【NEWS】英国で「IPケーブルワールドサミット」が開催 ブロードバンド、IPビデオで攻勢をかける欧州のケーブル事業者
2011.10.28 UP
会場案内板
パネル風景
ケーブルテレビはFTTHに向けて段階的に進んでいく
民間セミナー.調査会社のインフォルマ社主催のIPケーブルワールドサミットが10月18日から19日までロンドンで開催された。欧米のケーブル事業者、通信事業者、メーカなど、約100名が参加した。ケーブルテレビ事業者のIPの取り組み、今後のIPへの移行、ネット上の映像サービスとの関係、将来動向等について、発表し意見交換を行った。欧州のケーブル会社のケーブルドイツ、ヴァージンメディア(英国)や米国のコムキャスト、コックスなどの事業者、ユーロケーブルラボ、コンサルタント、メーカなどがプレゼンテーションを行い、パネルディスカッションを行なった。主催者から日本CATV技術協会に対し日本の状況を説明して欲しいとの依頼があったことから、参加して、プレゼンとパネルに参加した。ブロードバンドとIPに積極的に取り組み欧米のケーブルテレビ事業者の状況がわかった。
(日本CATV技術協会審議役 浅見 洋)
■ブロードバンドで優位にたつ欧州ケーブル事業者
欧州のケーブルテレビは、都市部で多チャンネルテレビの展開をしていたが、会社の統合が進み、各国とも数社以内のグループに統合されている。売上高は、テレコム事業者の数分の一であるが、積極的投資を続け、ブロードバンドで優位にたっている。
ケーブル事業者団体のケーブルヨーロッパの資料によれば、域内世帯数2億3百万のうち、ケーブル加入者は6700万、テレビ加入者は6090万、ブロードバンド加入者が2320万世帯となっている。EUでは2010年に発表したブロードバンド推進計画で、2020年には50%以上の世帯で100Mbpsで接続することを目標としているが、ケーブルの場合、2010年でEUの50%以上の世帯で10Mbps以上のサービスが可能になっていて、2013年には50%の世帯に100Mbpsのサービスが提供され、2020年には2700万から5100万世帯が100Mbps以上のサービスにアクセス可能になるので、EUの計画は十分実現可能で、このために積極的に投資を進めていくとしている。
一方、通信事業者のブロードバンドはDSLであり、100Mbpsのスピードには多額の投資を必要とするFTTHが求められ、現状では高い世帯カバレージを確保することができないと予想され、LTEなど無線系での達成を考えている。
ケーブル会社のネットワークとしては、現在はHFCであるが、家庭から実際のところ300mまで光化したFTTCが多い。2008年から導入したDOCSIS3.0ケーブルモデムシステムはDSLより高速化を可能にしていて、各事業者は既に最高100−200Mbpsのサービスを可能としている。今後、光化に積極的投資を行い、FTTHに順次進んでいくとしている。ケーブルは段階的に進化可能な点が、テレコム事業者のDSLからFTTHへのアプローチと違っている。ケーブルの全帯域を256QAMのDVB−C方式でDOCSIS3.0を導入するとケーブル1本の容量は4Gbpsであり、ケーブルは最大のブロードバンドのパイプである。
現在、ケーブルインターネットと通信事業者のFTTHで100M以上のサービスカバー率は以下のとおりで、ケーブルが圧倒的に広く、高速ネットの分野では優位にたっている。
【ケーブル/FTTHのサービス世帯カバー率】
▽オランダ90%/6%
▽デンマーク55%/30%
▽英国50%/0.5%
▽ドイツ25%/1%
また、価格の面でもDOCSISは、DSLやFTTHより安い値段で提供していて、消費者にアピールしている。英国のヴァージンメディアの50Mブロードバンドは月額25ポンド(円高以前の1ポンド150円の水準でも、3750円)と廉価である。
なお、ブロードバンド全体のシェアでは、DSLで多くの顧客をかかえる通信会社が第1位で、ケーブル会社がそれに続いていて、英国の場合、BTが29%、ヴァージンメディアが22%である(2011年)。
