私が見たInter BEE 2011(その3)ファイルベース化進む制作系
2011.12.12 UP
ファイルベースワークフロー”iSTEP+”(池上通信機)
フィニッシングツール”SMOKE”の実演(オートデスク)
カラーコレクション "DaVinci Resolve"(ブラックマジック)
NHK、民放局で使われているノンリニア編集系”Prunus”(さくら映機)
(その2)では多様化、多極化しているカメラの技術動向について述べた。本号では放送局や制作プロダクションで進んでいるファイルベースワークフローに関連する動向について見てみたい。テープレスカメラによる撮影からノンリニア編集系などによるポストプロダクション、サーバで構成される送出からアーカイブまで、コンテンツデータやメタ情報をファイルベースで管理、処理し、ネットワーク経由で素材を共有することも可能なワークフローシステムである。システムに使われるデジタルデータを記録・保存するメディアは、HDD、光ディスク、半導体メモリー、さらにLTO(Linear Tape Open)と多様化している。
ソニーは2種類のファイルベースのワークフローを公開した。一つはニューモデルの”XDCAM Station”を核に、記録媒体に従来型光ディスクと次世代大容量ディスク(3層100GB、4層128GB)を使い、撮影からノンリニア編集、送出、アーカイブまでをファイルベースで作業するものである。また4層化とデュアルチャンネルヘッドで高速化と大容量化したディスクライブラリーシステムは、SxSメモリーとSDIインターフェースも使えテープ系とシームレスにリンクし、報道、制作のワークフローが効率的になる。もうひとつは高速・大容量"SRMemory"を採用した新開発の”SRMASTERを使い、4K、2K、3Dなどにマルチチャンネルの運用にも対応する高品質のワークフローも公開した。
パナソニックは、映像符号化の新体系としてAVC Ultra(次号参照)を提唱し、それに添う制作システムを公開した。また、従来からのP2HDワークフローに加え、ロンドンオリンピックで使う予定の3Dコンテンツ制作システム、すなわち前号で述べた3Dカメラ、P2 カード搭載の3D同期収録再生ポータブルデッキ、3Dライブスイッチャ、3DLCDモニターなどで構成されるシステムの実演公開をやっていた。また今後放送局などにおいて大きな課題になる大容量の番組アーカイブ用に、記録メディアに高速・大容量のLTOを使うアーカイブシステムと素材を取り込むビデオインジェスターも展示していた。
池上通信機は既に実績あるファイルベースワークフローをさらに進化させた"iSTEP+"を公開した。映像・音声データを記録する「編集・素材サーバ」、番組や素材の関連情報を管理する「アセットゲートウエイサーバ」を中心に、各構成要素をネットワークでリンクしファイルベースでシームレスに作業できるシステムである。現在業界で使われているGFCAM、XDCAM、P2HDなどの各種ファイルをそのままインポート、あるいはVTRテープや回線からベースバンド信号でインジェストする素材収録・登録系、それらの番組素材を使ってAvid、EDIUS、Prunusなど各社のノンリニア編集系を使いファイルベースで作業するポスプロ系、素材サーバや送出・アーカイブサーバで構成される。このシステムを使うことにより、報道系番組などにおいて一層迅速で効率的な作業ができるようになる。
東芝は、64Gbフラッシュメモリーを基本に構成し、低消費電力、省スペース、大容量、高信頼性のメモリーサーバ"VIDEOS neo"の実機とそれを使った番組サーバとアーカイブシステムを展示した。NECは即時性を必要とする報道用ファイルベースのワークフローとして、素材サーバに次世代グリッドストレージ”iStorage HS”を、送出サーバに従来から実績のある"Armadia"を使うシステムを公開した。日立国際もテープレス時代のファイル化に応え、各種ファイルフォーマットに対応するビデオサーバ”PROGRADE”(収録系HDD、送出系SSDを搭載)を使い、収録から送出までのワークフローを公開していた。また日立マクセルはNHKと共同開発したiVDR-EXカートリッジ(小型の携帯型HDD)を使った”RAID BOX”を出展した。
