私が見た"Inter BEE 2016"(その1)全体概要、イベント編
2016.11.29 UP
写2:52回目のオープニングセレモニーでのテープカット
写3:NHK副技師長講演より、放送技術の進歩はオリンピックと共に
写4:IPサミットとも言える各IP陣営が集結した講演会、パネル討論会
写5:映像シンポジウムより、8Kの医療分野への応用
2016年は南米初のリオオリンピックが開催されたオリンピックイアである。放送メディアは最大の国際的イベントであるオリンピックと共に成長してきたと言っても過言ではない。8月にはリオオリンピックを開催を機にBSによる4K、8K試験放送が始まり、次世代に向けた新たなステップを切った。
InterBEEは、技術オリンピックとも言われ日本の放送技術力の高さを世界に発信した1964年の東京オリンピックの翌年、「放送機器展」として始まった。その後、この半世紀にわたり、放送メディアは白黒からカラーへ、標準テレビ(SDTV)からハイビジョン(HDTV)へ、そしてアナログからデジタル放送へと成長発展を重ね、最近の超高精細度放送時代を迎えついに4K、8K放送への新たなスタートも切った。最近のNABやIBCなどを見ても、これからの高品質、高度の放送を支える技術、配信ネットワークインフラは大きく成長し、ユーザーの視聴環境も変わりつつある。Inter BEEの直前に開催された産業、民生分野の展示会であるCEATECにおいては、人工知能AIの進展、IOTに見られるようなあらゆる環境下でのネットワーク化など大きなイノベーションが進んでおり、それらは放送メディアにも波及していくと考えられる。InterBEEは半世紀にわたり、日本のみでなく世界の放送を支える多種多彩な技術を世に出しつつ2014年には創設50周年を迎え、今や米国NAB、欧州IBCに並ぶ放送界最大のイベントに成長し、新たな半世紀に向け歩みだしている。
今回52回目となるInterBEE2016は11月16日から18日まで、幕張メッセで盛況に開催された。出展者数は昨年の996を超え、過去最多の1090社・団体(うち海外34カ国・地域から593社)を数え、登録来場者数は晴天にも恵まれ過去最多の38,047人を迎えた。機器展示会場は、昨年より1ホール分広くなり第2ホールから第8ホールまでをいっぱいに使い、「プロオーディオ」、「映像表現/プロライティング」、「映像制作/放送関連機材」、「ICT/クロスメディア」の4部門構成になり、各社のブースの場所、配置も例年とかなり変わっていた。
放送や通信メディアの急速な変化、進展に応えるように、フォーラムやコンファレンス、セミナーなども例年以上に多彩でいずれも盛況だった。新たな半世紀を刻むオープニングセレモニーは、初日朝、エントランスロビーで催され、主催のJEITAに続き総務省と経済産業省の揃い踏みの挨拶があり、米国大使館、欧州IABM(国際放送機器協会)、ブラジル放送協会の海外からの要人も含め、テープカットが行われ大会開会の幕が切って落とされた(写2)。セレモニー会場ステージの両脇には、今大会を象徴するようにホットトピックスであるNHKによる8K試験放送を受信した8K映像とスカパーJSATによる4K HDR映像が大画面ディスプレイで公開されていた。
セレモニーに続き国際会議場で開かれた基調講演会では、今年の放送メディアの最大のトピックスである4K、8Kをテーマにしていた。総務省大臣官房の吉田審議官は「4K、8Kのロードマップ進捗と状況」という表題で2020年に向けた国の放送政策の動向と展望を、二人目のNHK副技師長の春口技術局長は「8Kスーパーハイビジョン試験放送と東京五輪に向けての展望」を語り(写3)、スカパーJSATの小牧取締役が「当社の4K放送への取り組み」について講演を行った。8月にNHKが試験放送を開始し、民放キー局が12月から開始するとあってホットなテーマだけに、講演会場は入りきれない人も出るような立錐の余地のない大入り満員の盛況で、業界関係者や一般視聴者の関心の高さを物語っていた。引き続き開かれたもう一つの基調講演は、今年開催されたリオオリンピックに関して、ブラジル最大の放送局”TV Globo”のスポーツテクノロジーディレクターのマヌエル・マリノ氏が「リオ五輪を振り返り、2020年を考える」と題して、NHKの報道技術センター中継部の東副部長が「リオオリンピック SHVコンテンツ制作を振り返る」と題した実践的な話をしていた。
