私が見た『NAB SHOW 2009』における技術動向(その1)

2009.5.21 UP

 長年にわたり、日本の“Inter BEE”、欧州の“IBC”とともに世界の放送、映像・音響技術をリードしてきた“NAB”、今や世界最大のデジタルメディアコンベンションへと大きく発展したが、今年も4月19日から23日まで米国ネバダ州のラスベガスで開催された。大会のアイデンティティとしては昨年に続き“Where Content Comes to Life”を掲げ、今年のスローガン“WELCOME to the Imagination”のもと盛大に実施された。NABレア会長はオープニングにあたり「世界は厳しい経済危機にあるが立ち止まることなく、前進し変革を遂げ、コンテンツを届けるプラットホームを作っていく。われらのエネルギーを創造や革新、未来に向けていこう」と語った。

 昨今の経済状況を思いやや危惧の念はあったが、展示会場は例年通りにノース、セントラル、サウスホールと屋外も含め広大なスペースいっぱいに展開されていた。登録上の出展社数や来場者数は前年並みと聞いたが、場内を巡ってみた感じでは実態はやや減ったのかなとの印象を持った。しかし米国のデジタル移行が6月12日(2月17日から延期)と間近に迫っていることに象徴されるように、世界的に進むデジタル化、HD化、放送とITの連携の一層の進展など、時代のメディア動向や潮流を反映するように多種多彩な最新技術が会場いっぱいに展開され、大盛況だった。昨年までとレイアウトがやや変わったが、関連する技術分野や業界のブースが集中的に配置されるなど、見学しやすくなり例年以上にじっくりと見ることができた。また例年ながら日本企業は出展した社数もさることながら、いずれのブースも地の利の良い場所にたっぷりしたスペースを確保し、世界をリードする最先端の機器やシステムを展示、公開し、いずこも多くの見学者を集め人気スポットになっていた。また今回は特別出展としてNHKとNICT(情報通信機構)からの出展もあり、スーパーハイビジョンや新方式の立体映像など、海外ではなかなか眼にすることができない展示物や素晴らしいコンテンツは注目を集めていた。日本企業陣ともども世界の技術を主導している日本の技術力の高さを大いにアピールしていた。

 デジタル化を機にメディア状況は大きく変わり、さらに飛躍し、デジタルシネマの進展が本格的に具体化するなど、これまで以上に数々の注目すべき出展が見られた。それらの中から本レポートでは、主に映像関連の技術動向について、筆者なりの視点に添い順次紹介してみたい。

 今年のNABの全体的な傾向としては、世界的な景気後退が言われる中で、発展途上国も含め、進展しつつあるデジタル化、HD化を一層進めやすくするような、低コストで汎用性高い機器展示やシステム提案が目立っていた。その鍵となる技術の一つがネットワークと親和性が高く、ワークフローの効率化や制作コスト低減に有効なテープレス化である。テープレスカメラについては、数年前から各社からの様々のモデルの出展が相次ぎ、いずれも大きな話題になっていた。その後、世界的にテープレスカメラの普及がかなり進んできたこともあり、今回はことさら一時期のように大きな話題性は少なかったが、その中では第2~3世代ともいうべき、よりコンパクトまたは高機能モデルが出てきて注目されていた。

 パナソニックはNAB出展5年目となるP2シリーズのニューモデルとして、放送局から業務用まで幅広い利用を見込みコストパフォーマンスの高いカメラレコーダ、大容量化、高速化した上で低価格化したP2カードメモリーを出展した。一方、ソニーは放送用だけでなく映画製作にも使えるXDCAM HDシリーズに加え、既存の設備環境を生かしHD化が可能なデジタルトライアックス対応モデルや業務用クラス向けのSXSカードを使う小型のXDCAM EXシリーズカメラも並べた。池上通信機は東芝と共同開発し着々と実績を伸ばしつつあるGFシリーズについて、よりコストパフォーマンスの良いモデルを出展し、日立国際電気はユーザーの多様な要求に添うべくドッカブルタイプの各種カメラを出したが、そのひとつとしてP2メモリー搭載のモデルも出展し、JVCもコスト性を重視し、記録メディアに汎用的なSDメモリーとSXSカードを併用した小型の業務用カムコーダを出展するなど、それぞれが各社のブースで評判になっていた。

 例年華やかなプレゼンテーションで人気を集める編集・制作系については、グラスバレー・トムソン、オートデスク、1年ぶりにNAB復帰を果たしたアビッド、アドビシステム、朋栄など今年もステージや大型画面によるコンテンツ上映も交え多種多彩なシステムを実演展示していた。また取材系のテープレス化に呼応するように、制作系・送出系においてもファイルベース化の進展にあわせ、ワークフローを一新し、編集系のパフォーマンスや効率性を向上し、経済性に配慮したシステムの提案がソニー、IBMや東芝などから数多く見られた。また高品質の次世代制作環境に効率的に適応する“3G(3Gbps)” インターフェースの出展もひとつのトレンドとして注目されるところである。

 放送と通信の連携がますます進展し、IPネットでのコンテンツ配信が進む中、その鍵である符号化技術やネットワーク関連技術についてもさまざまなシステムが展示されていた。NTTグループは高品質の放送素材伝送、編集、配信のための各種符号化技術やネットワーク技術、取材から編集系までオールIPにより低遅延で作業できる制作システムなどを出展した。KDDI研究所はネット環境におけるコンテンツの画質を自動評価するシステムや違法コンテンツを監視できるシステムなどを出展し注目されていた。富士通は高効率符号化H.264を使いDVB-ASI やインターネット網で高品質映像をリアルタイム伝送できるシステムやより低ビットでライブ中継や企業内配信にも使える小型、コンパクトで低コストモデルも出展していた。これらの分野においてもコンテンツの通信経費削減を志向する傾向が現れてきているようだ。

 デジタルシネマがNABの大きなテーマとして取り上げられて数年たち、いよいよ定着してきたとの感を一層強くした。今回も高精細度映像に対するニーズの一層の高まり、映画製作や配信・上映への要求に応え、多くのブースでカメラ、伝送系、ディスプレイなどの機器展示にあわせ、多彩なコンテンツも上映され人目を集めていた。その中で今年ひときわ目立った特徴は3D熱の高まりである。併催のデジタルシネマサミットでも立体映画にフォーカスした議論が活発に議論されたと報じられている。展示会場においても様々な3D関連技術の出展が目白押しだった。サウスホールの中心部に立体映像関連技術をまとめて見せる“3D Pavilion”が開設され、多くの企業からハードやコンテンツのデモが行われていたことも3Dの進展を象徴している。パナソニックは自社ブース横に大きな3Dシアターを設置し、L/Rともフル解像度の鮮明な立体映像を103インチサイズの大画面に上映し人気を集めていた。またNHKは月探査衛星「かぐや」が撮影した映像を特殊な信号処理により3D化した立体映像や眼鏡無しインテグラル方式立体映像を公開し、NICTも視点に応じ画面上のオブジェクトが適応する眼鏡なし立体方式を公開し評判になっていた。その他にもソニー、JVCなど多数のブースで3D関連の展示がなされていた。

 本号では全体動向の概要を紹介したが、次号ではもう少し詳しく各システムを見ていきたい。


映像技術ジャーナリスト 石田武久


写真1:NAB会場情景(サウスホール)
写真2:スーパーハイビジョンシアター(NHK)
写真3:テープレスカメラ(池上通信機・東芝)
写真4:符号化関連(NTTグループ)
写真5:3Dシアター(パナソニック) 

#interbee2019

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