【映画制作の現場から】レッド・ワンで撮影した最新映画「築城せよ!」プロデューサー・監督 インタビュー(テアトル新宿 7/18(土)より連日18:55から上映)
2009.7.12 UP
映画『築城せよ!』プロデューサー・監督インタビュー
国際映画祭受賞の自主制作作品を長編劇場映画に変身
「産官学一体の映画製作」を実現!
戦国時代の武将たちが、現代の愛知県に段ボールの城を築く……。異色のストーリーの映画『築城せよ!』は、若手新人監督の古波津陽(こはつ・よう)氏が2007年に自主制作した59分の短編をもとに愛知工業大学(以下、愛工大)の全面的協力を得て制作された。4kという高解像度で大幅な低価格を実現し、邦画制作での利用が増大しているレッドワンカメラを使って撮影されたことでも話題の『築城せよ!』制作について、プロデューサーの益田祐美子氏(写真左)と撮影監督の辻健司氏(写真右)に話を聞いた。
■プロデューサー・益田祐美子氏
「現代人の求めるテーマが詰まった、産官学一体の企画です」
「監督の古波津さんが、まず短編59分の『築城せよ。』を自主制作で作っていて、それが米国のサンフェルナンドヴァレー国際映画祭で最優秀外国語映画賞を受賞しました。しかし、劇場上映向けに長編を作るための資金調達が困難だったため、上映できずにいました。そんな中、古波津さんが私の著書『私、映画のために1億5千万円集めました』を読んで私に連絡を取り、資金調達についての相談を持ちかけてきたのです」と話す益田氏。
「この『築城せよ。』には現代人の求めるもの、抱えている問題……地域活性、ホームレス、城、サムライ、ものづくり……といった、これから世に出していくべきテーマが詰まっていると感じました」。益田氏は、古波津氏や辻氏らと何回か会ううちに、“このチームなら最後まで力を合わせてやり通せる”と感覚をつかみ、一緒に映画を制作しようと決心したのだという。
また、同じ頃、愛工大では開学50周年記念として何かをやりたいという話があった。「愛工大はものづくりの大学ですから、記念事業にはものづくりが最適だろうと私は考えていたんです。そこへ『築城せよ。』の話があったので、これを長編2時間バージョンの『築城せよ!』として作る企画を提案しました」(益田氏)。こうして、“映画産業”と“地域活性を目指す行政”と“学校”、すなわち『産官学一体』の実現をめざした企画が生まれた。
大学と組むことはプロデュース面でも大きな効果があったという。「私だけだと信用度の点で不安に思われてしまうことも、専門知識のある大学関係の方と一緒に営業に回れば、信用と安心感が加わりますよね」(益田氏)。
配給に関しても、上場企業で信用のあるところにお願いしたいと考えていたと益田氏は話す。「これは、うちのチームに実績がないという理由もあってのことです。東京テアトルさんに脚本をお渡ししたところ好評をいただき、決定しました。制作は制作陣にお任せし、配給は東京テアトルさんにお任せし、お金集めに関しては私が一手に引き受ける形にしました」。
益田氏は資金集めに関して書籍も書いている。それだけの資金を集めるための秘訣は何か。「まずは、いかに正しい情報を得るか。それがお金を得ることにつながります。そして交渉をするときは、出資者の立場になって考えるようにしています。“○○億円の広告効果”など、相手のメリットを挙げてアピールすると、向こうも乗ってきてくれます。で、相手の方から金額の話が出てきたときが勝負。それまで集めておいたデータがここで生きてきます」。
資金集めは短期間に集中して行ったという益田氏に、コスト面で苦労した点について聞いた。「段ボールの城を実物で作ったとき、予算オーバーしました。城をCG制作にすれば予算内でできましたが、ものづくりというコンセプトを大事にするなら、やはり実物を作るのが良いと考えたんです。美術の磯見さんが、本当に城を建てるならギャラはいらないと言ってくれて、それに動かされ、予算オーバーしても作りましょうと決心しました。最終的に4700万円のオーバーでした」。
『築城せよ!』は、ヒット小説などを原作にして作られたわけでもなく、話題づくり重視のキャスティングを行ったわけでもない。そういう意味では、昨今のいわゆる“売れる”要素がほとんど入っていない。益田氏の映画作りに対するこだわりとは何だろうか。「私はこれまで、職人もののドキュメンタリーなども手掛けてきたのですが、映像は文化の伝承に有効なツールであると考えているのです。ものづくりの過程を見れば完成品の見方が変わります。映画作りは映画のことだけ考えて作るのではなく、文化的なものや地域活性なども巻き込んだ、もっと大きな枠の中でやっていくべきというのが私の考えです」。
