【インタビュー】ソニーF65コンセプト決定の中心人物に聞く ソニー プロフェッショナル・ソリューション事業本部 三上泰彦氏
2011.6.17 UP
KOBAで出展したF65
●新開発CMOSセンサーを採用
2011 NABSHOWでの発表で大きな話題となったソニーの4Kカメラ『F65』。スーパー35mmサイズながらも実質8Kが可能な独自発想による新開発CMOSセンサーで、16bit 4K/RAWデータという高解像度で撮影できる次世代のデジタルシネマカメラだ。
『F65』の製品化にあたって、コンセプト決定の中心人物の一人でもある三上泰彦氏にインタビューした。(聞き手:DVJ BUZZ TV 代表/映像ジャーナリスト 石川幸宏)
ソニー株式会社
プロフェッショナル・ソリューション事業本部
商品企画マーケティング部門
CCS商品企画部 統括課長 三上泰彦 氏
—『F65』の特徴と、開発で難しかった点は?
「センサーの配列がユニークだということと、動画のカメラとしては総画素数が2000万画素と非常に多いので、感度、ノイズ、色域を含めていままでソニーの中でも最高機種であったF35よりもさらに上を行っている事です。難しかったのは一つ一つの画素については、F35よりも小さいのですが、それでも感度、画質、ノイズも改善しなければならなかったという部分と、それだけの画素数を最高120コマで読み出すという部分が、開発としては一番苦労した部分です」
「詳細に関しては企業秘密ですが、現代の半導体技術というのは『量を作れば、質が向上する』という論理になっていますので、これまでコンシューマ等で量産され、開発されてきた技術が、プロ機材の方にもその恩恵を下ろすことができるようになってきたのです」
—多層構造のCMOSセンサーと比べて、F65に単板CMOSを搭載した理由は?
「映画の場合、S/N比が最も大事な部分で、ノイズの処理を考えると単層/単板のセンサーで扱う方が良いという結論に達しました。本当はR:G:B=100:100:100で均等に取り込めるのが最も理想的なのですが、F65では、R:G:B=25:50:25です。それを8K分の情報量で取り込み、それを4K分に落としているので、その分高いクオリティが保持されているわけです。現在の技術を考えると単板での処理の方が良いということと、今後の展開としてシャッターを組み込みたいなどの長期的なR&Dの展望もあり、その点からも単層センサーに決定しました」
「ユニークなこのセンサーの設計にしたのは、もともと無い情報を擬似的に作り出しているのが従来のベイヤー配列におけるCMOSセンサーの発想ですから、そこには限界があると思いました。(映画用のカメラは)撮影時に上流の方でいかに高品質な情報を取り込めるか、ということだと思いますので、上流で高品質で撮っておけば後処理で幾らでも汚しを掛ける事は可能ですから、そこがポイントだと思います。もちろん65mmサイズのCMOSセンサーを持ったカメラも開発可能でしょうが、レンズの互換性や被写界深度が浅すぎるなど諸問題が多いので、今現在は動画のスーパー35mmサイズの範囲でどこまで頑張れるか、ということでこのサイズで開発しました」
—実際のセンサーサイズは16:9?
「DCI(Digital Cinema Initiatives)の規格にある、4096×2160という規格に準拠しています。厳密に言えば1.9:1、テレビの16:9が1.78:1ですから、若干横長のサイズですね。これならばアナモフィックレンズを使わなくても、上下をレターボックスで切ってシネスコサイズにも出来ます」
●「65mmにどこまで近づけるか、チャレンジの意味を込めたネーミング」
—『F65』ネーミングの由来は?
「静止画の 35mmの上にブローニー判が存在するように、動画用の 35mm フィルムの上位フォーマットとして 65mmフォーマットがあります。 IMAXの作品や、古くはアラビアのローレンスの撮影に使われたものです。 我々としては F35で 35mm フィルムに迫る画質が実現できたと思うので、次の開発のターゲットとして、65mm フィルムにどこまで近づけるのか、チャレンジの意味合いを含めて F65というネーミングにしました。 今回の F65では確実に 35mm フィルムのクオリティを超越したと考えて頂いて良いと思います」
—ソニー独自の特徴的なテクノロジーとしては?
「やはりセンサーと記録部のSRMEMORYの部分で、5Gbpsの高帯域のメモリーでないとこのカメラの画は記録出来ませんから、一般のSSDを買って来て記録することは出来ませんし、他とは格の違う製品になっています」
—F65で撮影できるRAWデータとスチルカメラのRAWデータとの違いは?
「RAWという意味では肉眼でそのまま画像を直視できない点では一緒です。ただ、センサーの画素配列が独自なものになっているのと、メモリーの記録容量が許す限り毎秒 120コマで連続撮影できる点がスチルカメラとは大きく異なります」
●現像処理ソフトを開発中
—RAWデータの現像処理に関しては?
「(現像処理ソフトなどを)カメラの発売と同時に間に合うように現在鋭意開発中です。ソフトウェア以外でもハードで行う方法やデッキの中で行う方法など、様々なオプションも検討中です。もちろん他社ソフトウエアメーカーにも編集システムやカラーコレクションシステムでの対応を働きかけていくことになると思います」
—(年末予定の)リリースまでに調整していく部分はどんな点?
「今回の『F65』には、この10年のお客様からの要望を盛り込んだ物となっています。すでにハリウッドのスタジオや撮影監督の方に見て頂いていますが、非常に良いフィードバックを頂きました。二言目にはいつ出るのかという問い合わせを頂いています。リリースまでに一番重要だと考えているのは、やはりどんな状況でもちゃんと撮れるという、カメラとしての基礎体力が重要だという点と、あとはワークフローに関して多くのやり方があると思いますのでその部分をしっかりサポートできればと考えています」
KOBAで出展したF65