【ニュース】関心高まるデバイスFPGA 最大手の米ザイリンクスが採用推進
2010.10.22 UP
FPGA最大手 ザイリンクス 放送業界にアピール
ソフトウエアで電子回路を記述してハードウエアを実現するFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)は、放送用機器には欠かせないデバイスである。機能をソフトウエアで記述すればよいため、ハードウエアの開発期間を大幅に短縮できる。また、修正や機能追加もソフトウエアレベルで行える。少量生産に向くとあって、これまで以上に関心が高まっている。IBC2010の会場においては、FPGA最大手の米ザイリンクスが大きな展示ブースを構え、放送業界にアピールしていた。(杉沼浩司)
★必要不可欠な素子
FPGAの名が示す「フィールド」とは、半導体が「使われている場所=現場」を指す。半導体を作った工場ではなく、使用する現場でプログラムを流し込めるゲートアレイ(回路間の接続を製造後に指定する半導体)という意味がある。ある程度のハードウエアが事前に作られ、プログラムを流し込むことで完全な回路となるというのがFPGAのイメージだ。特にFPGAと呼ぶ場合は、何度でも回路を書き換えられるものを指している。
半導体技術は進化を重ね、ついに線幅30メートル台のプロセッサーやメモリーが登場している。また、システムLSIでも65メートルの技術を使った製品が一般的になりつつある。
システムLSIは多岐にわたるが、放送関連での一つの例は、一つのチップ上にCPUやメモリーコントローラー、そしてコーデック部分などを集積したものが考えられる。
ところが、このシステムLSIを開発しようとすると、1年程度の設計期間と、数十億円の開発費が必要になるだろう。特に高価なのが、半導体の製造工程で必要な「マスク」と呼ばれる露光制御の部分の開発・製造である。
このような開発費をかけたシステムLSIは、数百万個から数千万個を製造しないと価格を下げられない。開発費50億円とすると、1000万個作れば、開発費の上乗せは1個につき500円に過ぎない。しかし、1万台しか製造が見込まれない場合、開発費の上乗せは50万円になってしまう。
放送関連機器では、製品寿命の間に1万台出荷ならば「ヒット」と言えるし、1000台という製品もある。中には、1台だけ特注で製造されるものもあるだろう。このような製品に、半導体部分だけで開発費数十億円を費やすわけにはいかない。
しかし、FPGAを用いれば、システムLSI相当のハードウエアを容易に開発できる。回路や処理方式の開発に開発資源を注ぐことができ、半導体開発は行わなくてよい。生産台数が少ない業種では、FPGAが極めて有効となる。
また、自社に技術がない機能部分は「IPコア」として他社から購入できる。例えば、コーデックに特化した企業がFPGAを用いて開発している際に、メモリー制御部分が必要な場合、この部分は「ソフトウエア部品」として購入して、FPGAの中に組み込めるのだ。このような柔軟性もFPGAが選択される理由の一つとなっている。
★放送は重要市場
IBC2010でザイリンクスは、会場ホール10にブースを構え、放送業界に向けてFPGAの利点を強烈にアピールしていた。
ザイリンクスの放送事業マーケティングの責任者を務めるベン・ランヤン氏は、世界の放送機器産業でのFPGA採用を推進する役割を担い、シリコンバレーのオフィスを本拠地に世界各地で活動している。以下、同氏とのインタビューの内容をまとめた。
--IBC2010で発表した新製品は。
今回は、放送業界用の新開発プラットフォームをリリースした。また、MPEG4 AVC/H.264(以下、AVC/H.264)用の低遅延ビデオ・コーデック用IPコア、ドルビー・デジタルやAAC+を含む多様なオーディオ・コーデック用IPコアも発表した。
--開発プラットフォームとは何をするものか。
このキットは、「スパルタン6 FPGAブロードキャスト・コネクティビティー・キット」と呼ばれるもので、放送関係で多用されるインタフェースがあらかじめ基板に備わっている。トリプルレートのSDI、HDMI、ディスプレーポート、DVI、そしてV-by-One HSだ。このようなビデオインタフェースあれば、迅速に自社の設計を試すことができる。このキットは、ザイリンクス・アライアンス・プログラムの会員企業である東京エレクトロンデバイスと共同開発した。
--使用しているFPGAはどのようなものか。
スパルタン6という低消費電力型のデバイスだ。250MHzで動作するDSPスライス(信号処理機能)も内蔵しており、高速で多方面の処理が行える。
--IPの提供状況は。
今回、キットと同時に「ザイリンクス・ブロードキャスト・プロセシングエンジン(BPE)」を発表した。放送関連のシステムデザイナーが、このエンジンにあるIPコアを利用して、さまざまなビデオ処理を実現できる。ザイリンクスが提供するIPコアに、自社開発のIPを接続して新機能を追加する。このエンジンは、既存のフォーマットばかりでなく、3D用の信号や4k×2kのデジタルシネマにも対応する。
--エンジンとの呼称があるので、ハードウエアかと思ったのだが。
IPコアなので、これ自体はソフトウエアだ。しかし、このIPコアをFPGAに導入すれば、それはハードウエアとなる。
★放送機器に対応
--今回、ザイリンクスのブースでTDP(ターゲット・デザイン・プラットフォーム)という言葉が見られた。何を意味しているのか。
ザイリンクスでは、顧客が差別化した自社商品を開発できるように、各方面から支援している。ハードウエアからIPに至るまでの体制は、ピラミッド型に描くことができる。最も基盤となる部分は、当社のスパルタンやバイレックスといったチップや基本的なIPコア。これをベース・プラットフォームと呼ぶ。その上に、各ドメイン(適応領域)に特化したIPコアが用意される。例えば、信号処理や通信処理といったドメインだ。
さらに、その上の階層が市場ごとに特化した部分で、今回はここに「ブロードキャストTDP」を置いた。放送用機器のためのデザインプラットフォームで、ハードウエアとしては接続性(コネクティビティー)を重視した先述のキットが相当する。そして、ソフトウエアとしてはBPEが担う。顧客は、この二つを組み合わせたプラットフォーム上で迅速に特徴ある製品を開発できる。
ブロードキャストTDPは、放送領域のすべての信号処理を目指している。ベースバンドばかりではなく、地上波、衛星、CATVの全領域に対応する。
--FPGAの柔軟性が発揮されているようだ。
その通りだ。放送機器の分野では、開発工期が長く開発費もかかるASIC(特定用途向け集積回路=特定用途向けに製品開発企業が自社で半導体を設計したもの)や、ASSP(特定用途向け標準製品=特定用途向けに半導体メーカーが売り出すもの)は向いていない。
FPGAを使えば、1年をかけずとも3D関連製品を送り出せる。ASIC、ASSPは、放送機器業界のような用途が細かく分かれ、フラグメントされた市場には向いていない。
--FPGAの市場に参入している他社との違いは何か。
代表的な他社の一つは、FPGAのメーカーであり続けようとしている。当社は、FPGAを使ったプラットフォームを提供する会社だ。
--FPGAは、放送機器業界では導入が進んでいると考えられるが、IBC2010に大きなブースを出した目的は。
ソフトウエア・エンジニアにもっとFPGAを知ってほしいからだ。FPGAは、何もすべてハードウエア記述言語で処理するわけではない。FPGAにはDSPやCPUも内蔵しており、そこで処理するものも多くある。
FPGA処理だからソフトウエア・エンジニアは関係ないと思わず、いろいろな関与の可能性を探ってもらい、FPGAを有効活用し、アイデアを製品に結び付けてほしい。