私が見たInter BEE 2010技術動向(その4)ディスプレイ、3D関係、SHV

2010.12.17 UP

3D大画面LEDディスプレイ(ソニー)
一体型3Dカメラ(パナソニック)

一体型3Dカメラ(パナソニック)

3Dカメラ用アダプター(NHK-MT)

3Dカメラ用アダプター(NHK-MT)

IP伝送による8KH-HDTV(KDDI研究所)

IP伝送による8KH-HDTV(KDDI研究所)

SHV映像(4K)の公開(日立国際電気)

SHV映像(4K)の公開(日立国際電気)

ここまで4回にわたり、今年のInter BEEの全体状況、各種イベントの概要、カメラや制作系の技術動向についてみてきた。本号では高品質化が進む映像をしっかり監視し映写する映像モニターやディスプレイの動向について、また3D元年を象徴するように最大のトピックスになっていた3D関連技術の動向、さらには次世代の映像メディアであるスーパーハイビジョンについて紹介してみたい。

 デジタルハイビジョンや映画作品など高品質のコンテンツが増える中、高性能・高画質の映像モニターやディスプレイは一層重要になっている。長年映像モニターとして使われてきたCRTは既に製造中止になっており、CRTの後継機に向けた動きが活発になっている。映像モニター分野で実績ある池上通信機は広視野角・高輝度・高コントラストで色再現性・動画応答性の良い液晶パネルを使ったフルHD、マルチフォーマット対応の各種モデルを出展していた。ソニーはRGB LED直下型プレシジョンバックライトにより広色域で優れた白の均一性、高解像度、高階調表示のうえ安定性も確保した各種液晶型モデルを並べていた。さらに今回、以前から開発を進めている有機ELモニターも出展した。自発光型で薄型・軽量、黒の再現性・色再現性に優れ、動画応答性が良く、高いコントラスト比で明るい環境下でも視認性が良く、既にカメラのビューファインダーにも使われている。画面サイズが7.4"で画素数960×540のモデルを同サイズのCRT、液晶型と並べ比較展示していた。

 FETジャパンは、まったくタイプの違う映像モニター"FED"(Field Emission Display)を2年振りに出展し注目された。ピクセル毎の電子放出源からの電子で蛍光体を励起し発光させる薄型平面ディスプレイで、暗部の再現性が良くピーク輝度も高く、短残光性のため応答性が良く動画ぼけもない。バックライト不要で低消費電力と多くの優れた特徴を有している。今回出展のモデルは画面サイズ19.2"(SXGA:1280×960)で、同じ画素ピッチでフルHD化するには画面サイズが26"となるが、今後開発を進めるそうだ。制作現場ではCRT後のマスターモニターとして大いに期待されており、今回、池上通信機とアストロデザインのブースでも展示されていた。

 デジタルシネマは最近のNABやCEATECでも定着してきた感があるが、Inter BEEにおいても4K高精細度カメラやディスプレイ、符号化技術やレコーダ、伝送技術など様々な出展物が数多く見られた。また今年は3D元年といわれるように、各社から3D映像に関連する多種多彩な出展がなされ、どこでも高い関心を集めていた。

 ソニーは、ビジネス戦略の柱に3D展開を掲げメインテーマの"3D World"を象徴するように、ブース正面に3Dの300"サイズ位の大画面LEDディスプレイを設置し、3Dカメラで撮影した場内の様子や出展物のプロモーションをやっていた。厚さ3mm位のLED素子パネルを多数枚つなぎあわせ、パネルの表面にラインごとに反転する円偏光フィルターを貼った構造で、見学者は迫力ある立体映像を円偏光眼鏡をかけて見上げていた。さらには、一体型でショルダー型のコンパクトな3Dカムコーダ、3Dリグに2台のカメラを装填した大型の3Dカメラ、映像の加工・編集系、2D→3D変換システムによる立体映像、3D対応液晶モニター"LUMA"など多彩な展示をしていた。

 一方、パナソニックもエンド・ツー・エンドの3Dトータルソリューションを掲げ、正面ステージに世界最大の152"型を中心に85"、65"、42"型の3D対応PDPテレビを10数台並べ、立体映像による出展物のプレゼンテーションをやっていた。フレームシーケンシャル式で、アクティブシャッター眼鏡を通して見る方式である。目玉の2眼式フルHD 3Dカメラレコーダは、レンズ、カメラヘッド、記録部が一体化され、リグ式3Dカメラに比べ、と大幅に軽量・小型化された。撮像素子に1/4.1"型、約207万画素、3MOSをL/R用に2基搭載され、記録メディアに2枚のSDHCメモリーカードを使い1080、720両フォーマットに対応する。また別室のスイートには、103"PDPによるフレームシーケンシャル/アクティブシャッター眼鏡式の3DシアターとDLP2台フロント映写による水平/垂直偏光式150"サイズの3Dシアターを開設していた。また3D HD映像コミュニケーションシステムを使い、品川の同社ショールームと結んで双方向生中継3D伝送実験もやっていた。

