドキャストのアプリケーションをデモした
スクロールニュースは画面に重畳でき、随時最新情報を呈示する

スクロールニュースは画面に重畳でき、随時最新情報を呈示する

将来型では、画面内文字部分をネットから得た他言語テキストに入れ替えも可能

将来型では、画面内文字部分をネットから得た他言語テキストに入れ替えも可能

8K画面を活かして、複数のHD映像を用いたハイブリッドキャストによる番組構成例

8K画面を活かして、複数のHD映像を用いたハイブリッドキャストによる番組構成例

 5月末に行われたNHK放送技術研究所(以下、技研)の一般公開では、ここ数年ハイブリッドキャストが1階エントランスホールに展示場所を得ている。ハイブリッドキャストは、放送と通信を連携させ、多彩なアプリケーションを提供する原動力となる次世代の基幹技術だ。今年度中に、この方式での試験サービスが始まるとされており、多くのアプリケーション例がホールに示されていた。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)

■魅力あるサービスへ
 ハイブリッドキャストは、その名の通り放送と通信という異なる方式を掛け合わせて新たなサービス提供を行うものだ。低コストで広く情報を流せる放送の利点と、きめ細かいサービスを実現する通信の利点の双方が活きることを狙っている。
 放送を視聴しながら、テレビ受像機やSTBで専用のアプリ実行し、新たなサービスを利用できる。たとえば、番組の内容や進行に合わせた情報提供(連動型サービスの場合)がある。また、番組お薦め、拡張型電子番組表、ニュース(以上、独立型サービス)もサービス事例として挙げられている。これらは、従来の枠組みでは実現が不可能だったものだ。例えば、番組画面にかぶる形でアプリケーションが動作し、ネットから連続的に情報を取得しサービスを提供することは、現行の枠組みでは無理である。
 このような新機軸の実現のために、放送送出側はほとんど改修を必要としない。少なくとも、ハードウェア的には現在の施設で実施可能だ。その代わり、アプリケーションを提供するサーバを用意しなければならない。また、アプリケーション用サーバに、番組のメタデータを随時提供することが必要な場合もある。電波に関わる部分の負担は軽く作られている、とこれまで発表されてきた仕様(2011年5月版等)から見てとれる。一方、ITに関わる部分はサービスレベル次第で、一律に何を導入、というものではない。事業者の判断によりサービスレベルを調整できる作りとなっている。なお、ハイブリッドキャスト受信側は、HTML5ブラウザを装備したSTBもしくはテレビが必要になる。この点の周知徹底が必要になるとみられる。

■制度の準備整う
 日本の地上デジタル放送では、データ放送の方式および、その上に乗るサービスが厳密に規定されている。種々のデータはMPEG-2 TS(トランスポート・ストリーム)にまとめられるが、このTSの形式ばかりか、どの情報をどのようなプロトコルに乗せるかも規定されている。米国の場合、TS内にはAVサービス関連(映像・音響・EPG等の制御情報)とそれ以外、という大区分のみ規格で規定し、「それ以外」に相当するデータ放送関連は原則自由とした。その為か、データ放送は全くといって良いほど拡がっていない。
 BMLという世界的に見て異端の制御言語を採用したり、データ放送の自由度が少ないことに対する批判は以前よりなされている。しかし、厳密な規格化がなされたおかげで、データ放送機能を装備したテレビ受信機では、どのサービスも受信できている。その面では、規格化の利点が発揮された状況にある。
 一方、規格外の信号は、たとえ他のサービスに影響が出なくても流せないとあって、たとえば放送波にIP信号を乗せることはできない模様だ。ARIB(電波産業会)が規定した標準規格「デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式」(STD-B24:5.7版)によれば、IP伝送時に考えられる「TSパケットの直接ペイロードに収容する方式」は、「(同方式に)ついては拡張仕様として将来必要となった時点で規格策定を行う」とされており、まだ規格化がされていないことがうかがえる。
 そのような中、ハイブリッドキャストでは、データ伝送に関わる部分は「放送波を通じたアプリケーションの制御」という部分のみ、B24規格に追加する形で実現する模様だ。今年3月に発行されたB24規格第5.7版(最新版)の第四編として追加された部分が、STBなどのアプリを制御するための規格である。規格の他の部分を変更せずに、追加のみで新サービスの準備をしている。現行の厳しい制約の中で、多彩なアプリケーションの実現を目指したのがハイブリッドキャストと考えられる。

