Inter BEE 2008 基調講演公式インタビュー【その1】

2009.1.13 UP

ゲスト:アンディ・デイビー氏(BBC フューチャーメディア・アンド・テクノロジー局 コントローラー)
インタビュアー:鈴木 祐司 氏(NHK放送文化研究所主任研究員)
司 会:國重 静司 氏(NHKアート執行役員)
日 時:2008年11月19日


(國重) 
これから、Inter BEE 2008の基調講演をしていただいた、BBCのアンディ・デイビーさんの公式インタビューを始めたいと思います。インタビュアーは、NHK放送文化研究所の鈴木主任研究員にお願いいたします。アンディさん、鈴木さん、どうぞよろしくお願いいたします。
さて、世界各国で放送と通信の融合が進む中、日本でも、これから様々な具体的な展開が行われていくかと思います。こうした状況において、アンディさんから、先ほどの基調講演において、BBCでこれまで経験されたことに基づき、放送・通信が融合・連携した新しいビジネスに向けて非常に参考になる実用的な課題や、非常に実用的な課題や将来に向けた方向性などを具体的に話していただきました。
このインタビューでは、アンディさんの基調講演をもう少しフォローしていただき、その概要をInter BEE-OnlineのWebサイトでご紹介していきたいと思います。
現在BBCは、放送と通信の連携・融合サービスを世界に先駆けて取り組んでいらっしゃるわけですが、こうしたサービスは、BBCのマーク・トンプソン会長が提唱されたクリエイティブ・フューチャー計画が基本となっていると思います。
まず、最初に、この計画と先程の素晴らしいプレゼンテーションでお話された関連性についてお伺いしたいと思います。

(Davy)
BBCでは、コアの組織としてフューチャーメディア・アンド・テクノロジー局が、これまでの先導的なニューメディアに関する取り組みをリードしてきており、そしてコンテンツに関しては、ビジョン(番組コンテンツ)、ジャーナリズム(ニュース報道)、視覚・オーディオといった部局が連携して新たなコンテンツサービスを実践してきています。
 こうしたサービスは、マーク・トンプソン会長の描いたものですが、先程の基調講演で説明したiPlayerは、さらにオンラインでのサービスを拡張するという試みの一つであるわけです。21世紀に向けて、これに適応していくためには、当然BBCの組織体制についても変化していく必要があります。テレビもラジオも供給しつつ、さらに、次は何かということを考えなければならないわけです。

(國重)
こうしたサービスの実践にあたって、課題が幾つかあると思うのですが、その主なものを改めてお話いただければと思います。

(Davy)
先程のプレゼンでも若干申し上げましたが、放送と通信の連携・融合サービスを実践するうえで重要なことは、BBCがこの分野でどのようにして業界をリードしていくかということだと考えています。すなわち、過去にBBCが果たしてきた先導的な役割をいかにして今後も果たしていくかということです。メディアも変革しつつありますし、また、視聴者からのニーズも多様に変化してきている中で、いかに国民に愛される価値のあるサービスを提供できるかということだと思います。

(國重)
ありがとうございました。それでは、鈴木さんから、日本における放送と通信の融合、新しいメディアにおけるビジネスということについて、放送番組の権利処理を含めてその現状を俯瞰していただき、それを踏まえてアンディさんに、イギリスにおける具体的な成功例などについて、少しフォローをしていただければと思います。


【放送番組の権利処理について】

(鈴木) 
まず、日本では放送局のVOD(Video-On-Demand)サービスが、いま開始されようとしているのですが、実は幾つか課題が既に見えておりまして、これがうまく成功するかどうかが疑問になっております。アンディさんの基調講演では、BBCはかなりうまくいっているということですので、何が明暗を分けているか幾つかお伺いしたいと思います。
 まず、12月1日からのNHKオンデマンドですが、これには2種類のサービスがあります。その一つはキャッチアップサービスでiPlayerと同じです。もう一つが、アーカイブのVODです。ご指摘のとおり、日本でも権利処理問題は非常に大きな問題なのですが、日本で最大の問題は、放送したものをVODに流すときには、事前に関係者、権利者、ステークホルダーの許可を取らなくてはいけないということです。そこがまずイギリスは基本的に同じあるいは異なるのかについて伺いたいのですが。

