【コラム】4K試験放送始まる 世界最高画質の映像を放送 25日からは4K試験放送対応の市販製品も登場
2014.6.6 UP
4Kテレビが並ぶと,その空間だけ解像度が高まった感がある(CES2014にて撮影)
8Kも実験が進む.日本はUHDTVの全解像度を同時に試験,実験する国となる
6月2日より、次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)によって4Kの試験放送が開始される。CS放送に設置される4K専門チャンネル「Channel 4K」から流される。これまで4Kのテレビはあっても、4Kコンテンツは無く、4Kテレビを活かすことができなかった。しかし、試験放送とはいえ、放送が始まることで4Kコンテンツに触れる機会が確保された。従来の、ハイビジョンをアップコンバートした映像とは異なる美しさを堪能できると期待されている。4Kの試験放送は世界で初めてではない。しかし、一番乗りか否かよりも、日本で4Kに接する機会が整備されたことが重要だ。今回は、4K放送の状況を整理する。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)
(上写真:受信対応の製品が発売になれば、4K対応テレビで4K番組を見られる(CES2014にて撮影))
■6月25日から市販品による視聴も可能に
NexTV-Fが124/128度CSデジタル放送(チャンネル番号:502)に開設する4K専門チャンネル「Channel 4K」において、6月2日より試験放送が始まる。4Kに対応した専用チューナーを用いることで、4K放送を視聴可能となる。
一般に、試験放送は、実験試験局による実験が完了した後行われ、この後実用化に向かう(実用化試験放送が行われる場合もある)。試験放送に達したということは、技術的には実用化が近いことを示している。今回は、長期間の実験試験局での運用がなされていないので、やや変則的と言えるかもしれない。
6月2日に試験放送が始まる段階では、4K専用のチューナーが市販されない。そのため、一般の人々が手許の4Kテレビでコンテンツを楽しむことはできない。この段階では、極めてクローズドな試験といえる。ただし、6月25日からはシャープが4Kに対応したレコーダー「AQUOS 4Kレコーダー」を販売する。この装置を入手し、開通契約を行えば衛星からの4Kコンテンツを受信できる。本格的に4Kが人々の目に触れるのは、6月25日以降といえるだろう。
■画質重視の技術仕様 4K60P 2020色域 映像符号化はHEVC採用
試験放送の技術仕様は5月19日に「高度狭帯域伝送方式における4K放送の運用に関する技術資料」として公開された。資料番号はTR-003である。ARIB(電波産業会)では、規格には「STD」、運用規定には「TR」との略語を冠している。この表記手順に従ったと考えれば、19日に発表された技術資料は運用規定に相当するものと言えよう。今回の4K放送にARIBが運用規定を決めていないのは、狭帯域CS放送の運用規定は放送事業者にて決定、とのARIBの体系があるためと見られる。
公開された技術仕様によれば、映像符号化(圧縮)にはHEVCが用いられ約35Mbpsのビットレートが割り当てられる。オーディオはMPEG-2 AACで、5.1チャンネルまで対応する。この時ビットレートは約500kbpsになる。HEVCのプロファイルはMain10(符号化深度10ビット)であり、これまでの放送で使われてきた8ビットより2ビット多く割り当てられている。
映像パラメータは、フレーム周波数は60P(正確には、59.94P)、表色系はITU-R BT2020に規定された色域(通称:2020色域)が採用された。現在考えられる、最も広い色域を採用しており、今後機材やポストプロ設備が2020色域に対応すれば、豊かな色彩を表現できることになる。今回の仕様を見ると、世界最高の画質を提供しようという意志が見てとれる。
■4K制作によるコンテンツが放送
流されるコンテンツは、HDをアップコンバートしたものではない。放送事業者が4Kで制作したコンテンツとなる。
既に、ドラマやドキュメンタリーなどがNexTV-F参加各社により蓄積されているし、試験放送の間にも制作が続けられる。さすがに、ニュースの4K化は報じられていないが、制作を試す事業者が登場するかもしれない。
試験放送開始直後にFIFAワールドカップが開催されるが、このコンテンツが流されるかは明らかになっていない。ただ、今回のワールドカップは8K撮影もなされるため、技術的にはコンテンツの4K化は比較的容易に行えるだろう。
■韓国は地上波で実験
海外でも4Kの放送に向けた取り組みが進んでいる。韓国では、KBS放送が中心となり過去2回の地上波実験放送が行われ、3回目がこの3月から始まっている。初回は2012年9月1日から12月31日、2回目は2013年5月10日から10月15日であった。韓国の地上デジタル放送は、米国と同じATSC方式(変調は8VSB)だが、これでは十分なビットレートを確保できない。そこで、実験のためにDVB-T2を導入している。初回は、30Pの映像を約30Mbpsで送出した。2回目は、60Pの映像を約25Mbpsで送出している。送信所は、ソウル市近郊の冠岳山(クァナッサン:海抜660m)で、過去2回とも出力は100Wであった。
3回目は、今年3月24日より始まり、12月31日まで続けられる。今回は、Main10プロファイルを採用し、符号化ビット深度を10ビットに取っている。3回目の実験は、出力が高まる。まず、ソウル市内の南山(ナムサン:海抜262メートル)に設置された600Wの送信機から放送を行い、次いで5月からは冠岳山の5kW送信機が使用される。SFNも実験計画に挙げられている。KBS放送は、実験期間中に仁川で開催されるアジア競技大会(9月・10月)のライブ送信も計画している。KBS放送は、2015年に4K地上波放送開始を目指しており、政府と折衝中という。
■2018年の韓国冬季オリンピックは8K試験放送に
韓国では、衛星放送およびケーブルテレビで4Kを送出するための規格は2013年に策定されている。試験放送は今年、本放送は2015年が予定されている。
一方、韓国の地上波試験放送では2015年に符号化信号形式に4:2:2を採用するという。更に、HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)も採り入れ、2018年の平昌冬季オリンピック開催にあわせて8K試験放送を行う予定が明かされている。
■世界各国で進む4K実験 真の4K視聴体験が普及の鍵に
欧州でもスペインの衛星通信企業HISPASATが4Kの実験を行ってきた。米国でも、今年後半からのケーブルおよび衛星での商用サービスに向けて準備が進んでいるようだ。
試験放送から本放送にそのまま移行するか、試験放送の仕様が何度も改訂されるかは、各国、各地域の状況により異なるだろう。しかし、4Kテレビを購入した人々は、真の4Kコンテンツを視聴することを望んでいるはずだ。仕様の小修正程度であれば、ソフトウェアで吸収できる。それゆえ、本放送にあわせて製品化、などという製品計画を立てていては後塵を拝するのみとなる。試験放送段階でも、多くのチューナー製品が登場し、4Kコンテンツに触れ易くなることを望む。
4Kテレビが並ぶと,その空間だけ解像度が高まった感がある(CES2014にて撮影)
8Kも実験が進む.日本はUHDTVの全解像度を同時に試験,実験する国となる