【倉地紀子のデジタル映像最前線レポート】映画『2012』 CG シミュレーションの新境地 11月21日(土)、丸の内ルーブル他全国ロードショー 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(2)
2009.11.24 UP
<<物体に亀裂を生じさせるHoudini用プラグインを独自開発>>
(1より続く)破壊シミュレーションはある種の連鎖反応ともいえ、それゆえに一つのシステム単体ですべてをつくりだすのではなく、複数のシステムうまく編み込んでそのパイプラインがつくりだされた。
ダイナミック・シミュレーション・パッケージとしてハリウッドで定番となりつつあるのがHoudiniだ。
デジタル・ドメイン社でも同様の目的でこのパッケージ・ツールを用いており、表現の可能性を高めるうえで数々のプラグインが開発されてきた。今回も破壊の各工程をHoudiniのプラグインとして開発するという方向性がとられた。
<<物体に亀裂が入るフラクチャを再現する「Poly Buster」>>
まず破壊は物体に亀裂が入って割れてゆくところから始まる。これがフラクチャ(Fracture)とよばれる工程だ。
フラクチャに関しては、デジタル・ドメイン社が以前に担当した”Mummy3”のプロジェクトで、非常にオーガニックな物体の亀裂や割れ方を表現するためのプラグインが開発された。
このプラグインはレベルセットの考え方を応用した物理的にも正確な手法であったという。しかしながら、『2012』では家屋、ビル、岩山といった比較的「硬い」物体を大量に割ってゆく必要があった。
そしてその割れ方に関しても、演出的な要素を反映させることが望まれていた。したがって、オーガニックな見え方や物理的な正確さという要素よりも、高い自由度で大量の物体を高速に割ってゆくという機能が切望された。新たに開発されたHoudiniのプラグインは、そのような要請を反映させたものだった。
「PolyBuster」と名付けられた今回のプラグインでは、まず割れ目の大雑把な指示をアーティストが物体表面上の点の集合として与える。そして、これらの点郡をもとにして、ボロノイ分割(voronoi diagram)という方法を用いて割れ目を生成し、3Dのポリゴンに分割してゆく。
ボロノイ分割そのものは、決してフラクチャの物理的な特徴を考慮したものではないが、シンプルなアルゴリズムゆえに、アーティストが点の集合によって指定した亀裂の分布パターンを素直に反映させて、均整のとれた分割を高速に行うことができる。
そしてこれこそが、今回のプロジェクトで求められていた最も重要な要素だったのだ。
<<亀裂の入るタイミングや進行速度も調整可能に>>
また、今回は亀裂の入るタイミングやその進行速度などに関しても、微妙な拘束条件を加えることができるようになっていた。
たとえば、ビルに飛行機が衝突してこのビルが破壊へと導かれる場合、その亀裂は衝突した部分から次第に周りに広がっていくわけではあるが、そのタイミングや進行速度は、亀裂の入る部分や亀裂の進行方向によって変わってくる。
そのような違いを直感的にコントロールできるようにすることによって、ある部分は真っ先に崩れ落ち、ある部分は最後まで形を留めているというような、破壊の表現の演出をすることが可能となる。
これは後述する剛体シミュレーションにおいて非常に重要視されていた要素でもあり、今回のフラクチャはいわばシミュレーションの本体にあたる剛体シミュレーションの導入部分という位置付けでもあっただけに、そのフィロソフィーをうまく共有できるようにする必要があったようだ。
【画像説明】
(一番上の画像)
亀裂を生じさせる工程は、破壊シミュレーションの最初の工程にあたり、Houdiniのプラグインが新たに開発された。
PolyBusterとよばれるこのプラグインは、「どのような形状の物体であっても、アーティストが望むとおりの亀裂を発生させて、高速にポリゴンに分割してゆく」ことを第一義としたものだった。
作成したのは、デジタル・ドメイン社で数々のシミュレーション・ツールを開発してきたKen Museth氏。同氏は以前にCrackTasticとよばれるやはり亀裂を生じさせるHoudiniのプラグインを作成している。こちらは物理的な考察に基づいたもので、よりオーガニックな割れ目をつくりだすことができる。
『2012』ではこの両者が併用されたが、主要な目的がおびたたしい量のビルや岩山などの破壊ということもあり、PolyBusterの方が圧倒的に活用される頻度は大きかったという。
(二番目以降の画像)
step1: グリーンバックで前景に登場する人間と車などの物体を撮影。
step2: シミュレーション的な要素を含まない中景のCGエレメントを(手作業によって)作成。
step3: 背景の環境はすべてCGで作成。破壊する前のモデルは手作業で作成されたが、破壊がはじまったのちの動きはすべてシミュレーションによって自動生成されている。煙・塵・炎といったエフェクトもシミュレーションで作成された。飛行機に関しては手作業で作成された。この飛行機は破壊シーケンスにたびたび登場し、実写で表現されているショットも多かっただけに精緻なリアリズムをつくりだすために多大な努力が注がれたという。
step4: 実写の前景、中景のCGエレメント、背景のCGシーンを合成したものが最終映像となる。