 NHKメディアテクノロジーは、90年代からNHK技研と共に3Dハイビジョンに取り組み、今日まで様々な3D技術や制作技法を開発し、多種多彩な3D作品を数多く制作してきた。Inter BEEは初登場で、独自開発のレンズシフトアダプターとコンバージェンスアダプターを公開した。レンズとカメラマウントの間に簡単な構造のアダプターを取り付け、2台のカメラの視差角調整や光軸間隔、光軸センターを光学的にリモート操作可能としたものである。操作性が良く、疲労感の少ない高品質の3Dコンテンツ制作を効率的に行えるようになる。FAシステムは、以前からシーテックなどでNHK-MTと共同で3D技術の出展をしてきたが、今回心臓手術の3Dハイビジョンライブ中継実験の時の生々しい立体映像を公開した。大和市の病院で行われた外科手術を3Dカメラ2台で撮影し、H.264にエンコードし超高速インターネット衛星"WINDS"で神戸国際展示場に伝送し、デコードし46"液晶型3Dモニター20台で上映すると言う大がかりなものだったそうだ。また制作現場で大変有効な小型コンパクトな"3D LR Composer"や"Side by Side Encoder/Decoder"なども並べて展示していた。

 NTT エレクトロニクスは、フルHDの3D映像をリアルタイムでエンコードしIP伝送する実演をやっていた。パナソニックのブースで上述の一体型3Dカメラで撮影したL/R2CHの信号を同期をとってエンコードし、NTTエレのブースへIP伝送し2CH分離デコードした3D映像を公開した。この方式は10月にWOWOWが国技館で開催された「ボクシングタイトルマッチ」の3D生中継でも使われたそうだ。クオンテルは今回3D関連技術に絞って出展し、3Dブームを引き起こしたキャメロン監督の「アバター」の制作にも活躍した"Pablo"を最新ソフトV5により実演公開していた。カラーグレーディングがレンダリング無しにプレビューできるようになり、LR 2CHの視差調整や色の違い、キーストーンの歪調整などを両目の映像を見ながら作業できるようになり、作品の完成度の向上はもちろん制作効率も大幅に改善されるそうだ。
 
 さらにはInter BEEでは初登場とも言えるスーパーハイビジョンの展示もあり注目を集めていた。KDDI研究所は"Beyond 3D TV"を掲げ、8K U-HDTV(SHV)のリアルタイム伝送を公開した。画素数7680×4320、60フレームの超高精細のSHV映像を独自開発の高圧縮符号化技術(H.264の拡張方式)によりリアルタイムで70Mbpsに圧縮、それをコンパクトなデコーダで復号し2スタック構成の8K DILA(JVC)プロジェクターを使い、200"の大スクリーンに映していた。また別件の3D自由視点映像は、屋外スタジアムなどの大空間で催されるスポーツ中継映像を、ピッチ内や上空からのあらゆる視点で視聴できるようにした配信システムで、独自配信方式を使い伝送帯域を削減し、リアルタイムに見たい視点の映像を選択できる。今回は1台の4Kカメラで撮影した映像をサーバにストアし、見たい部分をハイビジョンフレームで抜き取り、リアルタイムに3D化し大画面ディスプレイで見せていた。

 富士通は、スポーツや報道などのライブ中継や放送素材など高品質映像をインターネット網でリアルタイムに伝送するIP映像伝送システムなどを展示した。新開発のSHV用の映像伝送システムを使い、60"位のディスプレイにNHK制作のSHV映像から4K部分を抜き取った高精細映像を表示していた。また日立国際電気はNHKと共同開発のSHVカメラを展示した。4Kディスプレイを使ったため、8K映像をダウンコンバートしたフルフレームの4K映像と、オリジナル映像から抜き取った4K映像を切り替えて見せていた。
                             
(映像技術ジャーナリスト 石田武久)

一体型3Dカメラ(パナソニック)

一体型3Dカメラ(パナソニック)

3Dカメラ用アダプター(NHK-MT)

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IP伝送による8KH-HDTV(KDDI研究所)

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SHV映像(4K)の公開(日立国際電気)

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#interbee2019

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