【ニュース】工学院大学などが被災地支援のための「写真修復活動」で作業マニュアルを公開
2012.3.2 UP
届けられたアルバムの汚れを丁寧に落とす
工学院大学地下の作業室
授業や就活の合間を縫って参加する学生たち
■学生による写真修復ボランティア活動、被災地支援の輪を広げるためのマニュアル化
東北福祉大学、神戸学院大学、工学院大学の3大学が共同で設立した「社会貢献学会」は2月21日、東日本大震災の被災地支援で展開している写真修復ボランティア活動で培ったノウハウを集約した「写真修復マニュアル」を作成したことを発表した。津波で被害を受けた写真についた泥を落とし、スキャナーで読み込みんでパソコン上で修復作業を行い、プリントアウトをするといった一連の作業についての方法について、分かりやすく解説している。
■3大学が連携、膨大な量の写真をPhotoshop CS5で修復
写真修復のボランティア活動は「あなたの思い出守り隊」プロジェクトと呼び、神戸学院大学、東北福祉大学の3大学が連携し、学生を主体として2011年4月から開始され約10カ月にわたり行われた。
写真修復マニュアルは、その活動の内容をマニュアル化したもので、無償で公開することで、被災地のアルバム修復のボランティア活動の輪を広げようとすることをねらいとしている。現在でも活動は続けられており、工学院大学だけで350人から約8万枚の写真修復依頼を受けている。被災地で修復されていない写真はまだ大量にあるとみられるが、作業スペース、補完スペース、人員、設備、運営資金などの面で組織の拡大は難しい。マニュアルを公開することで、写真修復作業に協力してもらえる団体の数を拡大しようと考えた。
また、修復は写真の持ち主と電話で相談しながら進めるなど、アルバムの持ち主の希望にそって作業を進めており、きめの細かい配慮が必要となる。その際に柔軟で高度な対応が必要となり、また写真の状態や時間の経過によって作業方法が変わることなどから、マニュアルによって情報を共有し、現場で誰もが複数の処理方法を選べるようにした。これにより、スキルが異なるボランティアでも、一定の質の写真修復ができ、学んだ技術をすぐに共有できる。
■映像関連企業、プロダクションが機材提供、技術指導などで協力
プロジェクトには、関連メーカーやプロダクションから、機材提供、技術指導などで協力を受けている。 アドビシステムズから、ノートパソコン、「PhotoshopCS5」(以下、フォトショップ)、スキャナー、プリンター等の提供や、ボランティアへのフォトショップの講習会・技術指導の実施などで支援を受けたほか、エプソン販売からは、A3スキャナーの提供、写真のスキャニングに関する技術指導を、また、アマナグループからは、ボランティアへのフォトショップ講習会・技術指導の実施などで協力を得ている。このほか、ソニー、日本ヒューレット・パッカード、ニコン、ナカバヤシ、リコー、コンプラス、日本写真エージェンシー協会の協力を得ている。
■拡がる支援の輪、海外や一般企業からの受け容れも構築へ
工学院大学の地下にあるエクステンションセンターを活動場所とし、平日の午後1時から9時までを活動時間として作業をしている。 日ごろ、学業や就職活動などで長期の滞在が難しい学生が、現地に行かずにボランティアとして貢献できることから、これまで工学院大学においては、延べ562人の学生が参加し、これまでに14名の依頼者か9883枚が届けられ、修復可能な5001枚のうち、1043枚が修復されている。デジタル処理の工程では、海外など学外に在住する学生からの協力も得られた。
作業は、開封作業から始まり、アルバム自体の汚れを落とし、修復作業の分類、スキャナーの読み込み、フォトショップによる修復、プリントアウトとあり、同時にこれらの作業をノートとカメラで記録しながら進めているという。
フォトショップ上では、縁の汚れを切り取る写真のトリミング、色調補正、ごみ、傷の低減、褪色補正などを行っている。解像度 は400dpi。スキャンしたデータはイントラネット環境で保管するとともに、データの外部持ち出し禁止、パスワードによるセキュリティ管理を徹底しているという。 写真の状態によって作業工程や使用するツール、作業時間が大きく異なる。
マニュアルは、写真修復のワークフローのみでなく、 運営体制などボランティア活動のノウハウなども含まれているという。
現在、アドビシステムズから社員によるボランティア活動の申し出を受けているほか、協賛企業・他大学・一般市民からの支援活動の申し出が増えていくと見ており、大学としてのセキュリティを確保しながら、外部ボランティアの受入体制を整えていく。また、マニュアルについても、さらにバージョンアップを進めていくという。
■まずはボランティア支援の協力団体に提供
マニュアルは基本的に公開ではあるが、使用する環境や条件などによる説明が必要であり、また、本来、ボランティアの活動を広げることを第一の目的として作成しているため、まずはボランティアへの活動に協力してくれる団体などを対象に提供していくという。
しかし、さまざまな災害等で汚れた写真の修復を必要としているニーズがあると見ており、また今後の大型地震発生など、不測の事態などでも活用できると期待されていることから、今後一般個人利用への公開も検討していく。
届けられたアルバムの汚れを丁寧に落とす
工学院大学地下の作業室
授業や就活の合間を縫って参加する学生たち