【ニュース】デジタルドメイン・フロリダスタジオ 劇場用長編アニメに参入 オリジナル・コンテンツの制作をめざす

2011.6.17 UP

ロサンゼルスのデジタルドメイン

●DDのフロリダスタジオ ベテラン・アニメーターを雇用し長編制作本格化
 ハリウッドの各メディアが報じたところによれば、デジタルドメイン・メディア・グループ(Digital Domain Media Group)が2009年からフロリダ州ポートセントルーシーで稼働準備を進めているデジタルドメイン・フロリダスタジオ(DDF)が、劇場用長編アニメーション分野への本格参入する具体的な計画を打ち出したという。

 DDFでは過去18ケ月の間に、映画「ライオンキング」「トイストーリー」「ムーラン」等をディズニーやピクサーで担当した経歴を持つベテラン・アニメーターを雇用。ディズニーやピクサー、そしてドリームワークスと並ぶ、オリジナル作品を制作するアニメーション・スタジオを目指すという。
 デジタルドメインは2009年10月フロリダ州ポートセントルーシーにおいて新拠点の設立を発表し、地元ポートセントルーシーでは大規模な雇用が見込まれるとして、その経済効果が期待されている。

●フロリダ州からの支援を受け、32億円を投じて広大なスタジオを開設
 DDFは、今年の年末頃を目標に、$40million(約32億円)を費やした施設、120,000スクエアフィート(約11,148平米)という広大な敷地でスタジオ開設の準備を進めているが、その規模は最終的に1,000人以上になると見られており、実現すればポートセントルーシーで2番目に大きな規模の企業になる。
 2009年、デジタルドメインはトラディションと呼ばれる地域にデジタルスタジオを建設する事で、フロリダ州とポートセントルーシーよりで$70million(約56億円相当)の支援を受けた。

●秋にかけてIPOも計画
 その見返りとして、デジタルドメインは2014年までに年収65,000ドル(現在の為替レートだと約520万円相当)クラスの雇用を500件用意する事に同意。現在のところ雇用されているのは243人で、そのゴールにむけて邁進中のようだ。
 またデジタルドメインはこの夏から秋にかけてIPO(新規株式公開)を行い、これによって$115million(約92億円相当)を上限とする株式を公開する予定だという。
 米メディアに公にされているデジタルドメインの昨年度の収益は$101.9million(約80億円相当)で、営業利益は$17million(13.6億円相当)。一方でフロリダスタジオ新設の経費として$30.2millionを計上している。

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●2014年公開を目指して制作作業を開始
 現在DDFでは、第1作目となる劇場用長編アニメーション作品を2014年に公開する事を目標に、ストーリー開発などを秘密理に進めているという。
 ここで制作していくアニメーション作品は、ファミリー映画路線を貫き、大人にしか理解出来ないようなジョークは一切排除し、両親が子供を安心して映画館に連れていけるような作品を提供していく方針だという。

●ILMが担当した長編アニメ『Rango』、ジョニー・デップの声優でも話題
 さて、ドリームワークスやブルースカイ等に代表されるハリウッドの著名アニメーション・スタジオが手掛けた長編アニメーション作品郡を見ると、なんとなくハリウッドに共通する独特の雰囲気を感じるものだ。
 そんな中、ジョニー・デップが声の出演を務めた映画『Rango』は、VFXスタジオであるILMが手掛けた事によって、全く異なる独特のルックを持つ。
 DDFは、このような「VFXスタジオならではのテイスト」を前面に出して行きたいという。


 また、DDFに参加したアニメーターの中には、既存の大手アニメーションスタジオでの"しがらみ"や、吸収統合などによる軋轢から逃れ、そういったストレスから開放されて「新しい船での出港」を望んでやって来た人材もいるそうだ。
 DDFのフィーチャーアニメーション部門は、現在のところ全社の中で最も少人数な部署だという。
 ここでは、新作アニメーションのストーリー開発を司っている。しかし、ひとたびプロジェクトが本格稼働すれば数百人の規模に膨れ上がる事が期待されている。

 また、DDFはフロリダ州立大学映画学科と提携し、4年間の映像教育プログラムを
学べる教育機関「デジタルドメイン・インスティテュート」をウエスト・パームビーチにオープンする計画で、地元の教育システムにも貢献していくプランを打ち出している。

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●フロリダがCGスタジオの新たな拠点となるか
 米メディアは、フロリダにおけるデジタルドメインのビジネス展開について興味深く見守っている。また地元では、DDFに習って更なるスタジオがフロリダに進出してくれる事を祈願する声も出ているという。

 しかし筆者の脳裏には、2004年1月12日に閉鎖されたディズニーフィーチャーアニメション・フロリダスタジオが思い浮かぶ。この時は、250人もの人材がレイオフされ、業界内でも論議を巻き起した。
 その意味で、フロリダ地域にとっては大手スタジオの地元進出は2回目のチャレンジとなる訳だが、ディズニー・フロリダスタジオで煮え湯を飲まされた関係者にとっても、今回は是非とも成功させたいところだろう。

●地元からの雇用、野球場の命名権獲得など、地域との連携図る
 このポートセントルーシーにあり、米球団メッツが春のトレーニングに使用している「デジタルドメイン・スタジアム」はデジタルドメインが命名権を獲得した事で有名だが、昨年10月9日、デジタル・ドメインは地元の人々を球場に招き、大規模なリクルート・イベントを開催、2千人が列を作った。しかし「ハイスキルが要求される職種で、実際にポジションを獲得出来る人は、ごくわずかだろう」(地元紙)という声も聞かれた。

 実際、地元フロリダの住人だけでVFX及びアニメーションのアーティストの頭数を確保するのは至難の技で、筆者の制作現場からの視点では、最終的にはかなりの比率の人材が外国や州外からのアーティストで構成される事になるのは明白だ。

 地元での雇用促進の代わりに優遇措置を実施する経済戦略はカナダのバンクーバー(詳細は筆者のDVD [http://vfxhollywood.jimdo.com/]をご参照あれ)と同じだが、フロリダという西海岸から遠く離れた場所で、そのバランスがどこまで保てるのか、筆者は興味深く感じている。

 さて、ロサンゼルスにあるデジタルドメイン本社のVFXクルーにフロリダの展開について聞いてみると、「我々のように現場でVFX制作に従事している立場だと、同じ会社なのにフロリダの事は誰も知らないのですよ。特に会社から説明がある訳でもなく、実際にフロリダで何をやっているのかも、よくわからない。逆に教えてくれませんか?」という意外な答えが帰ってきた。

 もしかしたら、今年のSIGGRAPHでも何かアナウンスがあるかもしれないが、とりあえずデジタルドメイン・フロリダスタジオの動向からは目が離せないだろう。
 (鍋潤太郎)

#interbee2019

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