【SIGGRAPH 2011】SIGGRAPHにおける注目論文(1)映画『猿の惑星:創世記』の表現技法を披露 〜12月 香港開催のSIGGRAPH ASIAへ向け〜

2011.10.29 UP

画像(a)、(b)WETAのSIGGRAPH論文より
画像(c)映画「猿の惑星」より

画像(c)映画「猿の惑星」より

 12月12日から15日までの4日間、香港でSIGGRAPH ASIAが開催される。アジアでの開催は今回が4回目となる。機器展示やエマージングテクノロジーなどでは、アジアならではの企業や地域のプロダクションが出展するなど、SIGGRAPH ASIAの特徴が生かされているが、論文などセッションに関しては、SIGGRAPHと同様、世界中から応募された論文に対しての査読など、米国で開催されるSIGGRAPHとまったく変わりなく、SIGGRAPHの学会としての位置づけがなされている。そういう意味で、SIGGRAPH ASIAにおける論文発表の傾向や話題は、夏のSIGGRAPHを引き継いでいると言えるだろう。
 そこで、まずは、今年8月7日から11日までの5日間、カナダのバンクーバーで開催されたSIGGRAPH における論文発表の状況をご報告し、続いて、SIGGRAPH ASIAの傾向をご紹介して行く。(倉地紀子)

■制作改善手法と技術革新のバランスがとれたセッション
 今年のSIGGRAPHで開催された技術セッションでは、プロダクションワークと連動した技術開発と、CG以外の分野の最新技術を導入してこれまでのCG技術のハードルを高めようとする努力とがバランスよく配合されていた。またビジュアル・エフェクツの分野への立体3Dの浸透はボリューメトリックなビジュアライゼーション技術の進化に対する要望の高まりを生みつつあり、技術セッションの数々にはそういったバックグラウンドも反映されていたように思われた。


■論文セッション「Volume & Photons」で際だったウェタの論文発表
 ”Volume & Photons “と題した論文セッションはその代表的なものといえ、中でもウェタ・デジタル(WETA DIGITAL)社から発表された新しいサブサーフェース・スキャタリング・モデルは、今年発表された数ある論文の中でも理論・実用の両面で際立って画期的な手法として高い評価を得ていた。現在プロダクションで最も一般的になっているサブサーフェース・スキャタリング・モデルは、2001年のSIGGRAPHで発表されたBSSRDFモデルがベースになっている。
 ここではサブサーフェース内で散乱を繰り返す光がつくりだすエフェクトを、仮想的な点光源がつくりだすエフェクトで置き換えて計算を効率化していた。今回の新たなモデルは、このBSSRDFモデル(特に仮想点光源の配置)を根底から見直したもので、奥の深い洞察と粘り強い解析によって計算精度を高めながらも、最終的にはガウス関数の線形結合というシンプルで計算効率のよいモデルに帰着させているところが大きな特徴となっている。

■時間軸を用いた光分散の解析
 モデルの単純化の要となったのは、光のディフュージョンという現象を、従来のようにサブサーフェース内での光の分散が平衡状態に達した時点のみで解析するのではなく、平衡状態に達するまで時間軸に沿って解析している点で、プレゼンではこの時間軸に沿ったディフュージョンの解析の最も初期の参考文献として1905年のアインシュタインの論文が挙げられており、その意外な関連性も観客の関心を惹きつけていたようだ。

■映画『猿の惑星』で導入へ
 ウェタ・デジタル社では、今後のあらゆる映画プロジェクトでこの新しいサブサーフェース・スキャタリング・モデルが導入されてゆくそうで、その最初の代表例が『猿の惑星』であるという。作品中の主役キャラクターにあたる猿(シーザー)の顔の表情のリアリティは圧巻といえ、そのリアルな皮膚の質感をつくりだすために上記のサブサーフェース・スキャタリング・モデルが大きく貢献したそうだ。

【画像説明】(上=画像(a)(b)、下=画像(c))

 画像(a):従来のBSSRDFモデルを導入したスキンシェーダー用いて人間の顔をレンダリングした結果。
 画像(b):今回の新しいBSSRDFモデルを導入したスキンシェーダーを用いて同じ人間の顔のモデルをレンダリングした結果。
 (a)と(b)の大きな違いは、唇の質感で、従来のBSSRDFモデルでは物体表面の細かな形状の変化に起因する光のエフェクトの変化をうまく表現できなかったのだが、今回の新しいBSSRDFモデルではより正確に仮想光源を配置することによってそのような微妙な光のエフェクトの変化も表現することが可能となった。

 画像(c):映画「猿の惑星:創世記」では、今回の新しいBSSRDFモデルが、猿の顔のリアルな質感をつくりだすために大きく貢献しているという。

 ●画像(a)(b)
(c)20011 ACM, Inc.
 論文名“A Quantized-Diffusion Model for Rendering Translucent Materials”
(Eugene d’Eon and Geoffrey Irving, Weta Digital)より

 ●画像(c)
 映画『猿の惑星:創世記』より
 2011年10月7日(金)より、TOHOシネマズ 日劇他全国公開中
 配給:20世紀フォックス映画
 © 2011 Twentieth Century Fox Film Corporation

画像(c)映画「猿の惑星」より

画像(c)映画「猿の惑星」より

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