【ニュース】欧州最大のケーブル、衛星、ブロードバンドに関するコンベンション「ANGAケーブル」開催レポート(1)テレビ画面でアプリの利用が可能に
2012.7.17 UP
会場となったドイツ・ケルンメッセ
ドイツにおけるテレビ視聴者の割合
ANGAのブラウン会長
筆者も登壇した国際技術サミット
ドイツ・ケルンで6月12日から14日、ケーブルテレビ・衛星放送・ブロードバンドの総合展示会とセッション「ANGAケーブルショー」が開催された。ドイツケーブルテレビ連盟(ANGA)が主催する催しで、展示会には33か国から440社が出展。入場者は16,500名で半数はドイツ以外からの来場であった。会場のケルン・メッセはドイツ有数の総合展示会場であり、ANGAケーブルでは27,000平米の展示スペースを使っているが、まだ十分拡張の余地があった。欧州における放送・インターネットビジネスの融合とそれに伴う新たなビジネスの構築の状況を見ることができる貴重な催しといえる。欧州の放送市場の状況の紹介を交えて2回にわたり報告する。
(日本CATV技術協会 審議役 浅見洋)
1 概要:テーマは「ブロードバンドとコンテンツの出会い」
ANGAケーブルショーは、欧州のケーブルテレビ業界における展示会としては最大規模である。欧州最大のケーブル加入者を誇るドイツが、さらに衛星放送を加え、欧州の放送展示会として展開。IBCとは差別化を図り、有料放送、ブロードバンドの機器展として順調に発展している。
欧州のケーブルテレビ関連の催しとしてはこのほか、欧州のケーブル事業者連盟であるケーブルヨーロッパが毎年開催している「ケーブルコングレス」と呼ぶ催しがある。こちらは会議・セミナーが主体となっている。
ANGAケーブルショーの今年のテーマは、ブロードバンドとコンテンツの出会い(Where Broadcast meets Contents)で放送事業者、ネットワーク事業者、コンテンツプロバイダの多くの参加を求め、ハイブリッドネットワーク、ビデオオンデマンド、コネクテッドホームをテーマに掲げている。19の技術テーマセッションがあった。
ANGAは昨年から、米国のSCTE(米国のケーブル技術協会)との関係を強化している。筆者は、昨年のSCTEエクスポの国際パネルに参加したが、その際、ANGA関係者も登壇していた。今回、ANGAケーブルで国際技術サミットを開くことになり、筆者が招待を受けて参加することとなった。
2 欧州・ドイツの放送市場:衛星で国境を越えた視聴も
2.1 ケーブル加入者数
欧州にも、テレビの視聴方法として、地上波、ケーブル、衛星の3つの方法がある。EUでは、衛星放送は国境を超えて番組を提供することが認められている。地上波放送局は衛星及びケーブルにも同じ番組を提供しているので、衛星またはケーブルに加入すれば、地上波のアンテナを設置する必要はない。また、衛星放送も無料番組が多く、欧州では最も普及したメディアになっている。
主要国のケーブルテレビの加入者数は以下のとおり。ドイツの加入者が最も多く、またケーブル普及率では、オランダ、ベルギーが高い。
■欧州の国別ケーブル加入者数(単位は百万)
△ドイツ(18.4)
△オランダ(5.1)
△ポーランド(4.5)
△フランス(3.9)
△英国(3.8)
△ベルギー(3.4)
△スイス(2.8)
(出典:HIS Screen Digest)
ドイツでは、ケーブルテレビ事業者のMSO化が進んでいる。もともとドイツテレコム(旧郵電省)がケーブルテレビを運営していたが、テレコム再編成と共に、ケーブルテレビは分離・民営化され、ケーブルドイツ(Kabel Deutschland)社他、大手3社に集約されている。このうち一部の州を運営しているケーブルBW社をリバティグループが買収し、欧州のMSO化が一層進んだ。
ドイツの放送視聴形態は、ケーブル加入者数が衛星受信者数を超えている数少ない国である。
2.2 アナログ停波とケーブルのデジタル化
地上アナログ波の停止は欧州各国でも進められており、ドイツでは2008年にアナログ放送が終了している。地上波を直接受信していた世帯は10%以下で、多くは衛星またはケーブルで受信しているため、状況が異なる。
