【InterBEE2011】世界第三位の放送市場規模を誇るブラジルから地上デジタル放送(ISDB-TB)の方式設計者が来日 サンパウロ大学マルセロ・ズッフォ教授が講演

2011.10.27 UP

サンパウロ大学 マルセロ・ズッフォ教授
サンパウロ大学コンピュータ・エレクトロニクスセンター

サンパウロ大学コンピュータ・エレクトロニクスセンター

昨年の第1回伯日DTV推進会議

昨年の第1回伯日DTV推進会議

講演を行った女子美術大学大学院 為ヶ谷秀一教授

講演を行った女子美術大学大学院 為ヶ谷秀一教授

来日予定のライザ・カロリニ氏と為ヶ谷氏

来日予定のライザ・カロリニ氏と為ヶ谷氏

 日本の地上デジタル方式であるISDB-T方式を拡張したISDB-TB(別名:SBDTV)方式を採用したブラジルから、ISDB-TB方式の設計で主導的な役割を果たしたサンパウロ大学のマルセロ・ズッフォ教授らが来日し、InterBEEの初日、11月16日の13時から14時30分まで、国際会議場において招待講演を開催する。

■ブラジルのデジタル放送関係者が来日、日本の放送業界との協調を呼びかけ
 講演テーマは『地上デジタル放送における日本とブラジルのコラボレーション ~現状と将来~』(サンパウロ大学 教授 マルセロ ズッフォ氏、ブラジル科学技術省IT担当 ジェネラル コーディネイタ アンテノール コレア 氏)と、『ISDT-TB技術のバックグラウンド』(サンパウロ大学工学部博士課程 ライザ・カロリニ・コスタ・デ・ビアジ 氏)の2つ。
 
 今回の招待講演は、昨年末にブラジルで開催された「第1回伯日DTV推進会議」に端を発するもの。ブラジルでは、次世代デジタルテレビ技術開発への関心が高まっており、その一環として、日本との共同研究実現を目指した「第1回伯日DTV推進会議」(主催:サンパウロ大学、会場:サンパウロ大学 コンピュータ・エレクトロニクスセンター)が2010年12月6-8日の3日間開催された。日本から6名の研究者が基調講演を行い技術開発の状況を紹介。ブラジルからも17名の研究者が講演し、次世代に向けた協力関係の構築を訴えた。

■「次世代の放送方式へ向けて共同研究を進めたい」
 第1回伯日DTV推進会議は、ISDB方式選択とISDB−TB方式の設計で主導的な役割を果たしたサンパウロ大学のマルセロ・ズッフォ教授を中心に企画された。ズッフォ教授は「日本と協力関係を結んだことで、優れた放送方式を導入することができた。この関係を発展させ、次世代の放送方式はより密に日本と共同研究を進めたい」との抱負を語っている。

 今回の招待講演では、同会議の第二回開催(11月末)を前に、日本の放送業界、関連メーカーに広く、会議の状況を伝え、ブラジルとしての今後の展望について講演する予定。ブラジルの放送市場の現状と今後の可能性について紹介し、日本とブラジルとの関係をより強化しようというねらい。

■2010年12月、第一回伯日DTV推進会議が開催
 ブラジル連邦共和国は、2006年に日本の地デジ方式であるISDB−T方式を拡張したISDB−TB(別名:SBDTV)方式を採用した。それまで、ITU—R(国際電気通信連合無線通信部門)の国際標準規格として登録されながら日本以外に採用国が無かったISDB−Tであったが、ブラジルの採用以降南アメリカ大陸に採用国を増やし、現在では、同地では10ヶ国、アジアではフィリピンにおいて採用されている。本放送はブラジル、ペルー、アルゼンチンで開始されており、他の採用国でも順次放送開始の予定である。ワンセグ放送もブラジルで開始されており、日本発の放送方式が南米で花開きつつある。
 第1回伯日DTV推進会議は、ISDB方式選択とISDB−TB方式の設計で主導的な役割を果たしたサンパウロ大学のマルセロ・ズッフォ教授を中心に企画された。ズッフォ教授は「日本と協力関係を結んだことで、優れた放送方式を導入することができた。この関係を発展させ、次世代の放送方式はより密に日本と共同研究を進めたい」との抱負を語っている。

 サンパウロ大学工学部で開催された3日間のシンポジウムでは、日本より6名の基調講演者が登壇した。東京大学の河口洋一郎教授と女子美術大学の為ヶ谷秀一教授は新技術の導入とコンテンツの関係に関して講演し、日本電信電話の川添雄彦博士、NICT(独立行政法人情報通信研究機構)のガブリエル・ポルト・ヴィラーディ博士、ソニーの黒木義彦氏、映像新聞社 論説委員の杉沼浩司氏が新世代放送に向けた技術開発に関して講演した。
 ブラジル側からは、変復調パラメータ、データ放送方式、2014年のワールドカップを4K/3Dで配信する「プロジェクト2014K」、コンテンツ制作、アクセシビリティ(障害者支援)技術などに関して、第一線の研究者が状況説明を行った。参加者は、主としてブラジルの研究者であるが、チリ、アルゼンチンなどの周辺国からの参加者の姿も見られた。

