【SIGGRAPH2009】ピクサー 映画「UP」制作裏舞台を紹介〜小津安二郎監督の技法に学ぶ
2009.8.5 UP
<<PIXAR「UP」のシーン構造を解説-日本作品が強く影響->>
SIGGRAPH会期中の8月3日午前中に開催された「Cameras and Imaging」と題したトーク(講演会)で、映画「UP」(2009年5月29日全米公開)の撮影監督、Patrick Lin氏(米PIXAR Animation Studios)が、映画「UP」の画面構造について解説した。
CG映画の制作手法として、各シーンにおいて「動静率」あるいは、「感情の高ぶり」といったパラメーターを設定して、10程度の段階を設定する手法は、一般的に行われている。Lin氏も映画「UP」においては、動と静の位置づけを明確にして、シーンがおとの動静率(10段階)を設定して、カメラの動き、レンズ選択などを行ったことを明らかにした。
さらにLin氏は、「静」については、小津安二郎監督の技法に学び、カメラを動かさない、レンズは50mmを使い極力交換しない、ローアングルをとる、といった方法をとったと述べた。講演では、映画「東京物語」(1953年)の紀子(原節子)のアパートでの会話シーンなどを使い、詳細が説明された。また、50mmよりも広角のレンズを使った場合でも、歪みを除去して自然な感覚を与えるなど、静謐さを重視したことが明かされた。
このほか、登場人物の間に心の交流が出来ていない状態は、黒澤明監督の映画「生きる」(1952年)を参考にしたという。作中、志村喬が演じた主人公が、心の交流が出来ていない人物と向かい合う際は、必ず両者の間を仕切る線が何らかの形で入っていた。この方法を「UP」でも取り入れているという。
質問で「動」に関して参考になる作品はあるのか、との声が寄せられたがLin氏は「"動"は、比較的簡単で、容易に効果が得られる」としていた。