私が見たInter BEE 2009技術動向(その2、デジタルシネマ、3D関係)
2009.12.14 UP
3D・高付加価値映像制作システム(ソニー)
世界的に評判のRED ONEによる3Dカメラ-西華産業
多様な応用が期待できる超小型3Dカメラシステム-Iconix
平行型ステレオ・ビュア方式3D映像(計測技研)
前号では今大会の全体の様子と高画質化と小型低価格化の2極化が進むカメラの動向について書いた。本号では、近年、世界的に大きく進展しているデジタルシネマ、中でも最近のNABやIBCにおいてもブームにもなっている3D関連の出展動向について見てみたい。
以前、SDTVがメインだった時代、Inter BEEやNABにおいてハイビジョンHDTVの登場は衝撃的で大きなインパクトを与えた。あれから10数年、HDTVが基幹メディアになっている現在、ここ2~3年は以前のHDTV役割を4Kデジタルシネマが担ってきた感がある。そのデジタルシネマも国内外で定着し始めたのか、展示会での目玉としてはインパクト性がややうすくなり、今回、出展各社のブースにおいてはHDTVシステムに並びごくさりげなく出展されている。それにかわりと言うかその付加効果として3Dが新たなビジネスチャンス生み出すメディアのイノベーションとして推進役を担い始めたような印象が強い。
デジタルシネマが定着し大きく進展していることを実証するかのように、4Kカメラやディスプレイ、さらにはHDと4K間の符号化技術やレコーダ、伝送技術まで多種多彩な出展物が各社ブースに並んでいた。
高精細大型映像やデジタルシネマの進展に実績高いアストロデザインは、画素数3840×2160のパネルを搭載し4K×2KフォーマットとHD-SDIさらに60p、60i、24pにも対応する56型液晶モニターを展示した。開発中の小型の4Kカメラで撮影した超高精細映像を同じく開発途上の4Kビデオレコーダに記録・再生し見せていた。ソニーは国際会議場内のスイートにて、画素数3840×2160、10ビットLCDパネルを搭載し、プレシジョンLEDバックライトの56型高解像度液晶モニターを展示した。デジタルシネマ制作現場だけでなく、CG制作やシミュレーション、印刷分野や産業機器研究開発など幅広い分野でも利用が期待できる。最近、NABやInter BEEの常連になっている西華産業は後述する3D関連に加え、デジタルシネマ分野で世界的に実績を上げているRED社(米)の4K(4096×2306)CMOS搭載の"RED ONE"カメラを公開した。またコンテンツ制作で有用なシステム、4K RAWデータをリアルタイム処理できるアクセラレータボード"RED Rocket"の実演公開も行っていた。NTT ATは非圧縮のHDTV映像をギガネットIP ネットへリアルタイム伝送するIP Gatewayに加え、4K高精細映像の配信・録画・再生するJPEG2000リアルタイムコーデックを展示した。
これまで洋の東西を問わず何度も消長を重ねてきた3Dだが、最近の各種展示会やイベントでの動き、ジェームス・キャメロン監督の3D大作映画「アバター(今月よりロードショー)」に見られるように盛んなコンテンツ制作、さらには医療など産業分野での利用などを見ると、今見られる3Dの熱気は本物のように思われる。今回のInter BEEにおいても、その流れを裏付けるように3Dに関連する企画や出展物が目立っていた。展示会場内に開設されたIPTVクロスメディアゾーンには、「3Dイメージパビリオン」が併設され国内外企業からの数々の3D関連技術が公開され、「立体映像に関する世界動向」と題するオープンセミナーも開かれ大勢の聴講者が集まっていた。
