【Inter BEE Forum 2007】映像シンポジウムレポート ―その2
2008.3.21 UP
~“ハード・ソフト・ネットワーク技術革新”がもたらすデジタル映像コンテンツ制作の新展開~
□シンポジューム
「坂口 亮氏の講演要旨」
デジタルドメイン社におけるCG技術を駆使した最先端の映像制作について、お話がありました。
映画のための映像制作では、決められたスケジュールの中でクォリティを維持するために、様々な工夫がなされています。制作の開始にあたり、プレビジュアライゼイション(pre-biz)は、効率的に制作を進める上では大変重要な役割を果たしています。
プロジェクトの始めに行われるのが、アートデバートメントにおけるコンセプトアートで、デジタルドメイン社ではアートディレクターによるコンセプトアートを非常に重要視しています。pre-bizと、充実したコンセプトアートによって、かなり3D制作作業における試行錯誤が軽減される。また、監督の頭の中にあるビジョンを引き出すため、動いているコンセプトを生成することもあるようです。複雑な自然現象をリアルに表現するためには、何よりも実写映像によるリファレンスの研究が欠かせない。実写映像が捉えている現象を、繰り返し見ることでそこに起きている事象を十分に把握することができ、その結果からソフトウエア開発に必要な要素がはっきりと見えてくるのだと言えます。
映画における映像制作では、高いクオリティレベルを要求されるため、制作のパイプラインをしっかりと構築し、それぞれの段階での才能が組み合わされて、チームワークにより効率的な作業が進められている事が良く分かりました。
ハリウッド映画のプロダクションで、CG映像制作に関わるソフトウエアの開発など、第一線で活躍されている坂口氏の講演の要旨をまとめました。
「山崎年正氏の講演要旨」
私のプレゼンテーションには、三つのポイントがあります。最初はIPを使った映像の制作系の話、それから3年前にUSC、南カリフォルニア大学のロバードゼミキスセンターと慶応義塾大学の湘南キャンパスを結び、10ギガのネットワークを使ったリモートでの映像編集のコラボレーションを行うプロジェクトのシステムおよびネットワーク構成の事例を紹介し、最後にネットワークを構築する際のポイントについて述べます。
コンテンツ制作というテーマですが、私どもが考えているイメージは、送出系、編集系、アーカイブ系全体にわたるネットワークシステムです。そこでは、ワークフローの今後の発展、つまりデジタル化というところで、テープレスで全てのコンテンツをシェアできるような形を想定しています。
放送系システムのIP化は、撮ったものを共有素材サーバーに蓄積して、おのおののロケーションで編集し、最終的にはコンテンツを全てサーバーにプールします。これをネットワーク化することによって、素材の共有化とか電子化により、離れた放送局間でもネットワークを通じて、このプールされた素材が使える様になるのでないかと考えております。
そう言うものを統括的に行えるシステムというのは、大容量のサーバーを中心としたVideo SANを利用した編集ネットワークのような例があります。具体的な実働システムとしては、3年前ほど前に行った日米の大学間を10Gbps超高速インターネット回線により結び、コラボレーション型遠隔映像制作システムの実現を目指す実証実験の例があります。概要は、未来の映像制作環境を提案することを目的にして、南カルフォニア大学ゼメキスセンターと慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの2地点間で、デジタルシネマ映像編集の協調作業を行う実証実験を行いました。基本的にはIPV6とIPV4を組み合わせたネットワーク上で行われました。ここでの問題は、IPV6とIPV4が混在することを想定していなかったことです。そのために開発した技術として、シスコシステム社のIPV4/IPV6 Tunnelingシステムがあります。これを活用して、ネットワークを構成することができました。(Baja Project) 実際に流された情報量は、デジタルシネマ用のストリームとしては、7.08Gbpsのデータがネット上に流れていました。トラフィックでみると、10Gbpsのネットワークの中で7Gbps位が使われていたことが実証されました。
しかし、ネットワークでのワークフローを考える場合に、障害が発生した時の通信停止時間を最小限に抑えるべきネットワークのデザインが必要となります。ネットワークを使う場合のポイントとしては、デバイス停止時にもネットワークを停止させないために、階層型ネットワークデザインの考え方を採用したり、収束と自働回復のメカニズムや、インテリジェントな隣接ノード連携など、冗長系をしっかりとデザインすることが重要です。ネットワークの信頼性を向上させるための技術としては、Routing Technology、First Hop Redundancy、Switching Technology、Device Level Technologyの分野で、ネットワークの利用における問題点の解決に向けた研究がすすめられています。
コンテンツ制作ネットワークシステムの構築ポイントとしては、ネットワークにつながれる機器が、ネットワーク上でどのくらいのデータ量のやり取りをするかを把握して、十分な帯域確保の設計を行う必要があります。また、トポロジ設計の考え方を導入して、ワークフローの最適化を図ることが重要です。その上に、セキュリティの確保、バックアップ用ネットワークの確保など、十分な信頼性が確立できないと放送系の利用には十分とはいえなくなります。IPには、信頼性がないと言われないように我々も努力しております。
ネットワークの具体化のために必要な検討事項としては、
・ネットワーク上につながる機器のトラフィックの種類、通信要件
・接続するシステムのインターフェイス
・将来のトラフィック量の増加見込み
・障害時に影響を受ける範囲、許容される遮断時間
これらの項目に対するしっかりしたネットワークシステムのデザインが必要となります。
IP利用の難しさばかりではなく、技術の進化によりIP化の利点も積極的に考えられるようになってきています。
デジタルデータとして管理されることにより、メタデータによるコンテンツのインデックス化が可能となり、バーチャル的なストレージが確保されることにより、保管場所などの物理的ハウジングのためのコストの削減が可能となったりします。また、作品、素材などコンテンツの高速検索が可能となり、コンテンツ制作の作業効率が向上すると共に、多様なメディアに対する映像資産の再利用が容易となります。
PCで、ネットワーク上の素材を利用して編集ができたりするようなことが、気がつかないうちにスタンダードになっているような状況を作り出すのがネットワーク技術側の仕事だと思っています。そのために、シスコ社のI/Oゲートウエイのような、多様なシステムをインターフェイスさせることができるシステムの開発などにより、映像系のシステムにも容易にネットワークが導入されるようになってきています。
(さいごに)
この映像シンポジュームにおいては、各講演者のプレゼンテーションのあと、会場を交えてのパネルディスカッションが行われ、それぞれの講演に対する補足の解説や、会場からの質問に対して各パネラーとのディスカッションが行われました。
InterBEE Forumでは、最新の放送技術の動向を捉えて、コンテンツ制作側から見た視点で議論をするシンポジュームを、コンテンツの制作現場で活躍している方々を招いて毎年開催している。
今回の講演者の一人であった、デジタルドメイン社の坂口亮氏は、今年のアカデミー賞のScientific and Engineering Awardを受賞しました。表彰の事由は、講演で話された流体のCG表現技術に関するものでした。
おめでとうございました。
坂口亮氏には、4月中旬にインタビューを行う予定です。ご期待下さい。
(為ヶ谷 秀一)