映画『真夏の夜の夢』 中江裕司監督インタビュー
2009.8.19 UP
映画「真夏の夜の夢」より
沖縄における環境や習慣などの変化が物語の鍵となる
フィルムの独特の空気感でガジュマルの大木や花々を映し出した
映画「真夏の夜の夢」ポスター
<失われゆくものの未来、消失、自立、再生をファンタジックに描く>
『ナヴィの恋』(1999)、『ホテル・ハイビスカス』(2002)など、30年近く沖縄に暮らし、その風土に根付いた作品を発表し続ける映画監督、中江裕司氏。その最新作が『真夏の夜の夢』(公開中)だ。シェイクスピアの祝祭劇を基に『A Midsummer's Okinawa Dream(英語題、”沖縄版真夏の夜の夢”) 』として物語を編み上げた。
ファンタジー性の高い作品であり、そういう意味では、ジブリアニメと通じるものがあるかもしれない。ガジュマルの木に宿る精霊(キジムン)と恋に疲れ東京から故郷・沖縄の離島に戻ってきたヒロインが見る夏の夢—————。しかし、中江監督は、南国のエキゾチックな風景の中に、巧みにリアリズムを組み込んでいる。
「日本人が忘れているものを思い出してほしい」と中江監督は語る。物質文明、極端な資本主義へのアイロニーもあるが、本質はもっと身近な存在だという。「仏壇に手を合わせたり、自然やヒトも含めた生き物たちを敬う、かつてはごく当たり前だった感覚。それが沖縄にはまだ残っていると思う」。
映画では、本土化が進む沖縄における環境や習慣などの変化について、物語の謎解きの要素として象徴的に描いている。”失われゆくものの未来”という問題提起に対し、ヒロインが体験する消失の後の自立、そして再生を描く事で答えている。
「人間たちが去っていった後にも島は何百年もそこにあり続ける。何世代かして人間たちもまた戻ってくるかも知れない」。同映画は、沖縄では題名を『さんかく山のマジルー』(マジルーは登場する精霊の名)としている。人々が帰ってくるその日まで島を守り続けるマジルーの姿には、中江監督の希望と願いが込められているようだ。
<徹底的にフィルムの質感、奥行感にこだわる>
本作品の製作にあたって、中江監督はフィルム撮影にこだわった(撮影監督 高間賢治 JSC/キャメラ:ARII BL4S)。一部にVFX、合成などのデジタル効果が施されているが、全編にわたりナチュラルな色と奥行き感の表現に成功している。
物語を象徴する三角山を臨む美しいカットは、その完全な美しさゆえにフルCGではないかと疑うが、フィルムによる実景撮影であるという。このシーンを撮影したときの態勢について、撮影監督の高間氏は次のように説明する。
「カメラを固定し、アンジェニュー10倍ズームで撮影、途中CANON望遠ズームに交換して続きを撮影し、2カットをデジタル処理で繋いだ」。後処理でも可能かと思われる場面も、リモート操作による複雑なクレーンショットとして撮影している。
「デジタルとフィルムにはそれぞれ相応しい題材がある」(中江監督)。ガジュマルの大木や花々、青い夏の海に緑の山、そして(原作もそうであるように)多彩な登場人物を優劣なくフレームに収める為には、フィルムの持つ独特の空気感でなければならなかったのだろう。
「これは“僕の映画”とは思っていない」という中江監督の作品はいずれも、土地の風土を色濃く映し出している。いずれも沖縄がモチーフとなっているが、「いつか他の土地でも撮ってみたい」と話す。人間や自然に対するまなざしは、地域を問わずに中江監督の創造力をかき立て、”目に見えない存在”の営みを映像化していくことだろう。
(問い合わせ)
オフィス・シロウズ
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映画「真夏の夜の夢」より
沖縄における環境や習慣などの変化が物語の鍵となる
フィルムの独特の空気感でガジュマルの大木や花々を映し出した
映画「真夏の夜の夢」ポスター