TV制作現場から見たInter BEEの魅力
2007.11.2 UP
1965年に始まったInter BEEは今年で43回目を迎えます。
四半世紀にわたりディレクターとしてテレビ番組に携わり、これまでニュース、ドキュメンタリーから、音楽、情報番組など様々な番組づくりに参加してきた私ですが、Inter BEEの歴史には到底及びません。私が仕事を始めたときはすでにカラー放送が始まっていたのですから。
日本でテレビ放送が始まったころ、番組はドラマや映画、スタジオトークや歌謡ショーといった娯楽が中心でした。
しかし1972年に浅間山荘事件で人質救出のシーンが生中継されると、その時の視聴率は90%を超え、社会の人々にテレビが持つその機動力に気づき始めます。
その後1980年代に入ると、「ロス疑惑」で有名となった三浦和義の登場、豊田商事事件、日航機御巣鷹山墜落事故などで人々のニュースに対する関心が高まりました。取材用のテレビカメラも、カメラとVTRが分かれているセパレート型からENG(エレクトリック・ニュース・ギャザリング)と呼ばれる、一体型のカメラが登場し、より機動力のある機材へと変わっていきました。
そして「ニュース9」や「ニュースステーション」などに代表される新しい形式のニュース番組が始まったことで、ニュースとお茶の間の距離がぐっと近づきました。
さらに時を同じくして、パーソナルコンピューター(パソコン)やデジタルカメラの登場により、新聞などの紙媒体のニュースの速報性も飛躍的に伸びました。テレビもそれまではサミットなどのあらかじめスケジュールの決まっているニュースや、プロ野球やオリンピックなど、限られたコンテンツしか生中継はありませんでした。しかし、1990年の「湾岸戦争」、1995年の「関西大地震」「地下鉄サリン事件」など立て続けに起きた大きなニュースにより、衛星回線を使った生中継が本格的に始まりました。人々はますます日常の出来事に敏感になり、「世の中の今を知りたい」と思うようになりました。
それまでテレビの生中継には特別な通信回線を必要とし、とくに海外から中継する際は、国際回線も必要なため、莫大な予算を必要としました。しかし、近年、携帯電話の回線を使ってテレビ中継を行うことが可能になりました。これは、簡単に言うとテレビ電話をそのまま放送の電波に流すもので、画質や音に難がありますが、機材がコンパクトになり、通信コストもかなり安価になったので、朝の情報番組などで重宝されています。
しかし、今後デジタル放送が浸透し、テレビも大型画面化すると、今の画質のままでは粗さが目立ち、視聴者に飽きられてしまうことは必至です。人は優れたものを目にしてしまうと、さらに上のもの(上質なもの)を欲しがります。こうして人々のニーズに応えるようにして番組は変化し、放送技術も進歩しています。
2006年に携帯端末向けの地上デジタル放送が始まり、2011年にはアナログ方式の放送が地上から消えてしまう中、テレビの放送には今までなかった、「相互通信」が当たり前の時代に突入していくのです。これにより、伝えるだけのテレビ番組から、視聴者参加型のテレビ番組へ変化していきます。視聴者の方がニュースを伝える時代がやってくるかも知れません。
次から次へと生まれてくる新しい技術。その技術を理解し、使いこなすことは我々テレビの製作現場の人間にとっては大変なことですが、その新しい技術を使って人々がより豊かな暮らしができるテレビ番組を作っていくことも喜びの一つです。今年のInter BEEは我々番組制作者たちの創造力をかき立たせるどんな素晴らしい出展物が待っているでしょうか。
(現役TVディレクター)