【ニュース】CSKシステムズ 福岡ユビキタス特区の現状を紹介
2010.8.19 UP
総務省 秋本参事官
福岡ユビキタス特区
IPDCを活用した放送・通信融合サービス
IPDCにおけるIPのカプセル化
通信・放送の融合による新サービスを検証
CSKシステムズは、7月20日、東京・千代田区の東京FMホールにおいて、「通信・放送融合社会 〜その可能性と新しいビジネス〜」と題したセミナーを開催した。講演は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授、総務省情報通信国際戦略局通信・放送総合戦略担当参事官の秋本芳徳氏、CSKシステムズ執行役員の山本香也氏、エフエム東京マルチメディア放送事業本部副本部長の仁平成彦氏、CSKシステムズ福岡ユビキタス特区プロジェクト担当の宮島恒敏氏、渋谷誠治氏らによって行われた。(映像新聞 小林直樹)
■中村氏 ユビキタス特区の意義を強調
中村氏は、「通信・放送の融合に向けた産官学活動状況」と題し、現在立法が検討されている情報通信法と、博多におけるユビキタス特区のICTサービスの現状について紹介した。
情報通信法は、放送と通信の融合などの見地から立法が検討されている法案。総務省情報通信政策局が設置した通信・放送の総合的な法体系に関する研究会の中間提言において提唱した。
07年6月に研究会が公表した中間取りまとめでは、電波法・放送法・電気通信事業法などに分かれている放送・通信関連の法律を情報通信法に一本化するとしている。
続いて中村氏は、新たなコンテンツサービスを踏まえて進められているユビキタス特区について説明し、その中で放送と通信が連携することによるサービスを行っている事例として、IPDC、AMIO、デジタルサイネージ・コンソーシアム、スポットワンセグなどを挙げた。
また、教育分野においては、クラウドを活用したデジタル教科書の普及におり、放送局が制作するコンテンツを教育分野へも提供できることになると説明。
中村氏は、これらを含めたユビキタス特区における活動が、世界最先端のICTサービスの開発、実証へとつながり、これらは地デジ化以降の新たなサービスを生みだし、さらには日本のイニシアティブによる国際展開可能なサービスモデルを確立していくことになると強調した。
■秋本氏 通信・放送の法体系改正に意欲
続いて登壇した秋本氏は、「通信・放送の法体系の見直しに関する動向」と題した講演を行った。
冒頭で、秋本氏は「今年中には法案を成立させたい」と述べ、政府が3月5日に閣議決定した「通信・放送の法体系改正案」の法案成立への強い意欲を示した。同法案は、現行の通信・放送の法体系を「伝送設備」と「伝送サービス」、「コンテンツ」という三つの視点から見直して、現在ある通信・放送に関する8つの法律を、「放送法」「電気通信事業法」「電波法」「有線電気通信法」の四つに統合するもの。
秋本氏はまず、戦前からの通信・放送の法制度の変遷について紹介し、現行の法体系が複雑になっていることを示した。また、米英仏、シンガポール、韓国などの諸外国において進められている通信・放送の法体系の変更の現状を俯瞰した上で、上記の法体系の改正案について説明した。
秋本氏は、新たな法改正によって整備される制度についていくつか紹介した。
一つの無線局を通信・放送の双方の目的に利用することが認められていなかった現行法を、改正案では双方が利用できるようにする。これによって、日中は放送波の送信に利用し、深夜の放送の秋時間帯にデータを伝送することなどが可能になるという。
また、免許不要局の上限を、これまでの0・01ワットから改正案では1ワットにすることで、車載レーダーや動物検知通報システム、ワイヤレスマイクの使用範囲が格段に拡大する。
さらに、携帯電話の基地局のうち、屋内に設置される小規模局などの個別免許を、改正案によって不要とすることにより、フェムトセル基地局の普及が見込まれるなど、法改正によってサービスの柔軟性が拡がることを紹介した。
秋本氏はまた、「現行の放送関連法では、放送がそれぞれ別々に定義されており、わかりにくい。新たな放送法においても、一定の放送を確保すべきことから、そのための枠組みを設けることが必要。しかし、現行の法体系では放送の種別ごとに事業形態が決められてしまっており、経営の柔軟性を確保することが不十分」であると指摘。
新たな放送法制では、放送を業務(ソフト)と、設備の設置(ハード)に区分けし、事業者がハード・ソフトを一致するか分離するかを選択できるようにする。さらに、放送業務については、認定、または電波法上の免許が必要な「基幹放送」と、登録・届け出によって業務が可能な「一般放送」に分ける。
