【InterBEE2009】チュートリアル・セッション「映像セッション デジタル映像の信号のスタンダードとは?」
2009.11.19 UP
編集時の解像度変換の課題についても解説
テープレスカメラの記録フォーマットは互換性がない状態
NHKが共同開発したハイブリッドノンリニア編集機の特徴
<<「最新技術の動向を確認・情報共有の場に」>>
InterBEEの併催行事の一環として、昨年から開催されているチュートリアル・セッションが今年も開催された。2日目の11月19日の13時から開催された「映像セッション デジタル映像の信号のスタンダードとは?」では、日本放送協会(NHK) 技術局 番組施設部 チーフ・エンジニアの新見琢司氏が登壇した。
セッションの冒頭、同セッションの企画・コーディネーターを務める、NHKアート 取締役の國重静司氏は、チュートリアル・セッションのねらいについて次のように話した。
「我々放送業界に携わる現場のプロでも、変化の激しいデジタル技術を使いながら、実際には知識として十分に理解していない場合がある。そうした、欠けている部分の知識をおさえ、また課題となっている点や今後の方向性などについて、議論のたたき台となる情報を共有する場として、このチュートリアル・セッションを設けた」
<<デジタル映像信号利用の課題を整理>>
新見氏は、番組制作の現場で用いる各種のデジタル映像信号についての基礎的な知識をわかりやすく解説しながら、実際の放送現場でのデジタル映像信号利用における課題点や、NHKにおけるワークフローなどについて紹介した。
新見氏はまず、番組制作のワークフローでの利用という視点から、デジタル映像信号における標準規格として、下記のような分類でそれぞれの規格をリストアップした。
【デジタルハイビジョン映像信号】
HD-SDI
【デジタル映像の圧縮技術】
MPEG-2
H.264/AVC
【デジタル映像のファイルフォーマット】
MXFファイル
<<HD-SDI 補助データで障害監視も>>
続いて、各規格についての原理について、詳しい説明を行った上で、最新動向や、番組制作における課題について解説した。
HD-SDIについての説明では、信号に含まれているアンシラリーデータ(Ancillary data 補助データ)に言及し、字幕補助データとして利用する場合のデータ構造などを紹介。また、最新動向として、「放送チェーンにおける映像・音声信号の障害監視」(ARIB TR-B29)に使用されることなどを紹介した。
<<コーデック H.264をベースにさらなる高性能規格が標準化へ>>
圧縮技術(コーデック)の説明では、H.264/AVCの新技術として、「情報量削減」のための、「イントラ予測」、「可変ブロックサイズによる動き補償」、「2種類のエントロピー符号化」などを紹介。また、「画質向上の新技術」として、「複数参照フレームによる動き補償予測」「4×4サイズの整数直交変換」「ブロックノイズ除去フィルタ」について説明した。
また、コーデックの最新動向として、HVC(high-performance Video Coding)が、MPEGによって、11月から標準化作業を開始したこと、EPVC(仮称、Enhanced Performance Video Coding)の標準化作業が、ITU-TのVCEGによって進められていることなどを紹介した。
HVC、EPVCともに、H.264をベースにして高性能化を目指しており、「H.264の5倍程度の圧縮効率を見込んでいる」という。
<<MXFファイル ARIBで番組交換の運用方法として検討中>>
MXFファイルについては、ラッピングのしくみやデータの構造などについて詳細を解説した上で、番組伝送などでの実際の運用で、どのようなメタデータを用いているかなどを披露した。
新見氏はさらに、MXFファイルの運用上の課題として「メタデータの汎用性が非常に広いため、各種パラメーターなどについては、運用面で明確に統一していくことが必要である」と述べた。具体的には、放送局間での番組伝送などで用いる場合、メタデータの項目で一般的に「title」とある場合、それを「シリーズ名」とするか、「番組タイトル名」とするか、といった細かい部分での統一が必要であると指摘した。
また、運用上、番組に関するメタデータの伝送について、「基本的に、メタデータは局内システムで一元的に管理しているため、MXFに埋め込むメタデータについては最低限のものにおさえておいて、あとはXMLで記述するといった方法が現実的かもしれない」と述べた。
新見氏は、こうしたMXFの運用上の課題について「現在、ARIBで、放送局間の番組交換用途としてMXFの運用方法を検討中」であることを紹介。
海外では、MXFのワークフローの改善を目指し、資産管理を目的としたAS-02(VXF Versioning)と呼ぶプロジェクトが進行しており、「放送局のファイルベース化へ向けて、今後MXFはますます注目されると見られる」と述べた。
<<放送のテープレス化 メタデータが重要な鍵>>
最後に、「放送のテープレス化に向けて」として、現状の課題について話した。
まず、テープベースによる番組制作のワークフローを図式化して説明した上で、「コンテンツはテープそのもの。実時間のコピーが必要。シーケンシャルな作業になるため、若干、非効率な部分がある。近年、コンピューターや圧縮技術の進歩、また記録メディアがテープからディスクへと転換しつつあり、さらには効率的な制作フローへの期待もあり、放送のテープレス化は、一つの流れとなっている」
そうした中で、テープレス(ファイルベース)化による番組制作フローの概念図を紹介。
新見氏は、テープレスによるメリットを次のように話す。
「コンテンツがファイルベースになることで、ディスクやテープなど、記録メディアから開放されることになった。これによって、コンテンツの自由度が高まり、実時間によるコピーなどの非効率さから開放された、また、完全な複製が可能、メタデータの扱いが容易になった、といったメリットが生まれている」
こうしたことから、「ファイルベース化によるワークフロー改善への期待は膨らんできている」としながらも、「より『使える』コンテンツのためには、ファイルの管理、メタデータの管理が不可欠である」と指摘した。
<<テープレス化の課題解決へ、生かせるフローの構築が重要>>
新見氏は続いて、ノンリニア編集とリニア編集の違い、編集におけるレンダリング処理や解像度変換のメカニズム、さらにはMPEG-2におけるLongGOP、Iフレームonlyの場合の編集時のフレーム処理などについて説明。こうした課題を解決する一手法として、さくら映機と共同で開発したツールについても紹介した。
最後に、「テープレス化に向けて」として、次のような課題を掲げて終了した。
■テープベースよりも効率的・安価に番組制作できるか
ファイルベースのメリットを生かせるフローへ
ネットワーク化が望ましいが、設備・運用コストを含めて規模を検討
■固有フォーマット(コーデック)から国際標準フォーマットへ
できるだけコーデックを統一して、トランスコードは減らすことが望ましい
国際標準でも多少の”方言”があるため、メーカー間の情報共有が必要
■いかに”使える”コンテンツとすることができるか
ファイル(コンテンツ)は、システムおよびユーザー管理が必要
2次利用に権利情報などのメタデータも必要、誰かが入れるしかない
■フォーマット・メタデータなどの放送局内での互換性
ファイルフォーマット、メタデータの互換性のための運用ルールが必要
HD-SDIのように、すぐに”つながる”が実現できるか
編集時の解像度変換の課題についても解説
テープレスカメラの記録フォーマットは互換性がない状態
NHKが共同開発したハイブリッドノンリニア編集機の特徴