【倉地紀子のデジタル映像最前線レポート】(4)1/2 映画『モンスター VS エイリアン』(7月11日(土)新宿ピカデリー他、全国<超拡大>ロードショー、配給:パラマウント ピクチャーズ

2009.7.9 UP

映画『モンスター VS エイリアン』
ハリウッド3D立体映画の第一弾!
ドリームワークスが新たなパイプラインを構築


 2009年は、ハリウッドの立体3D映画が多数公開されることから、「立体3D映画開幕の年」ともいわれる。その先陣を切ってリリースされたのが映画『モンスター VS エイリアン』だ。米国では3月に公開され、驚異的なヒットを記録。立体3D映画の明るい未来を予感させるものとなった。ここでは、ドリームワークス社のスーパーバイザーらとのインタビューを通して、本作品における新たなチャンレンジの数々を紹介する。(倉地紀子)



<”My dream is 3D”>
 3DCG映画を先導する一大スタジオへと成長したドリームワークス社。同社を率いるジェフリー・カッツェンバーグ氏は、映画『カンフー・パンダ』(08年)のプロモーションを兼ねて2008年に来日した際、「短期間にここまで成長できたことを非常に誇りに思っている」と語っていた。カッツェンバーグ氏はまた、『モンスター VS エイリアン』以降のすべての作品を立体3Dで制作すると、来日時にアナウンスした。これは、同社にとって大きな転機であり、経営的に大きな決断があったことが容易に推測される。
 立体3Dへの転向には、カッツェンバーグ氏自身のパーソナルな夢も託されている。これまで、カッツエンバーグ氏は、ハリウッドの映画業界で多大な功績をあげてきた。
 パラマウント映画では、映画『スタートレック』(79年)をヒットさせ、パラマウント映画の立て直しに貢献し、その後、ディズニーの映画部門の責任者として、『美女と野獣』(91年)や『ライオン・キング』(94年)など、数々のヒットを生み出したほか、ピクサーとの提携などで「ディズニーの第二次黄金時代」の立役者となる。94年には、旧友のスティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・ゲフィンと共にドリームワークスSKGを設立し、アニメ部門を担当。映画『シュレック』(01年)はアカデミー長編アニメ映画賞を受賞−−−−−−。
 このように、様々な夢を実現していた同氏に「今の夢は何か」と尋ねたところ、しばしの沈黙を経て返ってきた言葉は“My dream is 3D”という言葉だった。
 「現在3DCGといわれているものは、かりそめの姿の3Dでしかない。自分が目指しているのは“真の3D”だ」と同氏は語る。”真の3D“がいかなるものなのかは未だ誰も知りえないのだが、立体3Dはその夢に向かっての第一歩だといえそうだ。「ドリームワークスはテクノロジー・カンパニーだ」と断言するカッツェンバーグ氏。“真の3D”に向かって歩き出した技術開発の旅路は、今まさに始まったばかりなのだ。

<立体3Dならではヒューマンドラマ>
 初の立体3DCG映画に選ばれたテーマは“モンスター”だ。このモンスターたちが、実に人間味豊かなキャラクターの数々となっている。今回は21世紀を舞台にしたヒューマンドラマという路線を貫いている。CG映像の構成も、「実写で撮影できないようなシーンは作成しない」というのがモットーだったそうで、オーソドックスな映像となっている。
 映画全体を通して際立ってリアルにできているのが人の表現だ。これには、映画『シュレック』のシリーズで開発してきた技術を用いている。フェイシャル・アニメーション、衣服や毛のアニメーション、皮膚の質感表現、群れの表現などがその代表例だ。画面一杯に表情がクローズアップされたりと、立体3Dの利点を生かしたカットも多いが、いずれのシーンにおいても表現の質が高い。
 『シュレック』シリーズでは、中世のおとぎ話の世界を描きだすことを目指していたが、『モンスター VS エイリアン』では現代社会を描いている。また、『シュレック』シリーズでは、なるべくリアルに描く方向を執ったが、『モンスター VS エイリアン』では、強調による誇張表現や簡略化など演出的な表現が生かされている。シミュレーションによる表現でも、アーティストが演出的な意図に沿って表現できるように工夫されたツールが用いられている。
 たとえば、巨大化した人間の毛髪を表現する際、アーティストが一本一本の動きをコントロールしている。ここでは、アーティストが作成したテクスチャーによってシミュレーションの物理パラメーターを指定できるという工夫がなされている。皮膚の場合も、表層と深層の2つの層にわたって、アーティストが手書きで描いたテクスチャーマップを用いて最終的な見え方をコントロールする方法が導入された。
 立体3Dならではの華を添えているのが、壮大なスケール感だ。ストーリーでは、主人公の女性(スーザン)が特殊な光線を浴びることによって、奈良の大仏を越えるほどの大きさに巨大化する。そんなヒロインの視点から見た地球上の景色は、通常の視点からは感じることのできないエキサイティングな魅力を備えている。
 立体3Dは、スケール感を人間の視覚に最大限に訴える形で表現できる。今回のストーリーはそういった立体3Dならではの効果を意図して作成されたともいえる。
 こうしたスケール感のある立体3Dのためには、巨大化したスーザンの右目と左目の間の距離を考慮して右目用映像、左目用映像を作成する必要がある。レンダリングの際にも、こうした工夫がなされたようだ。

【画像説明】
(上から1番目)
 今年は、ハリウッドから立体3D映画が多数公開され「立体3D映画開幕の年」とも言われる。その先陣を切ってリリースされたのが映画『モンスター VS エイリアン』だ。
Monsters vs. Aliens ™ & © 2009 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.

(上から2番目)
 映画『モンスター VS エイリアン』の制作に携わった、ドリームワークスのアーティスト。右から、VFXスーパーバイザーのKen Bielenberg氏と、エフェクト・スーパーバイザーのYancy Lindqist氏

(上から3番目)
 巨大化したスーザン
 『モンスター VS エイリアン』には、巨大化したスーザンの視点から見たシーンが多数登場する。立体3Dで実装する場合に、シーン全体を捉える右目からの距離と左目からの距離の誤差が大きくなるほど技術的な問題は多くなるのだそうだが、今回はそのような問題点を承知の上でよりインパクトのあるシーンの作成が目指された。
 また、巨大化したスーザンの髪の毛は、たとえ一本の毛でも、その各部分で動きに変化を与えるために毛のシミュレーションのパラメーターにも変化を与える必要が出てきた。このため、今回はアーティストが手書きで描いたテクスチャを、MAYAの毛のシミュレーションのパラメーターとして髪の各部分にあてがうという方法がとられた。

(上から4番目)
 様式化した人間の表現
 映画には多様な特徴を備えた人間キャラクターが登場する。基本的には『シュレック』シリーズで培われてきた人間の表現のためのパイプライン(フェイシャル・アニメーション、衣服や毛のアニメーション、皮膚の質感表現、群れの表現)が適用されたが、今回は人間キャラクターを極力様式化することが目指されており、そのためのコントロールをアーティストが高い自由度でおこなえるように改善された。

#interbee2019

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