【Inter BEE 2017】映像シンポジウム「AIがクリエイティブコンテンツの未来を創る」にスクウェア・エニックスのAI開発担当の三宅氏が登壇 直前インタビュー報告
2017.11.13 UP
スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー 三宅陽一郎氏
モデレーターを務める女子美術大学非常勤講師の國重静司氏
11月15日から17日までの3日間、幕張メッセで開催するInter BEE 2017の2日目、16日に開催する映像シンポジウム「AIがクリエイティブコンテンツの未来を創る」では、番組や映画制作など、クリエイティブの現場において、AI(人工知能)がどのような役割を担うかについて、技術開発の最前線にいる3人による討論が予定されている。
会期間もない7日、モデレーターの國重静司氏が、同シンポジウムに登壇するスクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏を本社に訪ね、ゲーム開発でのAIの活用と映像制作におけるAI利用の可能性について聞いた。三宅氏はスクウェア・エニックスにおいて、20年にわたりAIの研究に携わっており、ゲームの中でのキャラクターの行動についてAIを用いた手法を開発している。國重氏は、NHKで番組用のCG表現技術の開発やコンテンツ制作をしたのち、NHKアートでイベントの映像制作やAIを駆使したコンテンツ開発などを手掛けた。NHK在職中、MITのメディアラボでAIの研究にも関わっている。
■コンテンツ制作にどう役立てればいいか
國重:16日のセッションでは、クリエイティブにとってAIをどう役立てればいいのか、3人の専門家から、それぞれの現場での活用について具体例をお聞きした上で、続くパネルディスカッションで、それではコンテンツ制作にとって、映画・放送の制作の現場やプロダクションでどのように活用できるのか、会場からのご意見などもお聞きしながら、議論を深めていきたいと思っています。
國重:Inter BEEは、映画テレビの人たち向けにいろいろなシンポジウムがあり、機器展示も開催される。そうした中で、今回のシンポジウムは、AIが、テレビ、映画、プロダクション、学生にとって、どういうコンテンツ制作で振る舞いをするかを、3人に登壇してもらい、具体事例を提示してもらいながら、ディスカッションを深めていきたい。
國重:今日、お伺いしたのは、そのセッションにおけるお話を伺う前の段階で、あらかじめ、来場する皆さんに、AI、AIとはそもそもどういうものか、そして、ゲームにおけるAIの活用の現状について、知っておいていただこうという考えから、三宅さんにそのあたりをお話しいただきたいと思い、伺いました。まずは、AIについて、簡単にお話しいただくのは難しいと思いますが、要点について教えていただけますでしょうか。
■ゲームのAIの特徴は「リアルタイム」「インタラクティブ」「身体性」
三宅:AIという言葉の定義以前に、「知能」という言葉そのものが定義できていないわけですから、AIといっても、研究者ごとに違う定義をしているというのが現状ですね。大まかに言えば、狭い意味のAIと広い意味のAIがあります。狭い意味では、人間の知能をコンピューターで実現する、人間の知能な推論など、人間の知的機能の一つを取り出してやらせるというものです。
三宅:私がやっているゲームで用いるAIには、3つの特徴があります。1つは「リアルタイム」。瞬間の判断、早い速度で実際のスピードに合わせている。もう一つは「インタラクティブ」。プレーヤーなどからの情報に対してインタラクションをする。そして、3つめは「体を持っている」ということです。
三宅:AIの判断によって、ゲーム空間で体を動かす。知能で制御する。世界とインタラクションして、認識する。分野としては、ゲームキャラクターですが、リアルタイム、インタラクション、身体と制御ということで、 きわめて人間に近いものが求められているといっていいでしょう。
三宅:今、いろいろな場面でAIが使われることで便利になってきています。AIはこれからさらに人間の知恵で進化していくでしょう。AIにとって、得意なことと苦手なことがきわめてはっきりしています。
三宅:できないこととしては、AIは自分で問題をつくれない。問題設定をできない。囲碁も将棋もルールは人間が与えています。これをフレームといいますが、AIはフレームが閉じている中で課題を与えられると人間より優れた結果を出すことができます。もはやこの分野は人間は勝てないでしょう。
