【映像制作会社】音楽アーティストのPV制作会社 ゴイス
2009.8.28 UP
編集室
「新しいフィールドにもビジネスチャンスが出てきた」と末広氏
<<音楽映像制作で20年の実績>>
音楽アーティストのPV(ミュージックビデオ)制作を行っているゴイス株式会社。現在の事業を始めてからは20年近くになるという。同社の事業とPV業界について、制作部プロデューサーで専門学校の講師も務める末広哲士氏に話を聞いた。「弊社の設立メンバーはもともと、レコード会社で衛星放送の音楽番組を作っていました。その制作チームが解散することになり、次にどうするかを考えていたとき、「PVっていいな」ということを仲間内で話していたのです。それで音楽好きのスタッフが集まって、『ゴイス』を設立しました」
設立当初は業務の100%が音楽関連の映像制作だった。現在は10名ほどの社員(プロデューサー、ディレクター、制作スタッフ、会社運営スタッフ)とフリーランスのクリエイターたちとでPV(全事業の8~9割)をメインに、その他、様々な映像作品を制作している。制作の本数は月あたり6~8本程度で、複数のプロジェクトを常に同時進行しているという。
<<1本のPVができるまで。ゴイスのワークフロー>>
1本のPVができるまでには、最短で1ヶ月以上かかると話す末広氏。少数精鋭で1ヶ月に何本もの制作をこなす同社のワークフローはどのようなものか。
「PV制作では、あまり細かくコンテを描かないことが多いです。実は音楽関連映像の場合、コンテの通りに撮るというのが馴染みにくいと私は思っています。たとえばアーティストさんに“ギターをこの角度に持って、こう動いてください”と言ったとしても、“その持ち方では、見た目は良いけれど演奏できないよ”となる場合もあるからです。その代わりに、ビジュアルと文章でイメージボードをつくって話し合いながら一週間ほどかけて演出を決めていきます。
ドラマ風のPVなどで、役者さんの演技が必要なものなどはコンテを書くこともありますよ」
PVの撮影に関しては、出演アーティストのスケジュール上、撮影時間を確保することが難しいと末広氏は言う。「撮影に使えるのはたいてい1日なので、ロケ地は“なるべく都心に近く、すぐに行ける場所”や“雨が降っても問題のない場所”にするなどの配慮が必要となってきます。ロケ地選びには毎回苦労しますが、最近ではフィルムコミッションの協力を得ることも多いですよ。撮影準備は10日から2週間前後、撮影後の編集は1週間ほどで行います」。
華やかなイメージがある一方、短期間・低コストの傾向があるなど、PV制作を取り巻く環境は厳しいと話す末広氏に、この仕事の魅力について聞いた。「PVの制作というのは、ほかの映像制作に比べて表現上の制約が少ないと私は考えています。自由なことや実験的なことを商業ベースでしやすいという魅力があると思います」。好きでなければできない仕事だが、好きな人には大変やりがいのある仕事だという。
<<PV制作の課題と、変化する音楽業界>>
今後のPV制作業界が抱える課題とは何か。「クリエイターの地位や権利を守り、この業界で長く続けてもらうことが大切だと思っています。現状では、日本のPVは“縁の下の力持ち”であり、完成した作品はアーティストのものになります。制作側の名前が出てくることはほとんど無く、そこにクリエイターとしての葛藤があります。日本の映像クリエイターは、PV制作を一過性のもの、通過点と考えているところがあり、自分の作品を作りたい人や、より多くの利益を求める人は違う業界に流れてしまうのです。今後、この葛藤を解消していきたいですね」。
そのやり方はいろいろある、と末広氏は言う。「テレビ以外の新しいフィールドにもビジネスチャンスが出てきたと思います。Webの発達によって楽曲販売の形態も大きく変わり、インディーズレコード会社や個人でも楽曲を販売しやすくなりました。PVのような短い映像はWeb向きですから、こうした変化に対応して課金制度など新しいシステムの中でビジネス展開できないかと考えています。メディアに合わせて、PV制作に対するベーシックの考え方が変わるかもしれない、変えていかなければと思います。業界全体を活気づけて、クリエイターも元気にしていきたいです」。
編集室
「新しいフィールドにもビジネスチャンスが出てきた」と末広氏