【NEWS】米国ケーブルテレビ最新事情 マルチスクリーン、IP統合サービス、ワイヤレスが進展 [SCTE ケーブルテックEXPO2011開催取材レポート]
2011.12.1 UP
モトローラ・モビリティ社CEOのJha氏
国際パネルの模様(中央が筆者)
バーサス社 スタジオ
ターナースタジオの衛星地球局
■はじめに 日本CATV技術協会が米SCTEに調査団を派遣
米国SCTE(Society of Cable Telecommunication Engineers:ケーブル技術者協会)の展示会・コンベンションであるケーブルテックEXPO2011が2011年11月14日から17日まで米国ジョージア州アトランタで開催された。日本CATV技術協会では、日本ケーブルテレビ連盟、日本ケーブルラボと協力して、例年SCTEエクスポに調査団を派遣しているが、今年は、映像新聞社の協力を得て実施し、ケーブルオペレータ、メーカ等からなる18名で10月13日から20日の日程でアトランタとニューヨークを訪れ、合わせて関係企業を訪問し、米国ケーブルテレビ業界のIPビデオ、マルチスクリーン、無線などへの取り組みとそれに伴う新技術の動向を調査することができた。
SCTEはケーブル事業者、関連機器メーカ、サービスプロバイダ等の技術者で構成され、会員の技術力向上のための活動、技術者資格試験、標準化活動等を行うとともに、毎年秋、大規模な展示会・セミナーを行い、最新のケーブル技術を紹介している。今回のEXPOには世界約50か国から計1万人以上が参加し、約400社が出展した。
((社)日本CATV技術協会審議役 浅見 洋)
■コックス社長、Motolola Mobility CEOが登壇「どんなメディアにも対応するサービスを提供」
11月15日朝の開会式に続き、基調講演としてCOX Communictions社長のPat Esser氏とMotolola Mobility CEOのSanjay Jha氏の対談が行われた。Esser氏はその中で無線も活用したホームネットワークでテレビ、携帯、タブレット、PCなど、どんなメディアにも情報を提供していくことがケーブル事業者の役割で、携帯事業者との違いを示すことができると述べている。続いて、Time Warner Cable、Comcast等のCTOによるパネルが開催され、IP系新ビジネスへの対応について議論した。特に、IPの時代はユーザの要求に対して素早く対応していくことの重要性が述べられた。
■IPビデオへの具体的ソリューションが数多く提案
ワークショップでは、テーマ別に約40のセッションが開かれ、IPビデオへの移行、マルチーンへの対応、IPv6への対応, RFoGなどアクセスネットワークへの対応などについて熱心な議論がなされた。昨年の展示会・技術セッションでは、IPビデオが主役に躍り出た感があったが、今年はそれをより具体化し、マルチスクリーンへの配信技術、WiFi展示、クラウド技術の活用などが着目された。テーマ展示として次世代ビデオアーキテクチャがあり、各社の製品を一堂にまとめて展示していた。
ヘッドエンドでエッジQAMとCMTS機能を統合したCCAP(Converged Multiservice Access Platform)やマルチスクリーン対応ゲートウェイなどが実機展示されている。ARRIS社では、ケーブル事業者が展開するマルチスクリーンTVサービスをサポートするシステムソリューションとして、一般家庭内でVOD、ライブストリーミングをマルチスクリーン(PC、ゲームコンソール、インターネットTVやモバイル端末)で観賞できる環境を整えるシステムプラットフォームとしてMoxiゲートウェイを提案している。
■コムキャスト社 映像からセキュリティまでの総合ビジネスを提供 「全IPビデオ化を視野に」
コムキャスト社の技術担当副社長のJohn Shanz氏と調査団メンバーの間で1時間ほど議論の場を持った。コムキャストが全国的に開始したXfinityについて、Shanz氏は次のとおり述べている。
「Xfinityのブランド化ついては、通信事業者のU-Verse (AT&T), FiOS (Verizon)などと対抗するには通信、映像を統合したブランディングが必要であるとの認識で、コムキャストの名ではなく、Xfinityで統合することとした。現在のXfinityはPC,タブレットでIP形式のビデオオンデマンドが見られるが、次の世代では、テレビ映像も含めて、マルチスクリーンサービスを展開していく。将来的には、全IPビデオ化を視野にしてサービスを展開していく。さらにXfinity Securityサービスを数都市で始めているが、いずれ全国的に展開していく。これは単にホームセキュリティを提供するだけでなく、メッセージサービスなどと一体化したホームネットワークサービスの一つであり、デジタルホーム実現の重要な要素である。」
