【Inter BEE 2011】意外に近い4K時代 〜Inter BEE 2011視察報告〜
2011.12.1 UP
アストロデザインは、8K対応の録画、補正機材を出展した
計測技術研究所のUDR-N50は、従来にない小型サイズ
KDDI研究所は8Kx4Kを70Mbpsに圧縮する装置を出展
「4Kは意外に近い」こんな印象を「Inter BEE 2011」(主催=電子情報技術産業協会:会期11月16日–18日)で受けた。これまで、4Kは技術的に準備ができてもコンテンツが存在しない、と言われていた。しかし、今回、4Kやその先を睨んだ機材が揃い始めている様子が確認できた。4Kはデジタルシネマとの相性も良い。4K時代は意外に近そうだ。(映像新聞社 論説委員 杉沼浩司)
★鶏かタマゴか
現行ハイビジョンの4倍以上の画素数が見込める4K。技術的には十分に射程距離にある。4K表示能力のある家庭向けディスプレイ装置は、10月に開催されたCEATEC Japanに複数の家電企業より出展された。一方、日本の家電メーカーのお家芸とも言える家庭用カムコーダには4K化の動きは見えなかった。
4Kのテレビ・ディスプレイにしても、各社が一斉に投入したわけでは無く、動きは一部メーカーに限られていた。この理由は、「コンテンツの供給が見込めない現在、4Kテレビがあっても持ち腐れに終わる」との観測からで、このためにまだら模様の対応となった。4K(3840x2160)画素の「レグザ55×3」を出展した東芝は、画素数を裸眼立体視に適用すると共に、2D表示は超解像技術による高画質化を行っていた。同じ画素数のテレビの技術展示を行ったシャープも、高画質化技術を活用し、ハイビジョン入力でも4K(同)画素に見合った高い画質が得られることを示していた。
4K(4096×2160)画素のプロジェクタを投入するソニーも、ハイビジョン入力を高画質化する回路を搭載している。
このように、出力側の家電メーカーは、高画質化技術で4Kを活かそうとしている。しかし、ソースの側、そしてメディアが不在とあって、家電メーカーは一斉回頭には踏み切ることができていない。逆にカメラ、メディアの側は出力先が明確にならず開発に踏み切れない、という事情があるようだ。まさに「鶏かタマゴか」というデッドロック状態である。
★Dシネマには4K
状況に一石を投じたのはDシネマだろう。Dシネマ用は、これまで2Kのプロジェクタが大きなシェアを占めていたが、4Kへの移行が確実になっている。上映室(劇場)が、昔のようななだらかな傾斜の大きな空間では無く、スタジアム形式と呼ばれる階段状に席が並んだ200人程度収容の小部屋が増えている。この場合、最後席からスクリーンまでも近く、2Kでは画質が不足する場合もあるとされている。3D用に4Kプロジェクタが活用しやすいという事情もある。この両方の理由から、Dシネマの世界では、出力先は4K解像度という流れが確かになってきている。
Dシネマへの要求仕様をまとめた「DCI仕様」では、4K解像度も定義されており、この形式であれば流通は心配ない。互換性も維持できる。4K解像度用のDCP(Dシネマ・パッケージ:上映用にデータが一体化されたもの)は既に広く流通している。
★撮影も4Kへ
これまで、Dシネマの撮影はハイビジョン解像度(1920×1080)や、これよりやや高い解像度でオーバーサンプリングするものが多かった。一部に4Kやそれ以上の解像度の機材もあったが主流とは言いがたい状況だった。
これを大きく変えそうなのが、ソニーのF65だ。4月のNAB Showでデビューし、9月のIBCにあわせて正式発表された4K対応のシネマカメラである。今回のInter BEEでは、このカメラの周りには人だかりが絶えなかった。また、シネマカメラへの参入を発表したキヤノンは、発表ずみの「EOS C300/同PL」とは別に、4K動画撮影が可能なカメラを開発していることを明らかにしている。昨年より4Kカメラを出展しているアストロデザインは、新機種「AH-4410A」をInter BEEのブースに並べ、第2世代カメラヘッドが準備されていることをアピールしていた。
カメラを製造する側にとっては、撮像素子の開発に最低でも数十億円の費用を要するため、ある程度の出荷台数が見込めるか、または価格転嫁ができる目処が必要である。デジタルカメラと素子を共用するとなると、静止画では10M以上の画素数が求められる。動画用では8M画素程度であるので、単純な共用は難しい。となると、シネマ用撮像素子は、大いなる決断をもって開発されたとみてよいだろう。
★支援機材充実へ
Inter BEEでは、カメラだけでなく支援機材にも大きな動きが見られた。アストロデザインは、Inter BEE直前に「4K対応JPEG2000コーデックHC-7504」を発表している。また、同社は8K映像の記録ができる「スーパーハイビジョンSSDレコーダ SR-8422」や「スーパーハイビジョン カラーグレーディング装置VP-8407」を出展している。SR-8422は、単純な記録再生のみでは無く、録画しながハイライト編集やスロー再生が行える多機能機である。またVP-8407は、リアルタイムの色変換、色補正などが行える。これらは、来年のロンドンオリンピックの中継に使用されるという。
計測技術研究所からは、4K録画が可能な非圧縮レコーダ「UDR-N50」が出展された。ハーフラックサイズで、取り回しがよく、ロケなどに活躍しそうである。また、同期運転により8Kにも対応している。
今回のInter BEEでは、このように支援機器の進化が見られた。まだ数は少ないが、シネマ的なDI工程を想定した4K映像制作だけではなく、テレビ的な中継、編集などに対応する製品が現れ始めた事は特筆される。
★メディアはどうなる
撮影と上映(表示)が整いつつある今、問題の中心はメディアに移るだろう。いかに4Kコンテンツを伝送するのか。ブルーレイに収めるのか、新しいメディアを用いるのか。電波で運ぶ放送とするのか、インターネットとの連携にするのか。このような課題に対して、家電、放送機器の業界から明確な方針は出されていない。
まだ足りない要素技術があるのも事実だ。たとえば、伝送、蓄積時に使われる符号化(圧縮)技術であるMPEG-4 AVC/H.264では、まだ4K@60Pは規定されていない。現在、最高度のレベルである「レベル5.1」では、4K@30Pまでしか対応していない。符号化方式一つにしても、4Kへの対応が求められている。
米国の放送方式検討委員会であるATSCは、ATSC2.0でインターネットとの連携を模索しており、更にその先のATSC3.0の検討も開始された。「入り」と「出し」が揃いつつある4K、間を結ぶ技術の整備が急速に進めば、一気に4K化がなされるかもしれない。
アストロデザインは、8K対応の録画、補正機材を出展した
計測技術研究所のUDR-N50は、従来にない小型サイズ
KDDI研究所は8Kx4Kを70Mbpsに圧縮する装置を出展