スペシャル対談 音響編 木村太郎 VS 沢口真生 その3

2007.10.5 UP

その3
「Inter BEEは大人のイベントになるべき」と沢口氏。そのためのキーワードは脱展示会、脱ローカル、そして脱ハードウェア中心主義の3つだと言う。



【木村】
ラジオの話ですが、デジタル放送になると完全にサラウンドの世界になってくるのでしょうか?

【沢口】
そうですね、技術的な話ですが、今、セグメントで送られていますが、1セグだと容量がないので、3つ重ねたくらいになると容量が取れます。そうするとラジオもトーク中心の番組からクリエイティブな番組を提供できるようになると期待をしています。

【木村】
3セグメントを使って簡易動画を入れてその他のデータを送ろうとしていますが、それでも5.1チャンネルは空きますか。

【沢口】
問題ないですね。

【木村】
そうすると大変ですね、いよいよ車の中が5.1チャンネルになってしまう。

【沢口】
オーディオメーカーの立場からすると、ホームオーディオもそうですが、カーオーディオのサラウンド環境の提供も大きな話題になっています。

【木村】
実はデジタルオーディオについて懐疑的な感想を持っていたのですが、1セグの成功を見て、これだけのものがこういう形で送受信できるなら、もしかしたら音声のデジタル放送は間単に普及するかもしれないと思うようになってきた。どうでしょうか?

【沢口】
ヨーロッパはラジオ局の伝統が長く、クォリティ中心主義で運営されている。たとえば、オーストリア放送協会のラジオ局は毎日3~4時間くらいFM のデジタルラジオでクラシックのサラウンド放送をずっと流している。小さな町の教会やイベントなどで小さなコンサートが日常的にたくさん行われており、これを手を加えずそのまま流している。こういった姿勢が素晴らしいと思います。また、スウェーデンラジオが初めて衛星を使ってサラウンドのラジオドラマや音楽を立ち上げたら世界中から何百万というアクセスがあり、これで一気にラジオのサラウンドの可能性を世界に示してくれた。ヨーロッパは音を大切にしており、デジタルとラジオというポイントをしっかり抑えている。日本もそうなってほしいし、既存のFM局やラジオ単営局もこういうところに関心を持っていただきたいと思います。

【木村】
サラウンドから離れるのですが、私は小さなコミュニティ放送局にかかわっており(事務局注・湘南ビーチFM 78.9)、コスト面からみてどうしてもワンマン・オペレーションでいい放送を出したい。それには新しいシステムを使いたいなと思っていたところに、アメリカ人が飛び込んできて、これを使えという。何だって聞いたら、アメリカでは普通に使っているサーバーに音源を貯めておいてそれをワンタッチで出していくというシステムなんです。これはいいね、となるんですが、でもこんな小さな放送局に来る前に大きな放送局に売ってきてよと言った。そしたら2週間くらいしたらまたやってきて、どこにも売れないと言う。日本のラジオ放送へ行ったらテレビ局のような陣容で、つまりディレクターがいてプロデューサーがいてライターがいて、アシスタントがいてと7人くらいもいて、この機器には需要がないみたいだと。そこで、安く購入して私の放送局で使い始めた。こういう風に新しいハードウェアは放送も変えていくということを実感しているんですが、日本のラジオ業界はデジタル放送に移行する時に新しい技術を吸収できる体勢にありますか。これは技術でもあるのですが、好奇心でもあると思います。そこを動かすのは経営者ですか。

【沢口】
経営者がそういう気持ちになってくれることが一番ですが、ボトムアップで現場からの提案というのもあるでしょうね。

【木村】
デジタル音声放送というのは2011年のテレビの後で始まるわけですが、そんなに先の話ではない。いろんな新しい技術や機材を使いサラウンドも使いこなさねばならないわけですが、ラジオ局の現場では動きは始まっていますか。

【沢口】
少しずつそういう動きになっています。

【木村】
テレビは映像があって音声がある世界ですが、ラジオは音声だけの世界。その一番の根幹の部分が変わって大変革が来るわけですが、危機感を持たれますか。

【沢口】
危機感を持つか、面白いと思うか。10年後くらいにしか結果は出ないと思いますが、私は面白いと思う側ですね。

【木村】
10年かかりますかね。自動車にサラウンドが搭載されると、とたんに電波はサラウンドじゃないと聴かなくなるという時代になるかもしれませんね。



大人のInter BEEを目指して

【木村】
さてInter BEEですが、これは放送のための機器の展示会です。一方、NABはもっと幅広くやっていてコンテンツの販売もやっている。これからInter BEEもそちらの方へ行った方がいいのでしょうね。

【沢口】
1989年からInter BEEにシンポジウムの機能を加えたのですが、機器展示だけではなく本当のカンファレンス、コンベンションという形になっていき、大人のイベントになっていけばと思います。キーワードは3つあります。脱展示会、脱ローカル(脱ドメスティック)、そして脱ハードウェア中心主義。いいハードがあれば何でもできるというのではなく、それを使ってどのようにコンテンツをクリエイトするのか、クリエイトする側にも光が当たるという具合にしたい。素晴らしいクリエーターは内容で勝負です。自分はどんな表現をしたか、そして、たまたまこんなハードウェアを使ったという感じです。どのような新しい表現ができるのかにスポット当てたいのです。

【木村】
目に見える部分としてハードウェアがあるのですが、何ができるのかという知恵の出し合いの場、そして何ができたのかというコンテンツを披露する場、さらにそれでどのようなビジネスになったのかというのが大事ですね。

【沢口】
そのとおりです。今、抜けているのはマネージメントと流通の部分です。この部分の仕組みを整備して、最終的にはビジネスとしてみんながハッピーになれるということに目的があるのですから。いい機器を使っていいコンテンツができました、それでそれをどこで配給するの、全世界にアピールしましょうよと。また、こういったことを専門にする弁護士が日本にはほとんどいない。コンテンツに関する法律に詳しく、アーティストマネージメントをどうやるか、舞台公演はどうするかなどに長けた弁護士が大変に少ないですね。

【木村】
将来的にはInter BEEで弁護士のシンポジウムが開かれるようになるかも。

【沢口】
そうなれば十分に大人になったInter BEEとなるでしょうね。(了)

#interbee2019

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