【NEWS】第2回ブラジル日本デジタル放送推進シンポジウム 次世代の放送技術をテーマに開催

2011.12.18 UP

日本の携帯電話にはブラジルでワンセグ受信できるものもある
ハイビジョン3D放送が定常的に行われている

ハイビジョン3D放送が定常的に行われている

FOBTVを解説するSET会長のリリアナ・ ナコネチニジ氏

FOBTVを解説するSET会長のリリアナ・ ナコネチニジ氏

会議の参加者達(写真提供:サンパウロ大学)

会議の参加者達(写真提供:サンパウロ大学)

 11月28-29日の2日間、サンパウロ大学サンパウロ校(ブラジル・サンパウロ州)で「第2回ブラジル日本デジタル放送推進シンポジウム」が開催された。ISDB-T方式を採用したブラジルは、次世代方式の研究開発に着目しており、次のデジタル放送方式に向けた研究を始めようとしている。日伯の研究者交流を通じて、共通する課題を見つけ研究の契機としたい希望を持っている。今年は日本から5名の基調講演者が招かれ、最新の研究状況を紹介すると共に、現地研究者との交流がなされた。
(映像新聞 杉沼浩司)


■ISDB-Tが世界に拡がるきっかけとなったブラジルの採用

 2006年6月にブラジルがISDB-T方式採用を決定したことが、ISDB-Tの海外進出に導く鍵となったことは記憶に新しい。それまで、日本以外に採用国が無く孤立状態だったが、ブラジルの採用を機にISDB-Tは南米に拡がった。アジアでもフィリピンの採用を得ており、現在はアフリカ諸国での採用を目指して活動がなされている。
 ブラジルのISDB-Tは、変復調は日本と同一であるが、情報源符号化はMPEG-2ではなくMPEG-4 AVC/H.264(以下、AVC/H.264)が採用されている。また、オーディオもMPEG-4 AACを採用している。
 AVC/H.264を採用した結果、1チャンネル中にHDTV複数プログラムが可能となった。現地では、3D放送も定常的に実現されており、訪問時には、あるチャンネルのプログラムの一つとして通販番組が3Dで放送されていた(その際の第1プログラムはニュース番組)。

 ワンセグも放送されている。こちらは、日本、ブラジル共にAVC/H.264だが、ブラジルは30fpsが採用されている。また、レベル1.3(日本はレベル1.2)が採用されており、映像データは最大768kbps(日本は384kbps)が割当可能である。ただし、変調パラメータとの兼ね合いで、最大量が割り当てられないこともある。サンパウロなどの大都市では、多くの放送局がワンセグを開始していて、携帯電話で視聴する人の姿も見られた。「ワンセグ」の呼称はブラジルでも定着しており、カタログ等にも注釈無しで記載されている。ポータブル・ナビゲーション装置(PND)にワンセグを搭載した携帯機器も普及している。


■基調講演でホログラフィ、スーパーハイビジョンをアピール

 昨年に引き続きサンパウロ大学の主催で同校にて開催されたシンポジウムは、日本より5名の基調講演者が登壇した。今年は、日本の先端放送技術を網羅的に解説することを目的に基調講演者が選択された。内容は、ホログラフィ等による超臨場感研究(NiCT 榎並和雅理事)、スーパーハイビジョンの伝送に必要な変復調技術(NHK技研村山研一専任研究員)、情報源符号化と3D技術(KDDI研究所酒澤茂之博士)、アクセシビリティ研究(女子美術大学為ヶ谷秀一教授)、4K映像とハードウェア技術(杉沼)、となった。コンセプトおよびアプリケーションという階層から実装まで、幅広い日本の研究状況が紹介された。

 榎並理事は、NiCTの活動を紹介するとともに、同氏が率いてきた超臨場感に関する研究を詳説した。究極の3次元映像技術であるホログラフィを、電気信号に変換して伝送するという目標は驚きを誘っていた。
 村山研究員は、スーパーハイビジョンを概説するとともに、NHK技研が開発中の新しい変調方式の実験結果などを説明した。1シンボルにつき12ビットの伝送が可能な4096QAMをベースにOFDM(直交周波数分割多重)化した変調方式や、これを同一周波数で偏波を直交させて2波を同時伝送するMIMO技術が紹介された。これらは、いずれも東京都世田谷区のNHK技研から実際に電波を発しての試験も行われており、受信状況の結果なども公開された。
 酒澤博士からは、KDDI研究所がNiCTの委託を受けて開発した映像符号化方式や同研究所が独自に開発を進める自由視点映像について発表があった。映像符号化方式は、AVC/H.264より低いレートで同等以上の画質を実現する。この方式の成果は、今年のCEATEC Japanにおいてける「8Kシアター」で示されている。ここでは、スーパーハイビジョン映像を70Mbpsに圧縮して伝送していた。
 自由視点映像は、数台のカメラで撮影した映像から、自由な視点を再現するもので、同研究所の技術はすでにサッカー中継で採用されたという。カメラが入れないピッチ上等に視点を置き、解説者が状況を説明する、といった用途に使われているという。
 為ヶ谷教授は、今後望まれるアクセシビリティ(弱者のための親和性向上策)について講演した。ライブ番組におけるクローズド・キャプション、CGによる手話生成、高齢者のための「遅聞き」、視覚障害者のための「速聞き」など、従来は不可能と思われていた個別視聴者向けの変換、加工が技術の進歩により実現可能性を帯びてきた状況を説明した。
 ブラジルの研究者達は、3300万画素を運ぶスーパーハイビジョンの信号が地上波信号で伝送できるか、という点に強い関心を示していた。変復調や符号化については、「スーパーハイビジョンに使うのか」といった具体的な質問も聞かれた。


■次世代デジタル放送技術に参加目指すブラジル FOBTVで規格統一の覚え書き

 ブラジルからは、11月に上海で開催された次世代デジタル放送に関するサミット「FOBTV」について、ブラジル・テレビ技術者協会(SET)代表のリリアナ・ナコネチニジ氏が参加し、本人がその状況を報告した。「FOBTV」には、米ATSC、米NAB、NHK技研、英BBC、EBU(スイス)などとともにSETも参加し、合意形成などの一翼を担ったという。FOBTVからは規格統一を指向することをうたった覚書が共同で発行されている。

 ブラジルで開発されたDTV用ミドルウェア「ジンガ」に関する報告は、開発者であるルイス・フェルナンド・ソアレス教授からなされた。ジンガは、DVB-GEM、HTML、BMLなどとブリッジを張り動作できる。ジンガは孤立した存在では無く、先行するデータ放送方式との親和性が考慮されたソフト体系であることが示された。ブラジルは、このミドルウェアの普及を図っている。


■日伯両政府による共同研究覚え書きをもとに実施

 今回の会議では、日伯共同研究に向けた体制整備などについても率直な意見が交わされた。日伯両政府は、2006年に「ISDB-T方式を基礎とするデジタルテレビでのブラジル方式の実施及びそれに関連したブラジル電気電子産業の発展にかかる協力に関する日本国政府とブラジル連邦共和国の間の覚書」を締結している。共同研究はこの覚書の精神に則り、両国間に共通する技術的課題について実施されることになる、とズッフォ教授は述べている。

ハイビジョン3D放送が定常的に行われている

ハイビジョン3D放送が定常的に行われている

FOBTVを解説するSET会長のリリアナ・ ナコネチニジ氏

FOBTVを解説するSET会長のリリアナ・ ナコネチニジ氏

会議の参加者達(写真提供:サンパウロ大学)

会議の参加者達(写真提供:サンパウロ大学)

#interbee2019

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