■欧州、米国、アジア「OTTへの対抗手段としてIPビデオを積極化へ」
第3日の17日に朝食会をかねた国際パネルが開催され、欧州、南米、アジアの代表が最新の動向を説明し、討論を行った。欧州からはANGA(ドイツケーブルテレビ連盟)のEngelke氏とコンサルタントのAdams氏、南米からはアリス社中南米担当役員のLaryczower氏、アジアからは日本CATV技術協会から筆者が参加した。参加者がそれぞれの地域の状況についてプレゼンテーションを行った後、モデレータのDaniel Haward氏(SCTE技術担当役員)からブロードバンド需要、ビジネスサービス、ソーシャルメディアとの関係などについてケーブル業界の取り組みについて討論が行われた。ケーブルが通信事業者やOTT (Over the Top)に対抗していくためにもIPビデオに積極的に対応していくことで認識が一致した。
■映像制作現場でも進むマルチスクリーン対応
調査団では、SCTE展示会の前後に関連企業を訪問した。アトランタでは、ARRIS本社、Turner Studio、CNN本社、ニューヨークではVERSUS(2012年1月からはNBC Sports社に統合)を訪問した。
ターナースタジオはターナー系の番組(TBSやTNT等)を制作・編集し全米に配信しているが、マルチスクリーン対応の編集作業など新しい取り組みをしている。テレビ放送向け番組をマルチスクリーン向けに変換する作業には多少の時間を要しているので、現在のところリアルタイムストリーミングは実施していない。また、配信手段としては、衛星から光ケーブルで非圧縮伝送にシフトしている。
VERSUSでも、ビデオストリーミングへの対応も実施しているが、ケーブル向け番組の強みは、リアルタイムのスポーツ中継、イベント中継であり、OTTなどネットサービスが増えてもケーブルとは共存していくと考えているとのことであった。
■IPビデオサービスへの積極進出をはかる米国ケーブルテレビ業界
米国連邦通信委員会(FCC)のブロードバンド調査(2010年10月)でも、家庭での下り3Mbps以上の場合のシェアはケーブルモデムが60%を超えており、10Mbps以上になるとさらにシェアが上がり、通信事業者のFTTHへの取り組みは遅れている。このため、ケーブル事業者は、多チャンネルビジネスは飽和気味だがブロードバンドの強みを生かして、IP系ビジネス積極的に取組み、IPビデオによるビデオオンデマンド、マルチスクリーンサービス、無線系サービスを展開している。
ケーブル事業者はDOCSIS3.0技術で高速ブロードバンドを十分提供できると自信を持っており、FTTHへの取り組みについては具体的な提案は出ていないが、むしろIP系サービス、TV Everywhereに重点を置いている。昨年来、OTTの急増に危機感をもったケーブル事業者であったが、IP系映像サービスを充実させることによりサービス面で対応するとともに、OTTによるコードカッティング(ケーブルの解約)については、ブロードバンドで支配的立場にある限り、競合するテレビソフト提供者には影響はあってもケーブル事業全体に影響は少ないと考えられる。一方、携帯電話、タブレットへの映像配信については、米国ではMediaFLOが失敗に終わっているため、携帯電話ではテレビ放送を見る手段はなく、ケーブル事業者による移動端末への映像配信の期待があり、我が国とは違った状況にある。
なお、通信事業者も映像サービスを提供しており、衛星放送事業者もブロードバンドによるVODサービスを開始し、通信事業者とのパッケージ販売も実施するなど、事業者の垣根を越えた全面的な競争状態になっている。こうした中でケーブルテレビは、ブロードバンドをビジネスの主軸にして総合映像サービスとして発展していくことが予想される。
既にSCTEは、その技術者資格をブロードバンドエンジニアと呼び、機関誌は”Broadband Library”であることからも、ブロードバンドへの期待が現れている。
モトローラ・モビリティ社CEOのJha氏
国際パネルの模様(中央が筆者)
バーサス社 スタジオ
ターナースタジオの衛星地球局