私が見た『NAB SHOW 2009』における技術動向(その4)デジタルシネマ・3D・スーパーハイビジョン

2009.6.16 UP

 前号までテープレス化、高画質・高機能化が進むカメラの動向、運用性・効率性が向上する制作システム、そしてそれらを支える符号化技術・ネットワーク技術などについて紹介してきた。本号では、定着してきたデジタルシネマ、その中でも今回大きな盛り上がりを見せていた立体映像関連の動向についてみてみたい。さらに今回特別出展し大きな話題になったNHKとNICT(情報通信研究機構)の最先端技術についても紹介してみたい。

 デジタルシネマの進展に伴い、超高精細度のカメラやディスプレイ、大容量で高速の記録メディアなど多種多様な機器やシステムの出展が数多く見られた。その中で今回とりわけ目立ったのが3D熱の高まりで、多くの企業から、機器・システムの展示にとどまらず、それらを使って制作されたコンテンツや制作技法についても公開されていた。その動きを象徴するようにサウスホールの地の利の良い場所に“3D Pavilion”や“3D Home Consortium”も開設され、多種多彩なデモが行われていた。幾つか目に付いたものを上げると、エンターテインメント3Dのコンテンツ制作や技術開発に長年取り組んでいる“3ality Digital”(米)、ホーム用3Dツールなどを扱っている“3DTV Corp”(米)、DCIスペックのデジタルシネマに熱心に取り組んでいる“Qube Cinema”(米、英)などである。その中で、韓国の“ETRI” (Research Institute)はHyundai製50型LCD 3Dディスプレイによる2眼式立体映像の展示に加え、無線LAN環境でのモバイル端末用の3D-DMB(3D Digital Multimedia Broadcasting)を見せていた。画面サイズは4.8インチと小さいが、眼鏡なし立体方式で新たなビジネスチャンスの可能性として注目された。変わったところでは“American Paper Optics”(米)が様々なデザインの各種立体用眼鏡を沢山並べていたが、従来の少々不格好な立体眼鏡からの脱却を目指しているそうで、多くの見学者が色々なデザインの3D眼鏡を楽しんでいた。

 場内では多くのブースで3D映像を見ることができたが、中でも大画面で高画質だったのはパナソニックの3Dシアターだった。3DコンテンツはBD(ブルーレイディスク)に記録され、L/R用2CHのフルHD映像は120Hz倍速表示の103型PDPにより上映され、それと同期して動作するアクティブシャッター付眼鏡を通して見る仕組みである。アニメーションやグループダンス、北京オリンピックなどの立体映像が鮮明な大画面に表示され、見学者を魅了させてくれた。この方式はLR用に映像を間引くことがなく、2チャンネルともフルHDの高精細映像なのが特徴である。また同社は3Dコンテンツ制作が増えることを見込み、一体型2眼式立体P2HDカメラレコーダも参考出品した。

 JVCは従来からデジタルシネマへ熱心に取り組んでいるが、今回は3D映像システムも公開した。最薄部が39mmで46インチサイズの液晶ディスプレイ表面に、走査線1ラインおきに直交する偏光フィルターを貼り、偏光眼鏡を通して見る“Xpol”方式(有沢製作所)である。L/R2CHの映像信号はLine by Lineで通常のテレビ信号と同様に扱え、簡単な構成でちらつきのない3D視聴環境が実現できるため多くの3Dシステムで使われており、わが国では既にBS-11CHで放送もされている。また2D映像から特殊な信号処理により奥行き感のある3D映像として変換表示する技術も公開していたが、3D普及が進む状況下、エンターテインメントなど不足しがちな3Dコンテンツを補充するのに役立ちそうだ。

