TV放送業界もフルデジタル化へ。本格的なテープレスの時代の予感

2007.11.22 UP

 テレビ業界はフィルムから1インチや2インチのオープンテープに代わり、その後3/4インチ、そして1/2インチへと変貌を遂げてきた。そしてDV、DVDという完全なるデジタル化を迎え、それによって記録媒体はよりコンパクトに、そして編集などの作業効率も飛躍的に進歩してきた。
 放送局は長く1/2インチのテープを使って取材してきたが、時代の流れが加速するとともに、取材回数も格段に増えてきた。その結果、以前はコンパクトで持ち運びに便利だと思っていた1/2インチのテープでさえ、移動などの際にかさばると感じるようになった。それがテープレスの時代に入り、HDが登場すると、光ディスク、メモリーカード、フラッシュメモリーなどデジタル化によってとても便利になってきた。
 また編集などの際、アナログ編集の時代は、編集を数カット前でやり直そうとした場合、その編集点まで遡って編集をやり直すか、他のテープに一時的に移す(やりくり)作業が必要だった。そのため、編集にも莫大な時間を要したのである。しかし、HD編集は編集した各ポイントを瞬時に並び替えたり延ばしたり縮めたりできるため、与えられた時間内にVTRの長さをいかようにでも、素早く作り変えることが可能なため、ニュースなどの速報性を重視する番組や、1時間以上の長いVTRの編集に携わるものにはとてもありがたい存在になった。
 そして、今年のInter BEEではそれらをさらに進化させた各社の製品が登場している。

■半導体メモリーの分野で先を行くパナソニック

□マルチフォーマットデジタルカメラ AK-HC3500
 このカメラの特徴は、人間工学に基いた設計とデザインだ。見た目は今までとあまり変わりはないが、ボディが低重心になりバランスがよくなった。さらにショルダーパットが前後に24mm動く。カメラマンは取材になると、四六時中肩にカメラを担いだ状態になる。カメラマンといってもいろんな体型の人がいて、すべての人がそのカメラを簡単に担げるとは限らない。三脚にカメラを固定する際にフネをずらしてバランスをとるが、同じようにカメラマンの体型に合わせてショルダーパットが動けばカメラマンの負担もかなり軽減される。このカメラは重さが5kgを切っているが、この「気配り」は現場で働く者にとっては涙が出るくらい嬉しいことである。
 しかもケーブルの抜き差しをしなくても簡単にビルドアップへ脱着できる「ワンタッチビルドアップ装着」や真っ暗な場所での取材にとても助かるバックライトもありがたい機能だ。もちろん、水平一本読み出し2/3インチの220万画素IT-CCD搭載で内モアレを大幅に低減し、青色の表現力も大幅にアップ。そして38ビットデジタル信号処理のDSPと、新開発された14ビットA/D変換のLSIにより、コントラスト比の大きな映像の見えづらさを大きく改善されたことも付け加えておきたい。


□大容量P2メモリーカード
 パナソニックに採用されているP2メモリーカードは、現在取材テープの主流となっている1/2インチのテープに取って代わる可能性を秘めた記録媒体である。重さ45g、大きさはPCカードサイズのこの新しい記録システムは、パナソニックが培ってきたSDカードの技術を応用したもので、16GBと32GBの二つが用意されている。32GBだとAVC-Intra 100で約32分、DVC-PRO/DVなら約128分も録再生ができる。放送業界の記録テープは年々コンパクトになってきたが、取材となると現在の1/2インチのテープでもかなり持ち運びには不便である。それがこのサイズにまでコンパクトになると、持ち運びはもちろん、取材の際にカメラマンが予備のメモリーカードをたくさん携帯することもできるため、機動力も増す。そして廃棄処分するときもゴミの量を減らすことができ、とてもエコロジーだ。いよいよフルHD化を意識したシステムだと感じた。


