クロマキーの進化。ヴァーチャルとの融合

2007.11.22 UP

 クロマキー(クロマキー合成)とはキーイングの一種で、特定の色を透明にして、そこに映像を映す技術のことである。これはフィルム時代から行われていた技法で、現在では放送やCM業界では当たり前のように使われている。もっともお馴染みのシーンは天気予報であろう。
 テレビでのクロマキーはスイッチャーなどのMK機能(ミキサー・キーヤー)を用いる。以前は「クロマと言えば、青色」と勘違いしていた人もいたが、技術的にはどんな色でもキーを抜くことができる。ただし、黒や茶系は人物の色と重なるため、人とは補色関係にあるブルーかグリーンを用いる。確かに過去はブルーが多く使われていたが、服の色は青系も多く、また外国人には青い瞳の人もいるため、最近はグリーンが使われることも多い。そして90年代に入ると、デジタル技術の進化とともに、ヴァーチャルスタジオも登場した。
 ヴァーチャルスタジオとは実写映像とCGをリアルタイムでデジタル合成するシステムである。これはカメラの向きやズームの状態などを検出し、コンピュータを通してリアルタイムに画像を作り、カメラがサイドに回り込めば実際にあるセットもCGで作られたセットも同じように横から見ることになるので、3次元の世界を体験することができる。しかも奥行きも作ることができるため、実際には6畳しかないスペースでもハリウッドのスタジオの広さに見せることができるのである。さらに、人物とある程度のセット(テーブルや椅子など)さえあれば、それ以外のセットはすべてCGで作れるので、セットの材料費や作るまでの時間、そして人件費も削減でき、コストパフォーマンスにも優れている。実際、テレビやCM界では忙しい時期なると、スタジオの稼動が100%を超え、美術担当が3カ月も休みなしといったこともあるので、ヴァーチャルスタジオをうまく組み合わせることが重要である。
 そのクロマキーに関する技術を展示するブースを、Inter BEE 2007の中からいくつかピックアップした。


■朋栄
 朋栄は今年も恒例のヴァーチャルスタジオを設置し、来場者たちを楽しませてくれた。同社が展示した“digiStorm System”は、3Dヴァーチャルスタジオシステム&RCGシステムをより効率的に実現できるシステムだ。
 例えば通常のヴァーチャルの場合、カメラ1台に対してCGプロセッサが1台必要だったが、このシステムでは複数のカメラを1台のCGプロセッサで対応することが可能になっている。
 “Brainstorm Easyset3D”は3Dリアルタイムコンピュータグラフィックスソフトウェア。ドラッグ&ドロップであらかじめ数多く用意されているCGライブラリの中から必要な床や壁などを好きなように組み合わせてヴァーチャルの世界を作り出すことができる。
 “ManuTrack”はカメラ映像から出演者の手の位置、角度、そしてジェスチャーを内部クロマキー処理で認識し、指先の位置情報、動きをリアルタイムで伝達する形状認識センサーである。
 これらを組み合わせることにより、手品のように指先から物を出したり、魔法のように嵐を起こしたりといったことをリアルタイムでできるので、これからの生番組(ニュース、天気予報、バラエティなど)で活用されていくと思われる。


■NTI
 NTIはTotal Immersion社、テレビ朝日、NTIの3社で開発したヴァーチャルスタジオシステム“DRAGON D’Fusion”を北海道日興通信社開発の“NIXUS”に接続し、デモンストレーションを行った。
 NTIのヴァーチャルシステムはテレビ朝日も開発に関わっていたため、ニュースステーションという番組で初めて使用された。とくに川平慈英さんのサッカーコーナーで登場したJリーグの順位表は画期的で、非常に新鮮なものだった。しかし、当時はカメラ位置を検出するためのセンサーやパン、チルト、ズーム値を検出するためのジェネレータ等のハードウェアが必要だった。しかし“DRAGON D’Fusion”はそれを必要とせず、ハンディカメラでも使用が可能となった。
 また、今までのヴァーチャルスタジオではカメラしか動かすことができなかったのに対し、“DRAGON D’Fusion”ではCGを合成するフリップボード等を動かすと、それに合成された映像も動くという画期的な技術も開発されている。
 例えば合成するフリップボードに人物をCG合成で登場させると、フリップを逆さまにすると映し出されている人物も逆さまになるのである。今までのクロマキー技術の場合、フリップを動かしてもそこに映し出された映像が動くことはないが、それが一緒に動くことにより、ヴァーチャルの世界がより面白くなりそうである。
 余談だが、同社が出展していた新しい立体画像ソフト(まだ正式名称はないが、仮称ディフュージョンの中のカタログアプリケーション)はなかなか面白いものだった。これはあらかじめパソコンの中にデータを入力しておくことにより、例えば車のカタログをパソコンにつないだビデオカメラで撮ると、その車が画面上ではカタログの上に3Dで登場し、カタログを回すと車も回る。そしてそのカタログにあるサンプルのボディカラーを指でタッチすると、3Dの車の色も変わる。また、絵本を撮ると画面に映った絵本から登場人物や草花が3Dとなって現れ、画面の中を動き回る。このシステムはサーバーに入れ、ネット配信などモバイルの分野での活用を考えているそうで、実際来年の3月からはヨーロッパで試験運用するそうである。ただ、私としては教育の分野での活躍も期待できると思う。


■ボーゲンイメージング 
 クロマキー撮影を行う場合、スクリーンの扱いには非常に気を使う。ゴミはもちろん、シートにシワやヨレがあるだけでその部分がキーで抜けなくなるからである。そのため撮影前には念入りなセッティングを必要としていた。しかしその問題を意図も簡単に解決してくれるのが、リフレクメディアのライトリングだ。
 ライトリングはカメラのレンズに取り付けるアタッチメントの周りに何百万ものガラスビーズが、ダイヤのリングのように組み込まれており、専用のクロマット(クロマ用のグレーの布地スクリーン)にこのライトリングを照射するだけでキーイングができてしまう画期的なシステムである。
 カメラレンズの周りから光が出るため、照射するとその光は入射時と同じ経路をたどってレンズに反射される。このため通常はグレーに見える布が、色むらのないブルー、もしくはグリーンバックとして映るのだ。しかもカメラに映る部分すべてに同じ光量が当たるため、極端に言うとクロマットをしわくちゃにしてもキーとして完璧に抜くことができる。取り付けも簡単で、持ち運びも楽。しかも、DV、SD、HDのどのカメラにも対応しているため、今後さまざまな分野での活躍に期待が持てる。

【現役TVディレクター】

#interbee2019

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