ケーブル会社がブロードバンドに積極的なのは、多チャンネルは衛星放送という強力なライバルがいて、地上デジタル放送もHDでなく、多チャンネル化を志向したものであることから、多チャンネルだけでは事業拡大が期待できないことから、ブロードバンドを活用し、VODなど多様なサービス展開をしている。
■依然として多いアナログ放送受信者
一方で、ドイツ、北欧などでは地上デジタル放送への以降が完了しているが、ケーブル会社はアナログ放送を続けていて、ケーブルでのアナログ放送受信世帯はまだ50%以上である。デジタルサービスに加入する世帯は徐々に増えていて2011年中にはデジタルとアナログの比率が逆転するが、アナログの終了にはまだ時間がかかるとみていて、ビデオオンデマンド、多様なチャンネルなどでデジタルの魅力アップを図っている。
■デジタルからIPビデオへ
インターネット上の映像サービス事業者(OTT:Over the Top)の急増を踏まえ、ケーブル事業者がビデオオンデマンドや各種映像サービスをテレビ、PC、タブレット、スマートホンに同じサービスを提供するマルチスクリーンサービスに積極的に取り組んでいる。旣に家庭にあるネット接続可能なディスプレイはテレビ受信機より多いといわれ、ケーブル事業者がテレビだけにとどまっていては未来がない。
このためにはIPビデオ技術が不可欠であり、IP化に向けて進んでいる。IP化は映像、電話、ブロードバンドのサービスを一体化することが可能になり、映像でもテレビ放送、VOD、見逃し視聴、おすすめ番組紹介などをシームレスに展開できる。米国コムキャストでは、Xfinityの名でサービスを統合し、今年からはXfinityホームセキュリティといった新しいサービスを開始しているが、IPによってこのように多様な展開を可能にしている。英国ヴァージンメディアではVODサービスを提供しているが、10Mbpsを優先的に割り当て、OTTとの差別化を図っている。
■激化する通信事業者との競争
ブロードバンド化で遅れた欧米の通信事業者ではあるが、テレビサービスに進出し、FTTH化を進めているので、今後の競争は激化する模様である。英国BTもブロードバンドに積極的に取り組むことにして、これまではDSL(最大20M)であったが、BT Infinityの名で光サービスを開始したが、まだ提供されている場所はかなり限定されている。さらにBT Visionの名でテレビサービスに進出し、バンドルサービスを提供して、ケーブルと対抗している。BTビジョンはFreeview(地デジ)+オンデマンドで構成され、オンデマンド部分はIP伝送である。
■IPへの転換は段階的に
各事業者はIPビデオへはrevolutional(革命的) でなくevolutional(段階的)に進んでいくことを想定していて、映像サービスでもPC向けにはIPビデオで、テレビ向けの映像サービスは当面、欧州デジタルケーブル新方式DVB−C2で進めていき、デジタルビデオとIPビデオの混在が続き、いずれは完全にIPビデオ化が進むと予定している。
■我が国のケーブルテレビも、ブロードバンド、IPビデオへ
小生もユーロケーブルラボ、ヴァージンメディアの方とともにパネルに参加したが、サービスの多様化、柔軟性を確保するためにはIPビデオに取り組む必要性の認識で一致した。
我が国のケーブルもアナログからデジタルに転換したばかりではあるが、さらに次は、IPビデオ化へ進んでいくことは避けられないし、IPビデオなしには、ネット上の映像事業者やネット接続テレビとの競争に生き残れない。我が国のケーブルブロードバンドは約15%のシェアであるが、競争力あるIPビデオを実現するためにもブロードバンド基盤を自ら保有することが重要であり、欧州の事業者がDOCSISのケーブルブロードバンドで攻勢をかけている状況をみると、ブロードバンドを強化した上で、IPビデオに取組む重要性を感じた。
会場案内板
パネル風景
ケーブルテレビはFTTHに向けて段階的に進んでいく