(Davy)
イギリスでも状況はよく似ていると思います。NHKはアーカイブサービスを開始されるということですが、これはBBCではまだ提供しておりません。それは、純粋に7日間のキャッチアップサービスということですね。

(鈴木)
放送番組の権利処理でいうと、今日お話しになった中でプロダクション関係のカメラマンや音声担当者のパーミッションという話が出たと思うのですが、多分一番大きいのは、俳優や、音楽の実演家というプロの皆さんと、それ以外の方々という二つあると思うのですが、まず、それに関してお伺いします。
 まず、プロの皆さんは、VODを出すときに放送出演料以外にプラスアルファの権利料を払うということがあると思います。例えばNHKでは出演料の10%を払う方向で交渉しておりまして、大半の人たちから承諾をいただいているのですが、まだ一部が解決していない状態なのです。BBCは、そこはどうされたのですか。

(Davy)
放送番組の権利処理は私の専門ではないのですが、理想的に言えば、まず、ユニバーサルな権利処理を行い、そして、さらに、それぞれのコンテンツごとに承諾をしていただくということで、権利に関する問題を回避できれば望ましいわけですよね。何年も前の放送番組などで、さまざまな出演者がいる場合の権利処理というのが非常に難しいわけです。
BBCの放送番組『ドクター・フー』などを例に取りますと、サイバーマンというのが20~30人出ていましてマスクをかぶっているので、いちいちそれを特定した上で権利を取るというのは非常に大変です。ですので、何らかの仕組みで、これをよりシンプルに処理したいという要望があります。

(鈴木)
いまのアンディさんのご説明では、キャッチアップサービスを現在既に1年ぐらいやっておられ、ほとんどの番組が、そのコンテンツとして提供されているわけですから、キャッチアップサービスで今作っている新しい番組については包括的な権利処理の承諾がとれる仕組みは既に整っていると理解してよろしいのですか。

(Davy)
キャッチアップのプログラムに関しましては、権利処理というよりは、事前に承諾をい得るという手順になりますので、7日間のウィンドウに関して承諾が得られればいつでもサービスできるということになります。

(鈴木)
それは、逆にいうと、プロの実演家、俳優の中で、その承諾を得ることができないという人が出た場合には、その人を出演者から外すという考え方で臨むのでしょうか。

(Davy)
現在は、そもそも承諾していただかないと放送番組に出演できないということですので、それ自体については問題ないのですが、アーカイブということになりますと、一人でも拒否されますと、当然それを配信できないということになります。ただ、それをやりますと本人にとっても出演料が入りませんので、むしろ不利ということにもなりますよね。

(鈴木)
アーカイブのVODに関しては、番組の出演者一人一人を探し出すというのは非常に手間暇がかかるので、NHKでも現状、権利処理に大きなコストがかかってしまっています。それで、今BBCの立場でいうと、アーカイブ番組を包括的に権利処理できるようなシステムができるまでは、簡単にはアーカイブ番組のVODサービスはやらないというように考えているのか、どのように将来を考えていらっしゃるのでしょうか、教えてください。

(Davy)
最近になりますが、BBCでは、アーカイブのコンテンツに関して専任のディレクターを任命しました。そのディレクターが、アーカイブのサービスをBBCからどのようにリリースしていくか決めるということになります。もちろん、すべてのアーカイブをリリースするというのは非常に難しいかと思います。そもそもフィルムもそうですし、それからデジタル化するということにも非常に拘束力があります。
 ですから、これはある意味、実現は難しいとは思いますが、一部のアーカイブを徐々にリリースするということは可能だと思いますので、現在、実験的にこれをやってみております。昨年ですが、パキスタンがインドと分離して50周年ぐらいになりますので、テストとして一つのシーズンに、それに向けてのアーカイブの番組コンテンツを準備しています。これなどが、今後の方向性を示すものになっていくのではないかと思われます。

#interbee2019

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