その他、IABMのピーター・ブルース会長による招待講演「欧州における放送・メディア業界の動向を追跡する」や飯泉徳島県知事らによる特別講演「災害多発する列島に対する放送とネットの役割」と題した講演やパネルディスカッションなど盛リ沢山だった。それらの中で特に興味をひかれたのは、最終日の午後に開かれた最近の放送メディアのもう一つの大きな潮流、技術テーマになっているIP化に関する特別講演会「IPライブ伝送提案の各方式と今後の展開」である(写4)。今年のNABやIBCでもIP化の問題は大きく取り上げられていたが、今回の企画はInterBEEが主催した各陣営によるIPサミットの感もあり、前述の4K、8Kの講演会と同様に会場は満席の盛況だった。現在、いくつかの企業グループが提唱するIP化方式、そこに向かうアプローチは併存している感があるが、今回初めてGrassValeyが主導するAIMS 、Evertsが主導するASPEN、ソニーが主導するNMI、メディアグローバルリンクスが提唱するIP-VRS、NewTek提唱のNDIと各陣営のキーパースンが一堂に会し、講演とパネルディスカッションが行われた。放送メディアが4K、8K化と超高精細度へと向かうことと密接に関係ある課題としてIP化への流れは必然とも考えられる。現実的には、従来からのSDIが3Gから12Gへと広帯域、高速化する状況もあり、当面はSDIとIPが並存しつつ、適材適所で棲み分け制作、配信環境、インフラは進展していくと思われる。現在、ややもすると混戦状況にあるアプローチが統一されて行くことは望ましく、このイベントがそのきっかけになることを期待したい。
大会中日には、長い実績があり例年好評の映像シンポジウムが国際会議場で開催された(写5)。女子美大の為ヶ谷氏のコーディネート、国重氏のモデレートにより、最近の映像メディアの動向を捉えた「進化する4K・8K映像コンテンツへの挑戦」と題し、ハリウッド映画からのシニアDIカラリストのジョン・ダロ氏、4K/8K映像コンテンツ制作者として電通の小池氏、8K映像の医療応用ということでメディカルイメージングコンソシアムの谷岡副理事長、8Kコンテンツ制作の分野からイマジカの殿塚プロデューサの4人の講師が、4K・8Kの特性を生かした映像活用の新たな展開について、それぞれ専門家の立場から講演し、その後。全講師と聴講者も交え熱心なパネル討論が行われた。4K/8Kの放送以外の分野での応用も含めたこの企画も非常に時機を捉えたもので今後の超高精細映像の進展を思わせ、この会場も例年以上に盛況だった。
展示会場の第8ホールに設けられた4Kシアターでは、クリエイティブセッションが開催され、最近のコンテンツ制作の動向を反映した多種多彩な講演や作品紹介が3日連続で行われ、いつも大勢の聴講者を集め盛況だった。初日最終回のNHK制作技術センターの前田氏による「4K HDRへの挑戦」を聴講したが、NHK初の4K連続特別制作ドラマ「精霊の守り人」における新たな映像表現への取り組みや制作上の問題など、実際の映像も披露しつつわかりやすく話してくれた(写1)。
機器展示会場を回ってみて、多種多彩な展示物の全体的技術動向を概観すると、上述のセッションなどで見られたように、今回最大の話題、テーマは4K、8K関連技術と、それと切り離せないIP化の問題である。今年、日本で本格的4K/8K超高精細度放送がスタートしたことは国内だけでなく世界の放送状況にも影響を与えて行くと考えられる。またIP化についても上述のように、今回の大会を機に各陣営の連携が進み、今後、SMPTE等による標準化、統一が進展し、世界的にIP化が進んでいくと思われる。各企業のブースを見ても、このようなメディア展開を反映する最新、最先端の機器やシステムが数多く展示され、様々なソリューションの提案がなされていた。具体的には、最新技術やソフトウエアを搭載した4K、8K対応のカメラや制作系、ディスプレイなどの機器に加え、あらゆるシステムを支える従来以上に高画質、高効率になった符号化技術、さらに各機器やシステム間をつなぐ12GSDIやIPネットワークなどの配信技術などが大いに注目されていた。また、今回、局外伝送を視野に各企業ブース間での配信共同実験も数多く見られたことは今後の大きな展開を伺わせることとして注目される。またもう一つの大きな技術動向として、超高精細映像4K、8Kの展開と関連し、単なる画素数や解像度だけではなく画質に大きく寄与するHDR、広色域BT.2020への対応、動き画像の品質に関わるHFRなどに応える展示も多くの企業ブースで見られた。
写2:52回目のオープニングセレモニーでのテープカット
写3:NHK副技師長講演より、放送技術の進歩はオリンピックと共に
写4:IPサミットとも言える各IP陣営が集結した講演会、パネル討論会
写5:映像シンポジウムより、8Kの医療分野への応用