【NEWS】ディズニー、ピクサー・カナダを閉鎖
2013.10.11 UP
ピクサーカナダーが入居しているビル
米メディアが報じたところによれば、米ディズニーは10月8日(火)付でバンクーバーにあるピクサー・カナダを閉鎖した。約100名の全クルーに対しては、その日のうちに通達が行われ、全員がレイオフされ、職を失う形となった。今回の閉鎖は、カナダのブリテッシュ・コロンビア州が推し進めてきたTAXインセンティブを利用して、バンクーバーに進出したメジャー・スタジオとしては、初めての撤退となり、バンクーバーのVFX業界に大変大きな衝撃を与えている。このニュースは、カナダのニュース・サイトThe Provinceが第一報を伝え、次いでVarietyや主要メディアが相次いで報じた。この報道と同時にピクサー・カナダのオフィシャル・サイト(www.pixarcanada.com)は閉鎖され、現在はピクサー本社のホームページへ転送されるようになっている。
(Text by 鍋 潤太郎)
■短編作品専門のスタジオを〝1つ屋根の下″に集結へ
ピクサー・カナダは、TAXインセンティブの恩恵を受けるべく、2010年春にオープン、バンクーバーのWater Streetにスタジオを構えていた(上写真・撮影:溝口稔和)。ピクサー・カナダはこれまで、映画館で公開する長編アニメーション作品にはタッチせず、「短編作品のみを手掛けるスタジオ」という位置づけで運営されてきた。
これまでに手掛けた短編作品として、
Mater's Tall Tales: Air Mater (November 1, 2011)
Small Fry (November 23, 2011)
Mater's Tall Tales: Time Travel Mater (June 5, 2012)
Partysaurus Rex (September 14, 2012)
Tales from Radiator Springs: Hiccups (March 22, 2013)
Tales from Radiator Springs: Bugged (March 22, 2013)
Tales from Radiator Springs: Spinning (March 22, 2013)
などがあり、これらの作品は米アマゾンで購入する事が出来、作品の予告編はYouTubeでも見ることができる。
閉鎖の理由として、親会社のディズニーは「クリエイティブとビジネスの両面から、ディズニーのニーズと照らし合わせて再検討した結果、ピクサーの全プロダクション業務はエメリービル(ピクサー本社)の〝1つ屋根の下″に集結させ、バンクーバーは閉鎖する事に決定した」というコメントを発表している。
ディズニーは、ビジネス戦略においては大変シビアなことでも知られ、時として大鉈を振るうことも少なくない。
ディズニーによって閉鎖された傘下のスタジオは、
ドリーム・クエスト(1999年にザ・シークレット・ラボに吸収統合)
ザ・シークレット・ラボ(2001年閉鎖)
ディズニー・フィーチャーアニメーション・フランス(2003年閉鎖)
ディズニー・フィーチャーアニメーション・フロリダ (2004年閉鎖)
ディズニー・フィーチャーアニメーション・東京 (30人規模、2004年閉鎖)
イメージ・ムーバーズー・デジタル(2011年閉鎖)
ルーカス・アーツ (2013年閉鎖)
などが、記憶に残るところだ。
■TAXインセンティブ制度に冷静な対応
ただ、あくまでも筆者の私見だが、ディズニーはカリフォルニア州外のTAXインセンティブ制度の恩恵に対して、それほど執着していないのではないだろうか。現に、映画「プレーンズ」(12月1日2D/3Dロードショー)を制作した、グレンデールにあるディズニー・テューン・スタジオ(DisneyTone Studio)では今でも人材募集を行っており、鋭意プロダクション業務を行っている。ディズニー本社内のディズニー・アニメーションでも、毎年1本のペースで劇場用長編アニメーションを制作していく計画である。故に、カリフォルニア州内のスタジオだけでプロダクションを回し、TAXインセンティブ制度に頼らずビジネスを敢行していくという姿勢なのではないだろうか。
ちなみに、バンクーバーに残存するディズニー傘下の制作拠点としては、もう1つ、ILMバンクーバーがある。こちらは、元々プロジェクト・ベースで必要に応じて稼働させ、当初から「必要以上に大きくする予定はない」と謳っていた事もあり、特に「リストラ候補」に挙がっている訳ではなさそうな気配だ。しかし、今回のピクサー・カナダの例を見ると、近々に廃止されてしまう可能性も捨て切れないだろう。
現在、カナダのブリティッシュ・コロンビア州、オンタリオ州、ケベック州では、互いに税金の還付率を引き上げてプロダクション企業誘致やプロジェクトを奪い合う「TAXインセンティブ戦争」が勃発している。これに対抗する形で、アメリカ西海岸では海外のTAXインセンティブに対抗するべくVFX業界が政界に働きかけを行う動きや、新しいロサンゼルス市長が映画&テレビのプロジェクト州外流出に対して「非常事態」宣言を行い、カリフォルニア州知事へ対策を訴える動き等が出始めている。
ピクサーカナダーが入居しているビル