【ハリウッド・3Dエンターテインメント・サミット】盛り上がる米国3D市場 ドリームワークス カッツェンバーグ氏「誰もが恩恵を受けられる」
2009.10.2 UP
<<ほぼ満席の会場 3Dアプリケーションにぞっこんのハリウッド>>
9月16−17日の2日間、米国カリフォルニア州ハリウッドのお膝元ユニバーサルシティのヒルトンホテルで3Dエンターテインメント・サミットが開催された。300席ほど用意されたコンファレンス会場はほぼ満席で、3Dアプリケーションに対するハリウッドの熱意が感じられた。
<<興業収益を押し上げる3D上映 「56%が3D上映からの収益」というケースも>>
コンファレンス委員長で、全体の進行役を務めたボブ・ダウリング氏は初日の冒頭で、3D上映が映画の興行収益に大きく貢献していることに触れた。
ドリームワークス制作のアニメーション「モンスターVSエイリアン」は、2D及び3D上映の合計収益約2億ドルの中で、3D上映は約6,000万ドルの収益を上げたという。またディズニー制作の実写とCGを組み合わせた「Gフォース」は全興行収益の56%が3D上映からの収益だという。
9月17日の基調講演ディスカッションに登壇したドリームワークスCEOのジェフリー・カッツェンバーグ氏は3D映画制作を全面的に支持する。ドリームワークスは「モンスターVSエイリアン」の3D上映で高収益を記録した。同スタジオ制作の人気アニメ映画「シュレック」の新作の3D版も制作中で、2010年5月に公開される予定だ。
<<カッツェンバーグ氏「スポーツ、ゲームが3Dコンテンツの中心に」>>
カッツェンバーグ氏は3D映画について「誰もが恩恵を受けられる」、また「この機会に映画館の対応が遅れたら、現代で最も残念な出来事となるだろう」と述べた。
カッツェンバーグ氏は、3Dの普及が進む現在の状況について、カラーテレビの普及期と重ね合わせて次のように述べた。「カラーテレビの登場は私たちに偉大な経験を与え、それによって、わたしたちはモノクロテレビを観なくなった」。
こうした経験を与える家庭テレビ向けの3Dコンテンツとして、「特にスポーツやゲームが市場の中心となるだろう」とし、映画を含めた3Dコンテンツの充実によって「2010年は家庭用の3Dテレビが一気に普及するだろう」と予想した。
<<シネマロールアウトプラン「2010年末までに毎月500スクリーンずつ3装置を設置」は18カ月遅かった?>>
カッツェンバーグ氏はしかし、映画市場における3Dの普及は必ずしも理想通りに進んでいないと見ている。その課題の一つは、3Dに対応する映画館の不足だ。
米国の大手映画館経営会社AMC、シネマーク、リーガル・エンターテインメントの3社が合弁で設立したDCIP(Digital Cinema Implementation Partners)は、デジタルシネマ映画館を普及させるために設立した会社。
このDCIPが、今年9月始めに「2010年末まで毎月500スクリーンにデジタルシネマシステムを設置する」という「デジタルシネマロールアウトプラン」を発表している。
しかし、カッツェンバーグ氏は、「DCIPが18ヶ月前に同プランを実施する資金調達の目処をつけていれば、現在の状況がかなり違ったはず」と失望を隠さなかった。
<<上映期間が短い3D>>
初日のオープニングディスカッションでは、映画興行において、大きな収益に結びついているといわれる3D映画でありながら、上映期間が非常に短いケースが多い点が課題として上げられた。
ユニバーサル配給の「コラライン」の監督およびビジュアルエフェクトスーパーバイザーが登壇した。3D上映がヒットしたにもかかわらず、米国のアイドル歌手グループ「ジョナス・ブラザーズ」の映画上映を控えていたため、「コラライン」の3D上映はわずか3週間で終了したという。
しかし、それにも関わらず、全興行収益の85%は3D上映によるものだったという。
「コラライン」のDVDは3Dバージョンも含まれて販売されているが、3D対応のテレビを持つ家庭はまだ少ない。ビジュアルエフェクトスーパーバイザーのブライアン・バントハル氏は「3Dの家庭用バージョンのリリースをもう少し待って欲しかった」と述べた。
<<年末までに7000スクリーン>>
シネマアナリストのシャーロット・ジョーンズ氏は今後の3D市場の予測を発表している。
現在全世界に5000スクリーン存在する3D対応映画館は年末までに7000スクリーンになることが見込まれている。
メキシコではデジタルシネマ対応映画館のほぼ100%が3D対応だという。中国ではドルビー方式の3D上映システムを積極的に採用しており、また英国も3Dシステムを取り入れることに積極的だという。
ジョーンズ氏もまた、3Dによる興行収益の大きさに触れている。現在までに3Dによる収益のみで1億5000万ドルを記録した映画は10タイトルに上るという。
「3Dがデジタルシネマの展開に与えるインパクト」と題したパネルディスカッションでは、もしディズニー、ドリームワークス、ソニーピクチャーズが同じ週末に同時に3D映画を公開することになったら、9000スクリーンが必要になるという話題も出た。
<<3Dにおけるオルタナティブ・コンテンツ>>
3D映画以外の3Dコンテンツを映画館で上映することについてのパネルディスカッションでは、期待が大きいという意見が多かった。
映画以外の3Dコンテンツとは、スポーツ中継や、コンサートなどを映画館でリアルタイム3Dで上映するという提案である。今年の始めからプロフットボールや大学フットボールの試合を3Dで中継するという企画が実験的に行われており、近い将来ライブコンサートを映画館に観に行くという日が来るのかもしれない。
リアルD社のワールドワイド担当社長ジョセフ・ペイソト氏は「3Dのオルタナティブ・コンテンツ上映は映画館経営者の間で大きなブームになるだろう」と予想している。一方ソニー・エレクトロニクス・デジタルシステム担当部長のアンドリュー・スタッカー氏は「わたしは映画館で映画を観る事が大好きだが、人々がスポーツイベントのような映画ではないコンテンツにお金を払ってわざわざ映画館に出向くかどうかが疑問だ」と慎重な意見を述べた。
<<テクニカラーがフィルムベースの3Dシステムを発表>>
デジタル3D上映システムが話題の中心となっている中で、テクニカラー社は9月17日、既存のフィルム映写機に特殊なレンズシステムを取り付けるだけで、3Dの上映が可能になるというフィルムベース3Dシステムを発表した。スクリーンはシルバースクリーンを要する。
まだ全米の90%がフィルム映写機を使っているという現状と、厳しい経済情勢をふまえ、レンズシステムのコストだけで3D上映ができることは特に中小規模の映画館経営者にとって朗報である。