【ニュース】NHK-MTが3Dで「東日本大震災」を記録 目の前に迫る圧倒的な臨場感 全国公開に先駆け神戸で上映

2011.8.23 UP

南三陸町における撮影
タイトル

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NHK-MT経営主幹の智片氏(右)と原田ディレクター

NHK-MT経営主幹の智片氏(右)と原田ディレクター

 NHKメディアテクノロジー(以下、NHK-MT)は、東日本大震災の映像記録として3D(立体視)による『東日本大震災 津波の傷跡』(略称=「3D東日本大震災」)を制作した。この作品は、地震発生の1カ月後に震災や津波に襲われた各地を1週間にわたって取材し映像に収めたものである。全国公開に先駆けて、神戸の「人と防災未来センター」(神戸市中央区)で8月31日まで公開されている。(杉沼浩司)


★技研公開に出展
 NHK-MTは、ハイビジョン3D映像制作に長い経験を持つプロダクションとして知られている。UNIHI(可搬型MUSE方式VTR)の時代からHD制作がなされていた。
 3D撮影は、『脳神経外科手術の顕微鏡撮影』(1989年)を皮切りに、『水中撮影、空撮』(91年)、『阪神淡路大震災』(95年)などや、98年の長野五輪から夏季・冬季の五輪を手掛けてきた。また、機材の自主開発もしており、リグや補正メカニズムの開発でおなじみだ。

 同社は、今年のNHK技研公開に『3D東日本大震災』を出展していた。技研地下会場の隅、「ミリ波モバイルカメラ」の隣であった。しかし、パンフレットにはこのブースは記されておらず、急きょ出展が決まったものと思われる。
 このブースで『3D東日本大震災』を来場者に説明していたのが、制作統括を務めたNHK-MT経営主幹の智片道博氏である。技研公開後、NHK-MTの試写室(東京都渋谷区)で、智片氏と演出を務めた同社放送技術本部3D高精細センターディレクターの原田美奈子氏に、同作品について聞いた。

★圧倒的存在感
 試写室で150インチスクリーンに映し出された映像を見ると、最初は震災当日に撮影された2D映像だった。街に流れ込む濁流、建物にあたり砕ける波、そして逃げ場所を求める人々。プロが撮影したとおぼしきその映像は、ハイビジョンの精細度で街が津波にのみ込まれていく様子をダイナミックに示していた。
 一転して、水が引いた後の街並み、いや、街並みの痕跡が映し出される。こちらは完全に静の世界。どこまでも続く瓦礫(がれき)、その上を舞うカモメ。しかし、その映像は2Dとは明らかに異なる。映像はいつの間にか3Dになっていた。

 作品では、瓦礫がどこまでもあるということが具体的に分かるのだ。2Dでは、映像の文法的に瓦礫が奥まで続くことを表現していると感じ取っていたとすれば、3Dでは考えることなく、目の前に突きつけた形で迫る。
 もちろん、3Dとしての効果を出すために構図を選ぶことはある。しかし、それらが効果を発揮しているのは、圧倒的な存在感を持つ現実を映し取れたからこそ、スパイスとしての構図が効いているのだと感じられた。

 震災後、筆者の元には「(津波を免れた自宅から)1キロメートル先には地獄が広がっている」(仙台市若林区の友人)、「家から海が見えるなんて考えてもみなかった」(気仙沼市に親戚を持つ友人)といった連絡が届いていた。「彼らは、このような世界に立っていたのか」と状況が初めてつながった。

★3人で撮影
 『3D東日本大震災』は、震災から1カ月後の4月上旬に撮影された。取材地域は、宮古市田老地区、陸前高田市(以上、岩手県)、気仙沼市、南三陸町、東松島市、仙台市若林区(以上、宮城県)の7ヵ所である。取材班は、現地取材統括者の智片氏以下、ステレオグラファー、カメラマンの3人態勢。機材は、パナソニックAG-3DA1を使用し、映像素材は2時間半に及んだ。

 P2カードに収められた映像は、同社のBLAZE編集室で原田ディレクターの指揮のもと編集され仕上げられた。BLAZE編集室は、3D.4k制作に対応した最新鋭の編集室で、震災1カ月後の4月11日から稼働している。

★インタビュー 「定期的に復興の様子を撮影したい」
 --映像に圧倒された。ドキュメンタリーにおける3Dの価値などを考えていたが、それらの考えも吹き飛んだ。
 智片「今回のような映像は、枠のあるメディアでは伝えられないと思っている。それを伝えるには3Dしかないと思った」
 --確かに3Dの効果が出ている。飛び出す、引っ込むということではなく、そこに「ある」ことが明確になった。特に距離感が鮮明だ。
 智片「あえて一言にまとめてしまえば、3Dの持つ『臨場感』ということだろう。この作品を見て『においを感じる』との感想も受け取った」
 --3D映画は「広がり」は感じても、「臨場感」という意味でこの作品とは全く異なるようだ。何が違うのか。
 智片「直接の答えではないかもしれないが、私はテレビのニュースでは、この現場の雰囲気は伝えられなかったと考えている。やはり臨場感は、3Dが持ち、そしてドキュメンタリーとして撮ったものが持ち、伝えるものがあるのではないかと思う」
 --限られたスタッフと機材で撮っているが、これらの制約は感じさせない迫力がある。
 原田「種々の制約で現地入りは3人となった」
 智片「機動性のある取材班だった。この作品で、バーチャルではないリアリティーに浸って欲しいと思っている」
 --この作品は、NHKの発注によるものなのか。
 智片「完全にNHK-MTが企画・制作した作品だ」
 --今後の展開は。
 智片「教育機関などでの上映を希望している。また、ドキュメンタリー作品のマーケットであるフランスの『第22回サニーサイド・オブ・ザ・ドック』に主催者招待で出展。この作品の上映とは別に、半年後、今回の撮影地に行ってみたい」
 --シリーズ化は。
 智片「復興の様子を記録していきたい。この先1年で2回現地を訪れる計画がある。1年後以降は年1回になるかもしれないが、定期的に地域の変化を追っていく」
 --後世の研究者、制作者のために、ぜひともジオタグ(GPSデータ)も打ってほしい。データとしての意味付けが増すだろう。
 原田「GPS技術に興味を持つ者も社内にいる。どのようなメタデータに価値があるか考えてみたい」
———

 フランスでの公開の結果、現地の3Dチャンネルでの放送の申し出があり、現在準備が進められているという。

 これまでは、震災当日の映像にのみ関心が集まっていた。地震と津波が何をしたのか、「震災の傷跡」を感じ取るために3Dで制作されたこのドキュメンタリーは、認識にも大いに貢献するだろう。

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NHK-MT経営主幹の智片氏(右)と原田ディレクター

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