三宅:しかし、自動運転などのように、不確定要素がたくさんある環境のもとでの課題解決には、AIはまだ無力に近い。そういう場合、人間はきわめて臨機応変です。ルールも決まっていない想定外の課題はAIにとってはとても難しい。
三宅:今、開発しているのは、ゲームの世界の中でキャラクターが自ら考えて、リアルタイムに対応していくシステムです。ゲームの場合、現実世界と違ってノイズ、予測できないことがなく、条件も現実世界ほど多くはないという点で適しているかもしれません。
三宅:モンスターの頭脳、目や耳の代わりになるものから情報を集めて、今何が起きているかを認識し、その上で意志決定して行動するという。3段階。認識、意志決定、行動。これをキャラクターが動いているのと同じスピードで30分の1、60分の1で動くことで人間が生きて行動しているのと同じように振る舞うことができます。
■ワークフロー、マネジメントに有効なAI利用法
國重:テレビ番組をはじめ、映像コンテンツの場合、さまざまなノイズがあると思いますが、そういう場面でAIはどういう期待ができそうでしょうか。
三宅:AIは、目的と問題設定をはっきりさせれば、多少のノイズがあっても、目的にそった認識が行動ができます。なにもないところから、まず情報を集めて、そこからなにをするかを考える、というのは苦手ですね。
三宅:なので、まず、人間がなにをやってほしいか、という設定ができれば、AIを活用する可能性が高くなると思います。最初に、AIありきで、なにもないところにAIをもってくると、問題がぼやけてしまう。問題を明確にすれば、それほど難しいことではないと思います。
三宅:具体的には、コンテンツ制作そのもの、ゲームのコンテンツそのものをつくるというプロダクションワークで適用するというのと、ワークフローを考えたときに、二つあると思います。
三宅:ゲームでいうと、ワークフローの中にはずいぶんAIを活用しています。さきほどお話ししたように、キャラクターをAIで自動的に動かしていますが、最近では群集もAIで動かしています。
三宅:また、品質評価といった面でもAIを活用しています。ゲームをAIにプレイさせて、ゲームが破綻していないかをチェックしています。人間と違って、24時間やっていられるので、効率がいいし、問題を限定すればきわめて正確に探し出してくれる。ただし、まだ人間ほどの認識能力がないので、抽象的な言葉や状況の理解は難しい。
三宅:あとは、工程管理やマネージメントの分野です。ゲーム開発の現場では、何時までに何をつくるという工程がパラレルにいくつも動いています。いずれもコンピューター上で作業しているので、AIには適しているのです。マネージメントの領域にもAIが入ろうとしているわけです。
■AIの動きが目に見えるゲームから多くのヒントを提供
國重:最後に、三宅さんが当日のプレゼンやディスカッションをする中で、来場者に向けて、このへんを注目して欲しい、ということがあれば、一言いただけますか。
三宅:AIは目に見えないことが多いです。ビッグデータ解析など、動いているところをみたことがない。ゲームのいいところは、それが目に見えるところにあります。AIの働きが直感的にわかるという点でいろいろなヒントを感じてもらえると思います。ぜひそこを見てもらいたいですね。
【SP-165 映像シンポジウム】
11月16日(木)15:30-17:30
「AIがクリエイティブコンテンツの未来を創る」
第1部:プレゼンテーション
「AIとクリエイティブの融合による新たなコンテンツ制作について」
Mr. Lars Trieloff
Principal, Platform and Developer Ecosystem, Adobe Systems, Inc.
「ニューラルネットワークによる自動色付け写真が創発する文化コミュニケーションの可能性」
渡邉英徳 氏
首都大学東京 システムデザイン学部 准教授
「コンテンツプロダクションワークフローにおけるAIのふるまい 〜ゲームコンテンツを事例として〜」
三宅陽一郎 氏
株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー
第2部:パネルディスカッション
「AIテクノロジーは、クリエイティブコンテンツの未来をどう開くか!」
(パネリスト)
第1部プレゼンターの各氏
(モデレータ)
為ヶ谷 秀一 氏
女子美術大学 評議員
國重 静司 氏
女子美術大学 非常勤講師
スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー 三宅陽一郎氏
モデレーターを務める女子美術大学非常勤講師の國重静司氏