【NEWS】NICT 3D標準映像を無償提供 慶應義塾大学で概要説明会を実施
2010.5.20 UP
■開発成果を無償公開へ
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は5月12日、神奈川県・日吉の慶應義塾大学 日吉キャンパス 協生館 3階C3S10教室において、NICTが総務省から受託した委託研究によって開発した3次元映像の標準テストコンテンツについての概要説明を行った。また、同プロジェクトで開発した3次元映像コンテンツ変換ソフトウェアも紹介した。
3次元映像の標準テストコンテンツは、総務省から受託した「3次元映像支援技術」の研究開発の一環で開発したもの。総務省が2009年4月に委託研究の公募を行った「眼鏡の要らない3次元映像技術の研究開発」において、NICTは「次世代・究極3次元映像技術」及び「3次元映像支援技 術」への研究開発提案を行い採択され今回の開発・公開に至った。
標準テストコンテンツとは、映像表示装置などのの機能や性能を比較・評価したり、画像圧縮技術の評価や人体への影響評価などをするための素材となる映像。撮影条件などのパラメータが明らかにされている。今回の3次元映像標準テストコンテンツは、眼鏡のいらない次世代のシステムに限らず、現在普及しつつある眼鏡使用の3次元映像システムでも利用できるように配慮して制作している。
NICTは、3次元映像分野における技術発展、人材育成に深く寄与することを目的として、標準テストコンテンツと、3次元映像コンテンツ変換ソフトの無償配布を3月31日から実施している。5月12日の概要説明会では、この無償配布を受けた利用者やこれから無償配布を受けようとする映像業界関係者を対象に、標準テストコンテンツと、3次元映像コンテンツ変換ソフトについて、概要説明を行うと共に、説明会の来場者からの質疑応答を行った。
■制作・編集・上映の評価用にも利用が可能
無償提供する場合の用途は次の6つが想定されている
(1) 3次元映像関連機器の研究開発における評価・管理映像としての利用
(2) 標準化検討及び教育用映像としての利用
(3) 制作・編集・上映の工程における評価・管理映像としての利用
(4) 産業見本市や展示会などでの展示映像としての利用
(5) 画像圧縮技術、映像生成技術等の研究開発用画像データとしての利用
(6) その他の非営利目的での利用
■実写、CG映像などを公開
公開したコンテンツは、以下のとおり。
(1) 超高精細ステレオ3次元映像コンテンツ
HD(ハイビジョン)映像の4倍(4画面分)である水平3,840×垂直2,160画素を持つカメラ2 台を眼間距離(約6.5cm)に近い間隔で並べて同期撮影した映像コンテンツ。
同標準コンテンツでは、制作・編集・上映の工程における評価管理映像としての利用や、コンテンツクリエーター、カメラマンの教育・育成にも利用できるよう、推奨撮影条件での映像とともに不適切な撮影条件での映像も収録している。
撮影は、屋内シーンと屋外シーンの実写撮影によるもの。使用したカメラは、RED ONEカメラ2台を、ハーフミラー架台に取り付けて撮影している。架台はのカメラ感覚は、0-100mm程度で、箱庭効果などを意図的に表現するために130mm以上の設定も行っている。
撮影時に記録されたパラメーターは、「レンズ間隔」「輻輳距離」「ピント距離」「レンズ絞り」「カメラ高さ」「レンズの種類」「タイムコード」の7種。映像はTIFFの連番ファイルに記録されており、総データ量は3.5RBになる。FAT32でフォーマットされたHDDに記録しており、無償提供の場合、対応するHDD(各2TBの外付けHDD3個)を準備してNICTに郵送する必要がある。
(2) 測距カメラによる3次元コンテンツ
2台のカメラ映像からの補間映像生成技術の研究などにも活用することを想定し、さらに左右に2台のカメラを配置して、3視点映像+距離データで構成されている。
測距カメラとは、通常のカメラと同じ2次元の映像と同時に、同じ視野条件、同じ解像度で物体までの距離を測定できるカメラ。
(3) スキャナ型カメラによる3次元映像コンテンツ
カメラを2mm間隔で縦横2次元にスキャンしながら、15,000視点分の画像を取得したコンテンツ。多視点映像表示装置への入力データ生成技術の開発 や、映像補間技術の開発などに活用できる。
(4) 3次元CGコンテンツ
3次元CGソフト「Maya」に対応した3次元モデルデータ群、及びステレオ3次元映像に変換後のCGムービーから成る。MAYA2010のネイティブフォーマットで、レンダラーにはMental ray for Mayaを使用。立体の設定は、内包されているステレオカメラの設定を用いている。1080/30p。
視点位置をユーザーが設定することで、3次元映像を生成し、任意の画面サイズに対応した立体ムービーが生成できる。CGムービーは、条件の異なる下記の6つのシーンを制作している。各15秒。
1)神秘的な海底神殿
海底の不透明度や、水泡、マリンスノーを立体で表現。海底のコースティクスも表示。飛び出し量を一部大きくし、他は奥行き方向に展開している。鮫の奥行き方向、水平方向の移動が特徴。
(眼間距離65mm/輻輳点4500mm/提示サイズ200"/水平画角55度)
2)ミクロの世界〜蜜蜂と花畑
蜜蜂の羽の高速の動きや動作、精密な花を表現。眼間距離を連続的に変化させている。高速なフライスルーショットが特徴。
(眼間距離1.5〜50mm/輻輳点310mm/提示サイズ150"/水平画角44度)
3)小惑星に浮かぶ宇宙基地
ロボットと人のスケール比較を表現。空間の広がりの変化や、輻輳点、画角の変化が特徴。
(眼間距離50mm/輻輳点100〜826mm/提示サイズ200"/水平画角32〜98度)
4)不思議な世界〜貴金属溶解〜
宝石など光沢感のあるオブジェクトを表現。注視点を中心に回り込みのショットを生成。カメラ間の距離と輻輳角の変化が特徴。
(眼間距離1.5〜50mm/輻輳点2067mm/提示サイズ50"/水平画角61度)
5)バーチャルライトミュージアム
輝点のパーティクルを表現。マルチカメラを用いて複数カットによる編集を実施。カメラパンとトラックを組み合わせたカメラワークも特徴。カメラ間の距離と輻輳角を変化させている。
(眼間距離30〜40mm/輻輳点800〜2000mm/提示サイズ150"/水平画角52-79度)
6)公演の風景
遮蔽関係などで生じる運動視差を表現。カメラのウォークスルー撮影も実施。ステレオパラメーターは変化しない。
(眼間距離65mm/輻輳点1869mm/提示サイズ50"/水平画角29度)
(5) 2D/3D変換ソフトウェア
通常のカメラで撮影した2次元映像を元に、画像内の各物体の奥行きを推定し、擬似的な3次元映像に変換するソフト。3次元コンテンツの簡易な制作環境を提供するもの。奥行き推定に使うアルゴリズムを組み込み、変換技術の開発ツールとしても利用できる。
(6) 3次元映像フォーマット変換ソフトウェア
3次元CGコンテンツから多視点3次元映像表示装置の表示コンテンツを生成する変換ソフト。「Maya」上で動作し、3次元CGから仮想カメラによる多視点3次元映像を生成できる。