■民放サービスも出展
 今年の公開では、前出の番組連動型に加えて、独立型サービスも展示され、種々のサービス形式が揃った。独立型サービスでは「アクティブ番組表」が、NHKの持つ四波を横断的に表示していた。この番組表は、現行のEPG番組表が1週間分であるのに対して、過去30日、未来8日分の情報を蓄積している。ここから、番組予約、VoD呼び出しが行え、従来の昨日固定なテレビ内蔵EPGよりも柔軟な利用を可能としている。
 同じコーナーではアーカイブス・ポータルである「TV60見のがし・なつかし」や常時画面内にニュースを表示する「スクロールニュース」も示され、従来のデータ放送では見られなかったサービスが可能になることを示していた。
 隣では、民放・有料放送各社が計画するサービス例も展示された。各社とも、細部にこだわった丁寧な作りを見せており、放送が始まればこれを活用し番組価値を向上させたいという意気込みが見えていた。

■8K画面に複数HD
 HTML5ブラウザの搭載など、受信側のソフトウェア拡張ですむ初期のハイブリッドキャストに対して、ハードウェア支援を得て用いる、より高度な機能を持ったサービスも考えられている。将来サービスとしては、放送では送りきれない多言語の字幕をハイブリッドキャストで画面に重畳させるものや、視聴者が書き込んだ情報の共有などが考えられている。また、本格的なセカンドスクリーンや、ネット経由の映像と放送映像の混在なども将来計画にある。これらは、STBまたはテレビ受信機にネットとの間の同期機能を持たせる必要があり、パケットの遅延やゆらぎを吸収するためのバッファが必要になるとみられている。そのようなコストアップが吸収できるのか、など実現上の疑問点はあるが、現行サービスの限界を突き破る可能性を秘めた構想だけに、短兵急な判断は禁物であろう。
 ハイブリッドキャストのように、テレビ上の情報機能をネット連携により強化する構想として、欧州のHbbTVがある。初期のHbbTVは、テレビ単体の利用が考えられていたが、バージョン2.0以降はセカンドスクリーンの利用も担当範囲に収めている。この欧州発の規格に対して、いかに戦い、ISDB採用の諸外国にハイブリッドキャストを広めてゆくかについては、まだ未知数である。映像新聞社のIBCツアーでは、今回、このHbbTVの総本山ともいえる、ドイツの研究所IRTを訪ね、欧州におけるHbbTVの現状などを確認してくる。筆者も同行するので、その状況をまたご報告する予定だ。
 今回、ハイブリッドキャストの将来性を最も感じさせたデモは、8Kモニターを使って行われた。マラソン中継において、複数箇所からのハイビジョン画像と選手データ、選手位置情報(地図)を配し、状況把握を容易にする試みが示された。1月のCESにて米クアルコムが自動車レース「NASCAR」を題材に行ったデモを彷彿とさせるものである。実現方式は何であれ、多角的に情報を得られることは番組への集中を増し、同時に視聴者の満足につながる。電波(放送)では足りない部分は通信を使い、コンテンツ価値を高める。放送と通信が有効に連携する姿は、間もなく当たり前のものとなるだろう。

スクロールニュースは画面に重畳でき、随時最新情報を呈示する

スクロールニュースは画面に重畳でき、随時最新情報を呈示する

将来型では、画面内文字部分をネットから得た他言語テキストに入れ替えも可能

将来型では、画面内文字部分をネットから得た他言語テキストに入れ替えも可能

8K画面を活かして、複数のHD映像を用いたハイブリッドキャストによる番組構成例

8K画面を活かして、複数のHD映像を用いたハイブリッドキャストによる番組構成例

#interbee2019

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