朋榮はデジタル時代に相応しいファイルベースでクリエイティブな多彩な制作システムを出展した。目玉のソリューション”Media Concierge”は、映像、音声、静止画など各種素材を、インジェストから編集、管理、送出、アーカイブまでを統合管理するメディア・マネジメントシステムで、昨年より機能アップされ、メタデータ運用がやりやすくなり報道支援系との連携も強化された。また最近次世代記録メディアとして注目されている最新ストレージ規格のLTO-5を用いた大容量アーカイブレコーダも展示していた。
以前からテープレスの制作システムで世界的に高い実績を持つクオンテルは、昨今のデジタル環境に対応する制作システムを公開した。新バージョンソフトを搭載したハイエンドのフィニッシングマシン"Pablo 4K Neo"は、対話的なカラーグレーディング作業がやりやすくなり、機能アップした3D制作ツール"geo fix2"は、LR 2CHのジオメトリーエラーを自動補正し、高品質の3Dコンテンツ制作がより効率的にできるようになった。またマイクロソフトのストリーミング技術と連携し、グローバルなワークフローを実現する"Q Tube"は、世界のどこからでもインターネット経由でサーバにアクセスし素材を扱えるシステムである。
また世界的に実績高いオートデスクは、Mac 版フィニッシングツール"Smoke"を公開した。直感的なタイムラインと操作性の良いGPUにより、高度でクリエイティブな作業がインタラクティブに効率的にやれ、また現在世界中で使われている各種メディアフォーマットをサポートし、映画製作だけでなく高品質のコマーシャルやテレビ番組制作にも適している。
アビッドは世界中に広がる放送局やポスプロハウスなどテープレス制作システムのユーザーをサポートする数々のソリューションを公開した。メインステージでは、番組やニュース制作の最新ワークフローツール、システムの実演をやっていた。"ISIS5000"とアセットマネージメントシステム"Avid Interplay"を核に、インジェストから編集系の"Media Composer"、送出系の"Interplay Transfer"からアーカイブ"Interplay Archive"まで一連のシステムを実演公開していた。
国内外で高い納入実績を持つグラスバレーは、今回も多種多彩な制作システムを公開した。主な出展物はニュース、スポーツ番組など向けに"K2"シリーズを軸にした編集ソリューションと、機能アップしたノンリニア編集ソフト"EDIUS"を搭載したHD対応編集ワークステーション"REXCEED”である。
世界各国で映像制作システムを扱っているブラックマジックは、現在多くの映画、CM、高品質のテレビ番組制作に使われており、最近のデジタル制作環境にあわせて機能、性能を一層向上させたカラーコレクションシステム"DaVinci Resolve"の実演公開をしていた。
IMAGICAデジックスは、特徴的な制作システム、ツールを公開していた。Vizrtの”LIBERO Highlight”は選手やボールのトラッキングによるハイライト効果、スピード表示機能、オフサイドラインの解析と表示、戦術解析を明確に魅力的に演出するグラフィックなどスポーツ中継を効果的に見せる手法である。また“Viz Reporter”はスマートフォンを使い取材現場から直接オンエアできるシステムで、報道取材の機動性が向上する。さらに、4K、3D対応カラーグレーディングシステム”Nucoda Film Master”は、3D映像に対するカラーグレーディング機能を一層拡張し、LRだけでなく個々のカメラの色調整やステレオ映像にふさわしいパン、チルト、ローテーションに対応するものである。また"DVO Clarity"はデジタルまたはフィルム映像のグレイン(ノイズ)を除去、補正するツールで、フィルムの傷やごみなどの修復も可能である。
さくら映機は、ノンリニア編集系"Prunus"シリーズを公開していたが、XDCAM、P2HD、GF各フォーマットとHD-SDIにも対応し、テープシステムとの親和性が高くNHKや民放でかなり使われている。
<right>映像技術ジャーナリスト(学術博士) 石田武久</right>
ファイルベースワークフロー”iSTEP+”(池上通信機)
フィニッシングツール”SMOKE”の実演(オートデスク)
カラーコレクション "DaVinci Resolve"(ブラックマジック)
NHK、民放局で使われているノンリニア編集系”Prunus”(さくら映機)