【ニュース】「デジタルマーケティングNEXT 2009」セミナーレポート(2)「デジタルサイネージを活用したマーケティング」

2009.11.26 UP

デジタルサイネージコンソーシアム 常務理事 江口 靖二氏

<<デジタルサイネージは「スーパーローカルメディア」今後は企業や店舗が自ら情報発信するメディア化に期待>>

 デジタルサイネージは広告媒体としての利用がメインに考えられているが、それがすべてではない。コンテンツや見せ方を工夫すれば、販促やマーケティングにも活用できるという。今後の活用方法について、デジタルサイネージコンソーシアム常務理事の江口 靖二氏が展望した。以下はその要約。

 デジタルサイネージの多くは屋外や店頭、交通機関などにディスプレイを設置し、不特定多数の人に向けて情報を発信しているケースが多く、利用形態としては映像配信ビジネスや広告ビジネスが主流となっています。しかし、それはデジタルサイネージが持つ可能性の一部にすぎません。デジタルサイネージはノンPC、ノンケータイで利用できるWeb媒体であり、「リアルに入り込むインターネット」という側面を持っています。単なる映像配信ビジネスや広告ビジネスではなく、Webの延長線上で考えるべきです。

<<デジタルサイネージに関する4つの誤解>>

 では、どうして映像配信ビジネスや広告ビジネスという側面が強く意識されているのでしょうか。そこには4つの誤解があります。

 1つ目はメディア特性の誤解。テレビは番組表に沿って放送しているので視聴時間を特定できますが、視聴する場所は特定できません。一方、屋外広告は場所を特定できますが、時間は特定できません。それに対し、デジタルサイネージは時間と場所を特定できる唯一のメディア。この優位性が十分に理解されていません。

 2つ目はビジネスモデルの誤解です。広告媒体になり得る場所はそう多くはありません。またナショナルクライアントの広告出稿は今後も減少が予想されています。今は広告モデルが主流となっていますが、今後はそれに加え、販促モデルの可能性も模索していくべきでしょう。

 3つ目はコンテンツの誤解。デジタルサイネージは、所詮「通りすがりの視聴メディア」という事実を認識すべき。その時、その場所で必要な情報を提供しない限り、受け入れてもらえません。

 4つ目はクリエイティブの誤解です。デジタルサイネージでもテレビ番組で利用されている画面分割を使っているケースがありますが、画面分割は見る側に複数情報を同時に提供したい場合に有効な方法。それに対し、デジタルサイネージは視聴環境や視聴態度がまるで違うので、テレビ的な発想を捨て、設置環境を効果的に使うことがポイントです。場合によっては静止画が有効なこともあるし、リアルなイベントとの連動なども効果的でしょう。

<<「スーパーローカルメディア」としての活用例を紹介>>

 以上、4つの誤解があることを十分理解した上で、最適なデジタルサイネージの活用方法を考えていくことが重要です。先述したように、デジタルサイネージは「通りすがりの視聴メディア」。4マスに続く第5のマスメディアではありません。視聴する時間と場所を特定できるという特性と、リアルに入り込むインターネットという特性を活かした「スーパーローカルメディア」を目指すべきでしょう。

 それを具現化したケースも出始めています。例えば、米国のあるスーパーマーケットではショッピングカートに小型のモニターを取り付け、そこに子供向けのアニメや商品情報を表示しています。ソウルの市街地では大通りに面した歩道に何本もの巨大なメディアポールを設置。上層部は広告を流し、下層部では通行人向けに市街地案内、新聞記事などの情報サービスやメールサービスなどを提供しています。画面はタッチパネル式で誰でも気軽に利用できます。

 羽田空港の女子トイレでは小型のデジタルサイネージがあり、空港施設やサービスなどの情報を提供しています。女性だけが利用できる空間なので、女性にセグメント化した情報のみを提供でき、効果的に訴求できるのが特徴です。また秋葉原では地域の特性を活かし、デジタルサイネージでマンガ古書店の広告を表示しています。これらは「スーパーローカルメディア」の特性を活かした好例といえるでしょう。

<<デジタルフォトフレームも有効なメディア>>

 一方、デジタルサイネージが普及してきた要因としては、ネットワークの高速・低価格化、ディスプレイの薄型軽量化・低価格化などが挙げられます。今後のデジタルサイネージ市場はこの傾向がより強まっていくでしょう。低価格なローエンド機器が市場をけん引し、導入先も小規模な一般店舗などすそ野が広がっていくことが考えられます。デジタルサイネージの機器メーカーも相次いでローエンド製品を投入しています。

 こうした傾向が強まっていくと、デジタルサイネージそのものの概念も変わっていく可能性があります。その1つとして注目したいのが、デジタルフォトフレームです。デジタルフォトフレームは携帯電話やデジカメで撮った写真を気軽に表示できるデジタル写真立て。高画質化・高機能化により人気が高まっていますが、自分の撮った写真だけでなく、ほかの人の写真をダウンロードしたり、様々な情報サービスを受けられるようになれば、パーソナルなデジタルサイネージへと発展していく可能性があります。

 実際、通信機能を備えたデジタルフォトフレームが多数のメーカーから発売されており、写真を表示するだけでなく、テレビや動画の視聴、メールやSNSなどを利用できるものもあります。例えば、米国のマンションデベロッパーは入居者向けにデジタルフォトフレームを配布し、建築過程を逐次写真で配信したほか、居住者向けの情報配信やデベロッパーの販売情報配信などに活用しています。さらに今後数年でデジタルフォトフレームは革新的に進化し、7インチ程度の無線対応デジタルフォトフレームが数千円で販売されるとの予測もあります。

 こうしたパーソナルなデジタルサイネージが普及すれば、企業自身が情報を発信していくメディアとなることができます。その際は「スーパーローカルメディア」の特性を活かし、従来型の広告という概念に縛られず、最適なコンテンツの内容や見せ方を考えることが重要になります。これからの企業は自社がメディア化することを念頭に、デジタルサイネージの有効活用を考えていくことが大切です。

#interbee2019

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