【NEWS】米ニューヨーク 近代美術館 MoMAがビデオアートをコレクション　土佐尚子氏の作品がコレクションに選定

　アーティストで、京都大学教員の土佐尚子氏のビデオアート "An Expression"が、米ニューヨークの現代美術館（MoMA）の永久コレクションとして所蔵されることになった。
　同作品は、パソコンが登場し始めの1985年に制作されたもので、光センサーを使って映像の明るさをリアルタイムに音に変換した作品）。さきごろ、シンガポールの日本大使館にあるジャパンクリエイティブセンターで個展を開催し、同作品も上映された。

　土佐氏に、今回のMoMAでの永久展示についての経緯と、今後の制作活動について聞いた。

ーー今回、,MoMAで採用されたビデオアート「An Expression」とは、どのようなものでしょうか。具体的に、「MoMAのコレクション」の意味、意義などを教えていただけますでしょうか。

　「作品は、まだ世の中にパソコンもなく、デジタルでなかった１９８５年に、アナログシンセサイザー（ローランドシステム１００）に接続した光センサーをモニターの表面に貼付け、映像の輝度からアナログシンセサイザーで音を生成する実験を試みた作品です。映像の輝度が高いと低音が出て、輝度が低いと高音が出力されるしくみを持っています。アナログシンセサイザーでの出力なので、音の変化にうねりができて面白い効果になっています」
　「MoMAのコレクション」の意味ですが、昨年の暮に、MoMAにパフォーマンス＆メディア部門が設立されました。そこで、その部門で大規模なビデオコレクションをすることになり、世界中から、作品を集めているようです。私は、ビデオアート部門の収集ですが、他に収集されたアーティストは、ナムジュンパイク、ビルビオラ、ゲーリーヒル、ジョンサンボーンがおり、日本人も少しいるようです。


ーー85年の作品がなぜ、今回、MoMAで採用されたのでしょうか。
　「 MoMAのフィルム＆メディア部門キュレーターで、親日家で有名なバーバラロンドンが日本に訪れていた時に、ビデオアートギャラリースキャンで、何人かのビデオアーティストを選び、「ニュービデオジャパン」という企画展を、1993年にMoMAで開催したことが、きっかけです」
　「MoMAは、フィルム＆メディア部門を「メディア及びパフォーマンス・アート部門」へ拡大しました。この部門は、タイムベースの芸術作品を集めて、保存を進めています。バーバラ・ロンドンはメディア部門のAssociate Curatorになり、私の作品をコレクションしました」


ーーMoMAで採用されたことについて、何が評価されたとお考えでしょうか。また、採用されたことについて、どのように思われますか。
　「まず、デジタル技術の黎明期に、リアルタイムに光センサーで映像のブライトネスから音に変換したことでしょう。つまり、映像で音楽を作成したわけです。映像が白っぽくなると、音は低くなり、映像が黒っぽくなると、音は高くなります。音は、アナログシンセサイザーのローランドシステム100です」
　「美術は、立体派、シュールレアリズムなど、それまでタブーだったことを生み出した作品が美術史に残っていきます。私の映像から光センサーで音を作るという新しい試みが評価され、それまでのビデオアートの歴史のタブーを打ち破り、新たな美術史の１ページを開いたということです」
　「1980年代のビデオアートの教科書といわれる作品は、ビルビィオラのようなナラティブな作品か、ゲーリーヒルのような言語的に実験的な作品でした。当時は特殊効果が、いろいろと出てきた時期だったので、若いアーティストはよく使って遊んでいました。しかし、その頃は、特殊効果を使った作品は、無意味な良くない作品として評価されました。私は、特殊効果を徹底的に行ったのです」

ーー土佐さんの現在のアート活動は、どのようなものでしょうか。今回のMoMAでの採用によってなにか新たな展開をお考えでしょうか。
　「自分の作品が、タイムベースのアートとして、エポックメイキングな仕事ができたことを誇りに思います」
　「私の現在のアート活動は、古今東西の文化に潜む無意識な共通項を結びつけることをテーマにしています。MoMAの採用によって、100年、1000年単位で、世界を視ることによってより自由に表現できることに気づきました」

（土佐尚子氏のウェブサイト）
http://www.tosa.media.kyoto-u.ac.jp/index.html