ソニーはこれからのビジネス戦略の柱の一つに3Dによる展開を掲げ、撮影、スイッチング、高度な映像加工処理から編集まで「3D・高付加価値映像制作ワークフロー」を、そして家庭からシアターまでの表示、上映までカバーするトータル的なソリューションを提案した。スイートに3D映像体験シアターを設け、200インチ位の大スクリーンにL/R2レンズ式で4K、885万画素(4096×2160)のSXRDプロジェクターを使い、サッカーや自然もの、ライブイベントなど高精細で迫力・臨場感のある立体映像を上映していた。またハーフミラー式2カメラ一体型3Dカメラを置き、その横で3Dライブ制作システム・プロセッサーの公開実演もやっていた。本会場ブースの正面ステージには上記3Dカメラを置き、280"高輝度LEDディスプレイに迫力ある3D映像を上映し来場者を圧倒させていた。
アストロデザインは、前述の4K高精細映像に加え、撮影、収録、配信から表示までトータル的な3D映像システムを公開した。ブース右手の舞台上でピエロが演ずるパフォーマンスを、高いポールに据え付けた3Dカメラで撮影し、ブース正面に置いた3D液晶ディスプレイにライブ中継していた。3Dカメラは2眼式で小型のボックスに納められた軽量コンパクトな構造で、L/Rの輻輳角が自動的に調整される10倍の光学ズーム機能を有しているそうだ。デュアルストリーム(HD-SDI×2)で出力され、非圧縮のままHDDレコーダに記録することもできる。新開発の46"と24"3Dモニターは3Dプロセッサーが内蔵され、HD-SDI×2だけでなくサイドバイサイド、フィールドシーケンシャル、ラインバイラインの各3D信号方式に対応できる。また2CHのHD信号を3G-SDIに変換し1本のケーブルで伝送し、3Dコンポーザーでシングルストリーム(1.5Gbps)にダウンコンバートし、H.264コーデックで長距離のIP伝送することも可能なソリューションを公開した。放送以外にも科学、医療分野などで様々な利用が期待できそうだ。
前述の西華産業ブースには、多種多彩な3D関連の展示物も並んでいた。"RED ONE"カメラ2台をハーフミラーで合体した3Dカメラが関心を集めていた。P+S Technik(独)は、ハーフミラー式で軽量から大型の各種3Dカメラに対応できる"Universal Mirror Rig"とほとんどのステディカムが取り付けられる"Steady Mirror Rig"を並べ実演をしていた。従来からフルHDの小型カメラを手がけているIconix(米)は、1/3"3CCDでフルHD対応、重量64gの超小型カメラ2台を小型ベンチに据付け、カメラ間隔と視差角度を調整できる構造の超小型3Dカメラを出展した。番組制作というよりも医療などの分野で使えそうだ。
デジタルシネマやスーパーハイビジョンにも関わりが深い計測技研は、展示場入り口付近のひときわ目立つ場所に大型の高精細映像システムを並べた。その中で56"4K×2K液晶ディスプレイ2面を使い、独自の平行型ステレオ・ビュア方式の立体映像を公開した。2台のディスプレイの画像を、液晶シャッター眼鏡を通して重ね合わせて見る平行型立体視で、慣れるのにちょっとこつが必要だが自然な立体映像を映し出していた。佐藤教授(立教大学)監修のコンテンツは、REDの3D4Kカメラで撮影し"RED ROCKET"で色調整などを施し同社の非圧縮ディスクレコーダに収録再生されたものである。
国内外でデジタルシネマ分野のビデオサーバで実績のあるdoremi(米)は、サイドバイサイド、ラインバイライン、シーケンシャル(L/R交互)、デュアルリンク(L/R独立)など様々な3D方式に対応できる小型、コンパクトな3Dフォーマット・コンバータを出していた。ブース内ではJVCの立体液晶テレビを使い3D映像を見せていたが、各種各様の3D方式によるコンテンツ制作や表示が流通する状況下、多様なシステムに柔軟に対応できるそうだ。
映像技術ジャーナリスト 石田武久
3D・高付加価値映像制作システム(ソニー)
世界的に評判のRED ONEによる3Dカメラ-西華産業
多様な応用が期待できる超小型3Dカメラシステム-Iconix
平行型ステレオ・ビュア方式3D映像(計測技研)