私が見たInter BEE 2011(その1)全体状況、企画イベント概要
2011.11.25 UP
NHK永井技師長の基調講演
映像シンポジウムでの講演情景
リアル・ライブ空間の創生“絆”
音響シンポジウムでのパネル討論の様子
"NAB"、"IBC"、"BIRTV"と並ぶ世界の放送関連4大コンベンションのひとつ"Inter BEE 2011"が幕張メッセで開催された。3月の東日本大震災と原発事故、その後の厳しい電力事情と節電そして自然エネルギー志向、世界的経済不況と円高などにより社会・経済状況、産業構造は大きく変わろうとしている。7月には放送史上最大の変革であるデジタル移行もなされた。社会的にも放送・映像メディアの世界でも大きな変化を迎えるさなか、今年のInter BEEは開かれた。そのためか大会のコンセプトやテーマ、展示物の技術動向やプレゼンテーション法など例年とかなり違っていた。47回目となった今大会は「デジタル新時代におけるメディアの大きな変化に対応する」と謳い、出展者数800、来場者数3万人超と史上最高だった昨年よりわずかながら下回ったが、講演会場、機器展示会場とも時代の変革を感じさせる盛況さだった。出展物の技術動向については次号以降で順次見ていくことにし、本号では恒例の併催行事やフォーラム、イベントについての概要を紹介する。
初日朝、国際展示場エントランスホールでオープニング・セレモニーが開催され、主催者のJEITA、遠来のNAB、後援のNHKや民放連から来賓挨拶があり、大会実行委員長の開会宣言に続きテープカットが行われ、デジタル移行後初の記念すべきInter BEE 2011は始まった。午前11時からは国際会議場で、ゴードン・スミスNAB会長と永井研二NHK技師長による基調講演が行われた。
オレゴン州上院議員を務め日本との交流が深く、2009年からNAB会長になったスミス氏は、これまでのNHKが世界の放送の進展に果たしてきた大きな功績を高く評価し、特に90年代にNHKがNAB会場にてオープンハウスを開催しHDTVの開発状況などを公開したことにも触れた。最近もNHKやNICTはNABに参加しU-HDTVや3Dなどを展示公開し、来場者にわくわくするような体験を与えてくれた。デジタル化を機に放送はビジネスの転換期を迎え、ますます厳しい状況にある。今後も日本の放送界と協力、連携していきたい。今年のNABには大震災にも拘らず、多くの日本企業が出展され多数の参加者を送ってくれたことに感謝したい。この大災害の時に、日本の放送局が放送施設が被害を受けたにもかかわらず、迅速正確な情報を提供し多くの人命を救ったことに高い敬意を評したい。デジタル化を無事に達成し、両国の関係を一層強め、新しい技術を新しいプラットホームで活かしていくことを願っているなどと語った。
NHKの永井技師長は、東日本大震災の時、被災者がどう情報メディアに接しどう情報を得たのか、NHKはどう対応したのかについて具体的に語った。東京タワーのアンテナや仙台放送局などの放送施設、設備も被害を受けながらも迅速に正確な情報を放送したことを、当時の放送映像を見せつつ話した。聴衆はその迫力、リアル感のある映像に当時のことを思い起こし、その時NHKが果たしていた放送現場での挑戦に感じ入っていた。また想定される東京直下型地震に備え、大阪にバックアップ機能を整備するなど様々な対策の取組みを始めていること、2年後のハイブリッドキャスト、10年後のスーパーハイビジョン(SHV)試験放送、20年後の裸眼式3D放送など、これからの放送に対する構想についても語った。また直近の予定として、2012年ロンドンオリンピックでは、日本、英国、米国でSHVの同時パブリックビューを行うことも発表した。ソゥルオリンピック(1988)の時のハイビジョン街頭テレビを思い起こさせ、その後今日に至るハイビジョンの成長を見るにつけ、今後のSHVの発展を期待したいものである。