 ソニーもブース内でXpol式液晶ディスプレイを使い、舞妓さんの日本舞踊などの立体映像を見せていた。またデジタルシネマサミット会場では、3Dユニットを取り付けたSXRDプロジェクターを使い、高精細な立体映像を表示する方式のプレゼンテーションが行われたと報じられている。
 アストロデザインは、L/R 2台のHDカメラで撮影した右目用、左目用のHD-SDI×2入力映像信号を特別の合成器を通さずに直接3Dモニターに入力し立体映像を見ることができる小型なアダプターを展示した。この装置により素材撮影や編集制作システムがシンプルになり3Dの促進にも役立ちそうだ。ブース正面に一体化されたコンパクトな3Dカメラを置き、会場内の情景を撮影し24型液晶モニターに映していた。
 
 今年もNHKはスーパーハイビジョン(SHV)をメインに数々の最先端技術を出展した。400インチ大スクリーンと座席90席のSHVシアターを設置し、新たに制作編集された10分くらいのコンテンツが公開され見学待ちの列ができるほどの人気だった。カラフルなビーダマやグラスミュージック、雪だるまや水泳遊びをする子供たちの明るい表情、稲田や田園風景、大海原を疾走する帆船の空撮映像などが鮮明な大画面に上映され、22.2CHのサラウンドと共に見学者は大いに堪能していた。今回、SHVカメラが2台持ち込まれ、1台はブース横で雛人形や豪華な衣装を撮影し、4Kにダウンコンバートされた映像が高精細56型液晶ディスプレイに映しだされていた。もう一台は繁華街のビル屋上に設置され、LVCC会場にライブ中継され、カラフルな建物や街路を行き交う雑踏の人々の表情がシアター横に設置した200インチサイズの直視型の4面マルチディスプレイに表示されていた。新たに開発した10倍ズームレンズと水平100度の広角レンズを使ったそうだ。
 3Dシアターでは、月探査衛星かぐやから撮影した2D映像を90度回転させ、時間差を持たせL/R映像とし、偏光眼鏡を通して見る立体感のある映像を公開した。月面のクレータの凹凸、月の地平線から昇る「地球の出」の様子が迫力ある立体映像として表示され、見学者は雄大な宇宙ショーを楽しんでいた。

 NHKブースに隣接したブースで、NICT(情報通信研究機構)も超臨場感に関する多くの研究成果を公開した。注目を集めていたのはフルHD画質の眼鏡なし立体映像で、1億画素以上の表示性能を持つ複数台のプロジェクタアレイを使い、10人位が入れるシアター内で70インチサイズのスクリーンに表示していた。CG画像や車、CADデータなど2分位の短いコンテンツだったが、従来より水平方向視域(立体像を見られる範囲)を2倍に広げたそうだ。また電子ホログラフィによる立体像も公開していたが、光学ベッド上にレンズやミラーなどの光学素子が多数並んでおり、仕組みは良く分らなかったが、レーザーを使わずに通常光で被写体を撮影し、リアルタイムでホログラムを再生表示できる。現状では再生できる立体像が小さく、視域も狭いが、将来は立体像を利用するコミュニケーションなどへの応用が期待されるそうだ。また3Dと各種センサーを組み合わせ、空間像に触った感触のあるインタラクティブな立体システムも展示していた。さらに4K(3840×2160)、RGB4:2:2各12bitの映像が非圧縮のままPCベースで記録・再生できるシステムや、超臨場音場と称する立体音響システムも公開されていて、室内楽を聞かせてもらったが従来のサラウンド音響とは違う体感を味あわせてもらった。

 NHKおよびNICTはいずれも連日多くの見学者を集め、日本の最先端技術を公開し今後の技術動向に大きなインパクトを与えるものとして、NABから高い評価を受け“Technology Innovation Award”を受賞した。


映像技術ジャーナリスト 石田武久
    
        
写真1:3D熱の高まりを見せる“3D-Pavilion”
写真2:“Xpol”式立体映像(JVC)
写真3:ライブ中継のスーパーハイビジョン(NHK)
写真4:大人気の3Dシアター(NHK)
写真5:レーザー光を使わない電子ホログラム(NICT)

#interbee2019

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