NAB 2007に見る放送技術動向
2007.7.25 UP
アビッドブース情景
世界最大のデジタルメディアのコンベンションと言われるNAB、今年も4月半ばラスベガスで開催され、大会史上最大規模の出展社数、来場者数を記録した。世界的に拡がるHDTV化の流れを受け高品質番組への要望が高まり、ブロードバンドネットワークの普及により放送と通信の連携も進み、番組制作や伝送法も変わりつつある。
今回目立った技術的動向はテープレス化である。テープメディアに比べ可動部分が少なく安定性・保守性が良く、コンパクトで低コスト、効率的運用性も期待できると言うことで、テープレスのカメラやポスプロ・制作システムが多数出展された。
出展されたテープレスカメラは、池上通信機のHDDによるエディカム、ソニーの次世代DVDによるXDカムと小型・軽量化を狙いフラッシュメモリーカードを採用したXDカム EX、松下電器産業のP2カードを使ったカムコーダシリーズ、グラスバレーのディスクと半導体メモリー両方を搭載したDMC(デジタルメディアカムコーダ)、さらに東芝・池上のフラッシュメモリーレコーダによるGFカムなどが関心を集めていた。
テープレス取材に対応する制作系、送出系も多数出展された。松下はP2HDカムと連携し現場でも簡易編集、送出もこなすP2モバイルレコーダを、東芝・池上はフラッシュメモリーを核にする制作環境システムを、ソニーはテープレス取材系にあわせ編集から送出までを統合するニュース制作システムSonaps(Network Production System for News& Sports)を公開した。
高度、高機能のテープレス制作系については、クオンテルがコマーシャル制作などで普及が進んでいるDI(Digital Intermediate)制作ワークフローとSDTVで大きな実績を上げている編集制作系Newsbox のHD版を公開した。アビッドは広大なブースのコーナー毎に素材サーバAvid UnityとエンジンソフトInterplayを連携させ、多彩なノンリニア編集、画像制作を実演し大きな関心を集めていた。グラスバレーは、DMCに対応しHDネットワークで制作・送出系をリンクするトータルワークフローシステムとノンリニア編集系Ediusと連携し高度なポスプロ作業を効率的に行う実演を見せていた。
IP技術の進展、放送と通信の融合時代を反映し、NTTグループ、YEM(山下電子設計)、TANDBERG、OMNEON、Motorola、Cisco Systemsなど多くのブースで、MPEG2、AVC/ H.264、JPEG 2000など各種圧縮方式による機器、システムが展示されていた。NTTグループは、素材伝送に対応するリアルタイムAVC/ H.264用に新開発のLSIチップを搭載し、葉書サイズと小型化、低価格化したモデルとIP 網での効率的な映像配信に使えるMPEG2とAVC/ H.264のリアルタイムトランスコーダを出展した。
世界的なHDTV化、デジタル化さらにデジタルシネマの進展を受け、多様な利用にあわせたカメラの高画質化、高機能化が進んでいる。ソニーのCineAlta-F23、松下のAK-HC3500、池上のHDK-790EX、日立国際電気のSK-3200P、JVCのGY-HD200など、HDTVのみならず多様な用途にあわせマルチフォーマット対応で、いずれも高画質のハイエンド機である。
また急速に進展を見せているデジタルシネマに対応するカメラも多くのブースで見られた。カナダのDALSA社から4K(4096×2048)対応のOrigin 、Evolution、VIPER、PHANTOMなどの機種が、アリフレックスはフイルムライクのデジタルシネマカメラD-20を出展した。場内でひときわ人気を呼び長蛇の見学待ちになっていたのはレッドデジタルで、4k、2K、1080P、720P各フォーマットに対応し、毎秒コマ数が1~60Pまで可変、ウエーブレット圧縮のRED ONEカメラを展示し、200インチサイズのシアターでは迫力ある高解像度作品を見せていた。
将来の高臨場感放送を目指しNHKが研究開発しているULTRA HDTV(スーパーハイビジョン)も公開された。シアター周辺にカメラを据え、4KおよびHD液晶モニターに生映像を映していた。シアターでは400インチサイズの大画面にハングライダーによる空中散歩やサーフィン、アメリカンフットボール中継などを映し、来場者はその臨場感と迫力を堪能していた。
屋外の広大な展示スペースには、大型の中継車やコンパクトなアップリンク車などが数多く並び、大小の様々のアンテナや送受信装置などの衛星関連機器も数多く展示され多くの来場者の高い関心を集めてていた。
映像技術評論家 石田武久(Inter BEEアドバイザー)
アビッドブース情景