 ブラジルは、「BRICs」の名で新興経済国の代表として扱われている。これに加えて、2014年のワールドカップと2016年のオリンピックの2大イベントで更なる経済の加速を図るとされている。2014年のワールドカップを4K/3Dで中継するのは重要なイベントであり、このプロジェクトは同国の通信技術研究法人CPQDが主催し、ブラジル科学技術省が支援している。4K/3Dの先にあるものとして、研究者の8K映像やハイフレームレートへの関心は高く、活発な議論がなされていた。
 セッションの合間には、機材展示も行われ、ブラジルで販売されているデジタルテレビやアクセシビリティ実験用のSTB装置などが示されていた。
 最終日には、全員が参加してブラジル政府への提言書がまとめられ、日本と研究協力を推進すべき分野や両国の学界、産業界にとって重要なイベントの洗い出しなどが行われた。本シンポジウムは来年以降も定期的に開催される予定となっている。

■日本方式を2006年に採用決定したブラジルの放送方式
 日本の地デジ方式であるISDB−Tは、2006年6月にブラジルで採用された。同国は、当初独自開発を目指していたが、日本方式を採用するに至った。2007年12月より地デジ放送が始まり、アナログ停波は2016年6月とされている。
 ブラジルで採用されたISDB−Tは、変調方式は日本と同じ13セグメントのOFDMであるが、映像の符号化方式にはMPEG−4 AVC/H・264を採用している。また、ワンセグは、日本では毎秒15フレームであるところを毎秒30フレームとするなど、ところどころに違いがある。ブラジルでの採用された改良版はISDB−TBやSBTVDと称される場合もある。

 サンパウロ大学工芸学部のマルセロ・ズッフォ教授は、デジタル放送方式の選定作業に従事した委員の一人であるが、ISDB−T方式を採用した理由の一つが「変調方式の優秀さ」にあるとしている。OFDMを採用しているのは、欧州方式とされるDVB−T/T2方式とISDB−T方式であるが、中でも13セグメント構造のISDB−Tは柔軟性に優れていて、採用の決め手の一つになったという。もう一つの決め手は、伝搬特性の強靱さ(ロバストネス)にあるという。山間部から平野まで、地理条件の分布に富む南米では、伝搬特性が良いことは、放送方式に極めて重要な要素として扱われるという。
 現地の報道によれば、今年上半期で400万台以上のデジタルテレビが販売されたという。HDTV放送は「全体の40%程度を占め、増加している」(ズッフォ教授)といい、HD化も急速に進展している。

■8Kを紹介
 昨年開催された「第1回ブラジル・日本デジタル放送推進シンポジウム」は、サンパウロ大学が主催しズッフォ教授が実行委員長を務めた。シンポジウムの目的は、日本との研究協力関係を深めることにある。そのため、両国から現状の紹介が行われた。分野は、コンテンツクリエーションから機器開発まで広範囲にわたっている。
 シンポジウムには約120名が参加した。参加者の多くは、大学、研究機関、企業の研究者であった。多くがブラジルからの参加であるが、チリ、アルゼンチン等の周辺国からも参加者を得ている。日本からは6名の講演者が招かれ、各セッションの基調講演を担当した。
 初日に基調講演に立った河口洋一郎教授(東京大学)は、8Kx4Kディスプレイ用のCG制作について講演した。同教授は1970年代からCGを制作しており、過去の多くの作品が上映された。同教授のCGの特徴は数式の基づく造形であり、関数による造形が多用されている。
 河口教授は「8Kのディスプレイに自分の作品を写したところ、これまでとは全く異なる感覚を得られた」との体験を表現豊かに伝え、参加者たちは強い関心を示していた。
 コンテンツ制作について、ブラジル側から講演に立ったアルミル・アルマス教授(サンパウロ大学)は「デジタル放送は、表現言語の変革をもたらせた」との分析を示した。同教授は「視聴者は、もう単なる受動的な存在ではない」と新しい関係が構築されうることが示された。

■IPTVをNGNで
 NTTの川添雄彦博士は、IPTVの発展状況を紹介し、NGNによるIPTV普及を説いた。IPTVは、日本では「ひかりTV」のサービス名称でNTTぷららが運営している。講演では、IPTVによる多彩なサービスが紹介された。電波を用いたサービスでは、規格との整合性、許認可などのため調整に時間が掛かるが、IPTVでは比較的容易に新サービスを展開できる。3Dや高解像度の放送が低い障壁で実現されることが示された。
 講演後のパネルディスカッションでは、ブラジルのアクセス回線(加入者–電話局間の接続)が発展途上であることが明かされ、中国企業が100都市でのブロードバンド(2Mbps以上)アクセス回線敷設を提案したことが報告された。また、「ブラジルのテレビ市場規模は、米国、中国に次ぐ世界第3位である」との報告もなされ、新方式を吸収する巨大市場が待機していることが明らかにされた。

