【倉地紀子のデジタル映像最前線レポート】映画『2012』 CG シミュレーションの新境地 11月21日(土)、丸の内ルーブル他全国ロードショー 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(1)
2009.11.22 UP
Ryo Sakaguchi氏
Tadao Mihashi氏
2009年も終盤を迎え、映画史を塗り変えるような新たな映像体験を提示する映画作品が、相次いで公開となる。この11月についにベールを脱いたローランド・エメリッヒ監督の新作『2012』はその代表作といえるだろう。一足先に公開となったアメリカでは、空前のヒットを記録した。驚愕のリアリズムをつくりだしたVFXは、CGシミュレーションの新たな扉を開いたともいえる。今回は、この作品のCGメイキングの深層を、メインVFXを担当したデジタル・ドメイン(Digital Domain)社とのインタビューを通して紹介してゆく。(倉地紀子)
<<デジタル・ドメイン社の新たな挑戦 - 破壊シミュレーション>>
『2012』は、人類の終焉という真摯なテーマに、真正面から挑んだ作品といえる。この難しいテーマを真実味のあるストーリーとして映画のスクリーン上で語るためには、誰もが想像したことさえない壮絶なシーンを、これまでにない壮大なスケールで、なおかつ、あたかも観客が実際に体験しているかのように感じさせる究極のリアリズムで描き出す必要があった。
リアリズムの表現手段としては様々な方法論が考えられるわけだが、今回エメリッヒ監督はその核心部分を、すべてCGで描きだすという方針を打ち出した。
そして、そこで要となったのがシミュレーションという要素だ。CGシミュレーションという手法は、これまでにもすでに数々の映画で活用されてきたが、これまではある特定のシーンの特定のリアリズムをつくりだすという目的に限られていた。しかし今回は、CGシミュレーションが映画の世界感を決定するための鍵をなるだけに、新たなレベルのチャレンジが必要とされたのだった。
<<シミュレーションの精度と効率を大幅に向上>>
これらのチャレンジは、おおまかには2種類に分けられる。一種類目は、シミュレーションの精度と効率だった。今回は、これまでにない精緻なリアリズムを著しく高速につくりだす必要があった。シーンのスケールが非常に広大なだけに、この「高速」という要素が今回は非常に重要視された。
2種類目は、シミュレーションをいかに自在にコントロールできるようにするかということだった。映画の中には現実には絶対に起こりえないシーンも多数登場する。
いってみれば、そういった観客の予測を超えるシーンをどう演出するかということが監督にとっても最大の腕の見せ所でもあり、それゆえに監督の詳細にわたる演出上の要請に、シミュレーションはパーフェクトに対応する必要があった。
<<正確な物理法則の反映と自由度の高さ 二律背反の要求に新たな視点でアプローチ>>
本来物理法則の支配に任されているシミュレーションとこのような自由度の高いコントロールとは水と油の関係ともいえるだけに、これを可能にするためには、シミュレーションというものの概念を新たな視点から捉え直すためのユニークなアイデアや様々な試行錯誤が必要とされた。
映画の中でも、LAの街全体が地震によって微塵に崩壊し、海洋に飲み込まれてゆく場面は、人類の終焉を暗示するもっとも象徴的なシーケンスだ。
このシーケンスこそが、これまでのCGシミュレーションとは一線を画した新たなレベルのCGシミュレーションの見せ場でもあり、CG シミュレーションによる迫真の演技がデジタル・ドメイン社によってつくりだされた。
数々のシミュレーション技術が併用されてはいるのだが、大黒柱となったのは破壊シミュレーションだった。
シーンの中で物体が破壊する様子をCGシミュレーションによって作成するということ自体は決して珍しいことではない。しかし、上記のシーケンスではシーンのありとあらゆる部分で破壊が起こっており、なおかつ一つの破壊が次々に新たな破壊を引き起こしてゆく。
いまだかつてないスケールと複雑さをもった映画史上最大の破壊シーケンスといえるのだ。
実際のところデジタル・ドメイン社にはすでに破壊シミュレーションのための数々のシステムが存在していたのだが、今回のプロジェクトの要請をこれらだけではとてもカバーできないと判断され、全く新しい破壊シミュレーションのシステムとパイプラインが構築された。((2)に続く)
【写真説明】
■Mohen Leo氏(VFX Supervisor: Ditgital Domain)
数々のCGシミュレーションを統合して、監督と共に『2012』におけるCGシミュレーションによる「演出」いう新たな境地を切り開いたのが、Mohen Leo氏だ。
『マトリックス』シリーズ、『ポセイドン』、『スピード・レーサー』などCGヘビーなプロジェクトを率いてきた同氏ならではの洞察とアイデアが今回も生かされている。
■Ryo Sakaguchi氏 (CG Effects Animation Lead: Ditgital Domain)
『2012』におけるCGシミュレーションに核心部分にあたるのが破壊シミュレーション。今回の破壊シミュレーションは、剛体シミュレーションのコア・エンジン、剛体シミュレーション・システム(Houdiniのプラグイン)、破壊シミュレーションのパイプライという3層から成り立っていた。この3層から成る破壊シミュレーションを一貫した視点で統括し、ヒーロー・シーン制作の成功へと導いたのが、Ryo Sakaguchi氏だ。
■Tadao Mihashi氏(Technical Developer: Ditgital Domain)
CGシーンのリアリズムをつくりだすうえで、ライティングおよびレダリングの工程が果たす役割は大きい。今回この工程の開発を担当したのがTadao Mihashi氏である。
膨大な物量を含んだシーンのリアルな見え方を出来る限り効率的に作り出すために様々な工夫と努力が重ねられた。
■メイキング画像
地震によって崩壊したLAの街が海洋に飲み込まれてゆくシーンは、ストーリー的にもビジュアル的にも映画前半のクライマックスにあたる。今回の技術的な華となった破壊をはじめとして、海洋、煙や炎などのエフェクトにいたるまで、そのほとんどにデジタル・ドメイン社独自のシミュレーション技術が反映された贅を尽くしたシーンとなっている。海の水の表現にはデジタル・ドメイン社が誇る流体シミュレーションのソルバーが用いられているそうだ。
Ryo Sakaguchi氏
Tadao Mihashi氏