■撮影監督・辻健司氏
「新しいことを、若さゆえのチャレンジ精神でやってやろうと思いました」
『築城せよ!』は、2008年当時まだ市場に登場したばかりだったレッドワンカメラを使って撮影されたことでも注目を集めている。そこにはどのような経緯があったのだろうか。「2008年の春頃には予算もある程度見えてきていました。限られた時間の中で、できるだけ良いものを撮影するためにカメラが2台は必要だと思いましたが、なかなか予算内に収まらず悩んでいました。そこへ、以前から気になっていたREDデジタルシネマ社のレッドワンカメラが、撮影技術会社のヴィセラル・サイキさんにある、という情報が入ってきたんです」。
「レッドワンカメラは、4Kの高解像度でデジタル収録できるのに、コードが1本でレンズも小さく、まるで16ミリカメラを扱っているような感覚で身軽に撮影できました。当時、本体はHDデジタルカメラのほぼ半額というレンタル価格で、コストパフォーマンスも非常に良かったですね。何回かテストをさせてもらい、レッドワンカメラの品質には非常に満足しました」。
そう話す辻氏にも心配はあった。それは、レッドワンカメラが新製品だったため、日本に1台しか無かったことだ。「9月のクランクインまでにカメラ本体2台とバックアップ体制が欲しかったんです。それまでに間に合わせていただけるということで、レッドワンカメラに決定しました」。レンズは2Kで撮影するため、スーパー16mm用のものを使用した。一部のCGシーンは35mm用レンズを用いて4Kで撮影した。撮影から編集までのコ―ディネーションは、ミューズテクスの伊藤格氏が担当した。
新製品のレッドワン使用ということで、特に苦労したのはワークフローだという。まだノウハウが少なかった時期に、行き当たりばったりのスタートをきった。「若さゆえのチャレンジ精神でやってやれというのはありました。ミューズテクスの伊藤さんが、レッドワンの開発者と直接やり取りしながら新しいワークフローをどんどん研究・提案してくださったので、いろんなところでベストの選択ができたと思います」。
また、技術面では、「ヴィセラル・サイキさんから技術者を呼び、レッドワンにトラブルがあった時にもすぐ対処してもらえるように、オペレーターとしてついてもらいました。撮影した映像も、すぐに現場で確認してもらっていました。レッドワンのバックアップを専門に担当する人材が必要だと考えたのです」。
撮影には08年9月末から11月頭まで、約40日間かかった。万全の体制で挑んだレッドワンカメラの使用について、撮影上の大きな不具合は一度もなかったという。「大部分のシーンは2Kで撮影していましたし、マシンが熱を持って止まるようなこともありませんでした。4Kで撮影した部分についても、特に問題なくスムーズに撮影できました」。記録にはハードディスクではなく、8ギガのコンパクトフラッシュを使用した。撮影データが消える危険は、10~15分ほど撮影するたびにバックアップを取ることで回避した。
「撮影後のフィルムレコーディングの流れとしては、「レッドワンで撮影したr3dファイルをFCPでOffライン編集し、イマジカでdpxファイルに変換しました。カラコレはダビンチ2Kプラスで、本編集はIQで行いました」(辻氏)。
コストを抑えるなら、キネコで仕上げた方がずっと安くできる。そこを今回、あえてフィルムレコーディングにしたのはなぜか。「予算の中でのベストを常に探っていました。コスト削減のために海外でのフィルムレコーディングも考えましたが、プロデューサーの益田さんが以前『風の絨毯』という作品でイマジカと仕事していて、つながりがあったんです。新製品のレッドワンを使っていると話すと、イマジカの方が興味を持ってくださり、レッドワンを研究するという意味も含めて特別価格でフィルムレコーディングをしてくださいました。仕上がったフィルムの品質には大変満足しています」。
『築城せよ!』は、当時としては一番良い制作環境だったと辻氏は話す。「レッドワンを取り巻く環境はもっとよくなると思います。僕たちは本編を2Kで撮影しましたが、今は全部4Kで撮っているものも多いです。ワークフローもどんどん進歩しているし、いろんなものがレッドワンに対応し始めて、業界内で新しいチャレンジがなされていると感じます。これからも新しいものに取り組んでいきたいですね」(辻氏)。
【上映スケジュール】東京では、テアトル新宿で7/18(土)で連日18:55から上映。詳しくはホームページを参照(http://aitech.ac.jp/~tikujo/)