例年の恒例行事で人気イベントのコンテンツフォーラムについては、2日目に映像シンポジウム、3日目に音響シンポジウムが開催され、今年から有料行事になったにも拘らずいずれも盛況だった。
映像シンポジウムでは、デジタル時代には放送や映画だけでなく舞台芸術やライブステージなどにおいても、照明や映像とコラボレーションし、従来にない臨場感を創りだすことができる状況を踏まえ、最先端映像表現を具現化する技術や演出法などについて、それぞれの専門分野からプレゼンテーションが行われた。例を上げると、岩澤氏(NICT)は最近大きな流れになっている3Dに関して、超臨場感・現実感を与える技術として、より自然感のある裸眼式立体表示法の研究開発状況、成果、これからの展望について画像を交えつつ語り、聴講者の高い関心を呼んでいた。
これら4人の専門家のプレゼンテーションに続き、「臨場感あふれるリアル・ライブ空間の創生“絆”」と題するライブショーが上演された。東日本大震災の復興を祈念し、壇上では宮崎氏(日本ジャズダンス協会理事長)の振り付けにより、日本舞踊とジャズダンスを組み合わせたアップテンポの踊りが演じられ、その周囲には最新のLED照明も含めたカラフルな光とプロジェクション映像が天井から壁面、見学者の頭上にも乱舞していた。三味線や太鼓の伴奏とジャズが混ざりあったテンポの速いリズミカルな音楽にあわせ演じられる舞踊と強烈な光と映像のコラボレーションの迫力に、場内にあふれた来場者は酔いしれていた。
音響シンポジウムは「Live Soundのデジタル構築~その運用と実際~」をテーマに、モデレータと第1線で活躍する専門家5人が壇上に並びパネル討論風に進められた。コンサート、イベント、劇場などにデジタルにより広がる新しいライブサウンドの世界に関し、デジタル技術により効率的なセッティング、ミキシングデータの迅速な再現、PA音質の改善、音場の構築などが可能になりつつあるそうだ。システム開発、実際の制作現場に関わる技術者、クリエータから、運用面や課題について講演・討論・質疑が交わされ、終演後には最新PA機器の展示公開も行われた。
インタービー発祥の元で今回48回目を迎えた「民放技術報告会」は、国際会議場で3日間連続開催された。画像技術、データ放送・デジタルサービス、制作技術・送出技術部門などテーマ毎に9セッションに別れ、キー局、地方局から65件の報告が発表された。2日目午後には特別企画として、大震災時における放送の役割をテーマに「検証!東日本大震災と放送技術」~地震発生から数日間を検証し、何に備え何をすべきか?~についてパネル討論が行われた。岩手、宮城、福島の被災現地放送局とキー局の担当者がパネリストとして参加し、震災直後の対応と今後も想定される大災害に対する備えと課題などについて活発な討論がなされた。テーマが切実な問題だけに、参加者はメイン会場に入りきれず、隣の会議室に設置した大型ディスプレイで聴講するほど大盛況だった。
2008年に始まり今年4年目を迎えた「チュートリアル・セッション」は、機器メーカや制作プロダクションの第一線で活躍する中堅講師陣が、次世代を担う若手技術者や学生向けに現場で役に立つ実践的技術を分かりやすく伝授する企画で恒例行事として定着してきた。映像セッションでは映像シンポジウムとも関連する「舞台照明および映像表現に必要なネットワーク技術の基礎と実践」、「ライブ映像配信技術の実践と具体的事例」のテーマについて、実践的に分かりやすく講義してくれた。音響セッションでは、制作現場で重要な技術の「デジタルワイアレスマイクの原理と応用」、大きな問題になっている「ラウドネス・コントロールの実践講座」が取り上げられていた。どのセッションも次代を担う若手技術者、クリエータの卵達を集め盛況だった。
<right>映像技術ジャーナリスト(学術博士) 石田武久</right>
NHK永井技師長の基調講演
映像シンポジウムでの講演情景
リアル・ライブ空間の創生“絆”
音響シンポジウムでのパネル討論の様子