衛星放送は、すでに伝送方式はデジタル化しているが、受信しているテレビはアナログのままの世帯が多い。また、ケーブルの場合、現在でもアナログ伝送とデジタル伝送を併用しており、欧州全体のケーブルデジタル化比率は2011年で42.5%である。ここでいうアナログ伝送とは、衛星経由の電波をアナログに変換するか、地元の放送局であればスタジオからの信号を直接アナログで放送することを指す。日本のいわゆる「デジアナ変換」のことではない。ドイツの場合、2011年段階でケーブル加入者の3分の2はアナログで視聴している。
ケーブルでのアナログ伝送が多い点が、日本との大きな違いだ。それは地上波放送のデジタル化のねらいが日本とは異なっているという点に原因がある。欧州ではHDTV化よりも多チャンネル化が地上波放送の当初の大きなねらいであった。しかし、すでに多くのチャンネルを視聴できる衛星、ケーブルの加入者にとっては、地上波放送の多チャンネル化は魅力にはならなかった。そのため、伝送路のデジタル化も積極的ではなかった。
しかし最近では、衛星、ケーブル会社とも、HDTV番組を充実させており、デジタルテレビの普及とともに、デジタル(HDTV)加入を推進。ドイツのケーブル会社は数年のうちにはアナログを終了するという意向を表明している。
2.3 ブロードバンド市場
ケーブルテレビ回線による高速データ通信規格の欧州版「ユーロDOCSIS」(8MHz)の標準化により、 ケーブルインターネットは急速に普及している。欧州でのケーブルネット加入者数は560万世帯に達した。
しかし、まだテレコム事業者のDSLに比べれば少ない。ドイツでもケーブルテレビのブロードバンドシェアは10%台で、テレコム事業者に比べて小さい。現在は30Mbpsを超えるスピードを活かしてハイエンドの顧客獲得を積極的にとりこみ加入者を伸ばしている。
※ DOCSISは、ケーブルテレビ回線による高速データ通信の規格、ユーロDOCSISは8MHzの欧州規格
3 ANGAケーブル:スマートテレビ、ハイブリッドネットワーク、ビデオオンデマンドが主なテーマに
3.1 ANGA会長があいさつ:「番組提供者の国際交流の場に」
ANGAブラウン会長は開会式の挨拶で次のように述べている。
「ANGAケーブルは、ネットワーク事業者、サプライヤー、番組提供事業者の協業の場として発展してきた。ブロードバンドとインターネットの伸びは著しく、スマートテレビが登場している。テレビ画面でもネットのアプリが使えるようになっている。
そこで今回のANGAケーブルでは、スマートテレビ、ハイブリッドネットワーク、ビデオオンデマンドを主要なテーマとした。今年は会場を拡大し、海外から多くの参加者を招いている。国際技術サミットという新しい試みも始めた。欧州4000万世帯の市場を対象にネットワーク事業者、サプライヤー、番組提供者が国際的に交流する場になることを期待している」
3.2 セッション
セッションには、3つのサミット(討論会)と16のテーマパネル(プレゼンと討論)があり、サミットには10人程度のパネリストが参加し、パネルには司会と4名程度の発表者で構成されている。
3.2.1 国際技術サミット(International Technology Summit)
欧州、米国、日本から約10名が参加してコネクテッドホームについて議論した。参加者は、ケーブル事業者から6名(ケーブルドイツ、コムヘム(スウェーデン)、ユーシー(デンマーク)、リバティ(オランダ)、ZON(ポルトガル)タイムワーナ(米国))、メーカー2名(NDS(フランス),アリス(米国))、関係団体2名(SCTE(米国)、JCTEA(日本))であった。
各国、各事業におけるコネクテッドホームの実情、今後の展望について90分にわたって議論した。ケーブル事業者からはそれぞれのマルチスクリーンやIP化の取り組みなどの紹介があった。SCTEからは標準化の重要性が指摘された。JCTEAからは、日本ではデジタル=HDTVであり受信機のほとんどはデジタル化され、ネット接続対応済で、コネクテッドホームでケーブルテレビは重要な役目を持っているが、実際のテレビのネット接続率はまだ高くないことなどを紹介した。
(「ANGAケーブル」開催レポート(2)に続く)
会場となったドイツ・ケルンメッセ
ドイツにおけるテレビ視聴者の割合
ANGAのブラウン会長
筆者も登壇した国際技術サミット