これによって、複数の放送事業者が共同でハード会社を設立して、スケールメリットを享受し、経費・責任を軽減するなどといったメリットがあるという。また、経営の選択肢として、ハード・ソフトの一致を希望する場合には、従来通り、電波法の免許の手続きで足りるとし、放送法の「認定」の手続きは不要とする。
また、「マスメディア集中排除原則の基本の法定化」について、「19年の放送法改正により、その根拠が法定化されたが、具体的な内容は総務省令に委任されたまま」であるため、こちらについても触れ、「こちらも含め、次の臨時国会に提出してなるべく早く法案を通したい」と述べた。
■山本氏 IPDCの利点を紹介
山本氏は「CSKシステムズが考える"通信・放送融合時代における新たなビジネス"」として、同社が取り組んでいるIPDCの実証実験・サービスの現状について紹介した。
IPDCとは、IPデータキャストのことで、インターネットで使うIP(インターネット・プロトコル)を放送波に載せることによる、さまざまな新しいサービスの提供が可能になると言うもの。山本氏は、「IPDCによって、放送と通信のプラットフォームを共通化し、一つのコンテンツを放送・通信の双方で利用できる」と述べ、コンテンツ流通におけるサービス面でのメリットを指摘した。また、プラットフォームが共通化することによって、放送網と通信網の両方の伝送路を使えることから、目的に応じて適切なサービス配信形態を選択でき、柔軟なアプリケーションサービスを構築できると話す。また、災害時の情報配信などでも社会インフラとして高い利用価値があるという。
さらに、将来的には、IPDC対応の「ハイブリッド・チューナー」を用いることで、移動中にコンテンツを入手したり、地域ごとの特別情報を提供するといったサービスや、家庭内における家電製品などへの更新情報の配信や新聞・雑誌などのダウンロード販売といった利用の拡大が見込まれると言う。
■仁平氏 船舶にデジタルサイネージ情報配信
最後に行われた講演では、福岡ユビキタス特区における活動内容について、仁平氏、宮島氏、渋谷氏から報告が「福岡ユビキタス特区での実験活動のご紹介」と題して行われた。
3氏は、「福岡ユビキタス特区」で、通信・放送の融合技術を用いた新たなサービスの実験活動に取り組むエフエム東京とCSKシステムズの事例を、現地で2011年3月まで行われる実証実験のデモンストレーションを通じて紹介した。
仁平氏は、福岡ユビキタス特区におけるマルチメディア放送実証実験のねらいと現状について説明。実験項目として「通信放送レイヤー体型の地域放送への適用」「放送によるIP伝送」「課金コンテンツのダウンロード配信検証」「災害時の防災気球情報提供」の4つを実施している。放送波を使ったハイウェイでの交通情報配信サービスや、博多港と韓国の釜山港を結ぶ高速船に設置した小型のデジタルサイネージへ向けて観光情報を提供するといったサービスも実験している。
仁平氏は、アンケートからの分析により、携帯向けのマルチメディア放送については、「いつでもどこでも情報を入手でき、通常はオリジナリティのある高品質な番組を無料(有料でも300〜500円程度)で視聴できるもの。飲食店のクーポン券など財布に役立つデータ放送や双方向で参加できる新しい放送を求めている。緊急時にはプッシュ型で役立つ放送を受けられる」といった要望があると紹介した。
■宮島氏・渋谷氏 次世代型コンテンツ創生へ
CSKシステムズの宮島氏、渋谷氏は、福岡ユビキタス特区におけるIPDCの実験について説明した。
これは、同社が開発した受信中継装置を用いたもの。この装置には、IPDCの受信チューナーのほかに、受信データを蓄積する機能、WiFi無線機能を持つ。これによって、装置が受信した放送波によるデータを、既存のWiFi対応のモバイル端末などで楽しむことができる。FeliCaと連携した課金決裁も可能になっている。
実証実験では、西日本新聞社と共同で、電子新聞の有料配信を行っている。
宮島氏は、IPDCの一斉配信機能を用いることで、リコール製品のアラート情報配信サービスや、カーナビの地図情報や、家電製品のファームウェアのアップデート、電力エネルギーの運用効率化サービスといった、今までにないサービスが可能になると述べた。
宮島氏は最後に「今後の実験に向けた着眼点」として、「サービスの融合による新しいサービスの誕生」「伝送路の融合による通信・放送の両面を生かした情報伝達の実現」「中継装置による端末の融合」「事業の融合による新たな事業者の参入」「次世代型コンテンツの創生」の5点を上げた。
総務省 秋本参事官
福岡ユビキタス特区
IPDCを活用した放送・通信融合サービス
IPDCにおけるIPのカプセル化