■DVD技術を充実させ脱アナログを図るソニー

□XDCAM HD422 
 ソニーの放送業務用XDCAM 422シリーズが充実している。2003年に登場したこのシリーズは、今年の8月時点で全世界に23,000台出荷され、制作者たちの信頼を得ている。そしてさらなる高画質化、高音質化させノンリニア制作の拡大を目指している。
 カムコーダーPDW-700、PDW-740は220万画素のフルHDで、イーサネットとi.LINKを標準で搭載し、MXFファイル形式での取り込みや、ファイル転送を可能としている。またHDシリーズで好評だったスローシャッターやキャッシュREC機能を搭載しており、暗闇でも強いデジタルエクステンダーや従来よりも一回り大きい3.5インチカラー液晶など便利な機能が満載されている。

□プロフェッショナルディスクPFD50DLA
 PFD50DLAは50GBと23.3GBの大容量の2層の光ディスクで、約13センチ四方のカートリッジに入ったまま使用する。ソニーも次世代DVDと同じ技術の記録メディアで、MPEG HD、DVCAM、MPEG IMXの3つの圧縮フォーマットに対応している。光ディスクは記録、再生時にモノとの接触がないため、連続使用や繰り返しの使用に優れている。放送業務用のXDCAMシリーズとの相性もよく、リニア、ノンリニア問わず簡単に編集することもできる。また、PCファイルを格納可能にした約500MBの汎用記録データ領域を確保しており、これによってエクセル、ワード、PDFなどのデータを一緒に保存することができるのは管理の効率化にもつながる。現在、ソニーのフラッグシップはHDCAM-SRであるが、これはCMや映画などハイクオリティが求められる世界に対応したもので、通常の番組制作ならばこのシステムで十分対応できると言ってもいいだろう。


■放送事業に新たな風を吹き込む東芝

□GFPAK
 東芝は今回、池上通信機とジョイントすることにより、本格的なプロユーザーの機器を多数展示している。そしてこちらも来るテープレスの時代に備え、東芝が得意とするフラッシュメモリの技術をプロユーザー向けに開発した。
 東芝のフラッシュメモリの特徴は、高速でデータの書き換えができ、電源を切ってもデータが消えない不揮発性半導体メモリを採用しており、エラー補正技術のECCやウェアレベリング技術を採用することで、信頼性と安心感が増している。そしてでき上がったのがGFPAK、フラッシュメモリパックである。大きさは、80×125×18mm。重さは約100g。携帯電話とほぼ同じ大きさである。容量は16、32、64GBの3種類。64GBの場合、100Mbps なら60分、50Mbpsなら120分もの記録が可能である。USB2.0とシリアルATAを搭載しており、汎用的なパーソナルコンピュータの接続も可能となっている。
 そのため、ノンリニア編集機能が入っているパソコンであれば、いつでも気軽に編集することが可能である。そして何よりもうれしいのが、電源が入っていない状態でも記録残量を目で確認することができる、液晶の残量表示ディスプレーを搭載していることだ。ビデオテープであれば残量はすぐに確認することができるが、新しい記録媒体ではなかなかそうはいかない。今の時代、これくらいは技術者にとっては簡単なことなのだろうが、われわれアナログ的な制作人にとっては、ロケ先などでとても重宝する機能である。
 このGFPAKに搭載されたフラッシュメモリの技術は、カメラにも生かされている。
 テープレスカメラのGFCAMにあるパックスレコーディングという機能は、カメラ本体に30秒間の映像を記録できるバッファメモリを搭載しており、30秒間の間にGFPAKを交換すれば連続して撮影することができる優れものである。政治家の記者会見や、芸能人のインタビュー、そしてスポーツやニュース取材などでたまに、テープの入れ替えの最中に大事なコメントを録画し損ねたり、決定的な瞬間を録り損ねたりすることがあるが、この機能さえあれば安心して撮影に望むことができる。


 以上の3社を見ると、デジタル化によりテープレスは必ず近い将来、というよりは数年後には世界中に広がると思う。便利性ではもちろん、エコロジーが叫ばれる今日、連続使用や廃棄量の削減の部分でもデジタルメディアはアナログよりも遥かに優位だ。「アナログ信仰者」が多い放送業界。そろそろ本格的に考え直さなければいけない時期が来たと思う。(現役TVディレクター)

【ニュースセンター】

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