■単眼3DをHFRで
 ソニーの黒木義彦氏は、毎秒240フレームで撮影・表示するハイフレームレート(HFR)方式と、単眼で3D撮影を行うカメラを組み合わせた「HFR 3Dシステム」を紹介した。毎秒240フレーム以上ならば、動きのある映像を表示しても劣化を感じないことを実証した実験の様子など、HFRの基礎となったデータが示された。また、単眼3Dカメラは、1970年代に同社が特許取得した構造を元に、電子化で画質を高め、更にHFRを導入したと説明された。この方式では、ピントのあっている部分で視差が無くなる。左右眼から生じる二重像は、ピントのボケの中に入るため、3D映像を通常のテレビに映し出しても不快感を与えない。像の位置関係が光学的に示され、また撮影結果がこれに一致する様子が示された。現地では、3D対応テレビがデモ中のため借用できなかったため、ブルーレイに収められて持参された映像は片チャンネルのみでテレビに示されていた。
 会場からは、専門的な質問が多く寄せられ、ブラジルの研究レベルの高さを印象づけた。「120Pでも改善はあるか」との問いに対しては「120でも改善はあるが、人間の眼は容易に120Pと240Pを識別できる」との実験結果が示され、フレームレートを変更するならば240Pの方がよいのではないかとの考えが示された。

■ホワイトスペース探知
 NICT(独立行政法人情報通信研究機構)のガブリエル・ポルト・ヴィラーディ博士は、ホワイトスペースを自動的に探知して、そこで使用する最適な無線方式を選び出す「コグニティブ無線」の研究について講演した。同博士は、まずホワイトスペースの定義から説明し「免許が必要な帯域の中で、使われていない周波数帯」と定義した。時に「免許が割り当てられていない帯域」と誤解されることがあるという。
 ホワイトスペースを発見するいくつかの方法、発見されたホワイトスペースに適合する無線方式を無線機に導入する方法など、最新の研究成果が示された。ホワイトスぺースの利用が進めば、逼迫する電波資源を高度に有効利用できる。この技術は、先進国、発展途上国を問わず今後世界中で必要になるものと見られている。

■宇宙のHDTV
 女子美術大学の為ヶ谷秀一教授は、自身がNHK時代に担当してきた同局におけるCG利用の歴史とスペースシャトルへのHDTVカメラ積み込みプロジェクトを紹介し、映像がもたらす感動の追求の変遷を論じた。NHKが1980年頃に制作した8色のCG映像に始まり、1984年の「ホロン博士」(「21世紀は警告する」シリーズ内のキャラクター)などが、いかに作られて来たかが示された。スペースシャトルに搭載したHDTVカメラは、開発中の写真なども含めて示され、映像を届けるための各方面の苦闘が紹介された。講演で為ヶ谷教授は、技術開発とコンテンツ制作の間を結ぶ人間の重要さを強調し、このような役割を果たす「取り持ち役」がいてこそ両輪が回るとの考えを示した。会場からは、コンテンツ制作教育に関する質問も寄せられ、活発なやりとりが見られた。

■長期的関係構築を
 シンポジウムのまとめとして、ズッフォ教授と筆者が司会となり、今後の両国間での協力分野を募った。その結果、無線技術等の物理層、IPTVプラットフォームといった実装階層、音声手話翻訳等のアプリケーション層まで、種々の階層での協力関係確立が希望として挙げられた。特に、8K、3DTV、ホワイトスペース、HFR、適応化送信技術について強い関心が示された。また、アナログ停波について、情報共有を求める声もあがった。
 日本側から、11月のInterBEEが放送業界との交流の場として最も適した機会であると勧めがあり、今回の来日が実現した。
 シンポジウムは、ブラジル・日本間の協力関係の強化に関する報告書をまとめ、ズッフォ教授がブラジル科学省に提出する。今年は、11月末に開催の予定だ。

サンパウロ大学コンピュータ・エレクトロニクスセンター

サンパウロ大学コンピュータ・エレクトロニクスセンター

昨年の第1回伯日DTV推進会議

昨年の第1回伯日DTV推進会議

講演を行った女子美術大学大学院 為ヶ谷秀一教授

講演を行った女子美術大学大学院 為ヶ谷秀一教授

来日予定のライザ・カロリニ氏と為ヶ谷氏

来日予定のライザ・カロリニ氏と為ヶ谷氏

#interbee2019

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