【Inter BEE 2013】私が見た”Inter BEE 2013”動向(その3)コンテンツ制作系
2013.12.6 UP
(写2)インテグレーテッドライブプロダクションシステム(Grass Valley)
(写3)4Kファイルベースワークフロー(朋栄)
(写4)4Kハイエンドワークフローコーナーの実演(キヤノン)
(写5)次世代制作系の核となるスイッチャー(パナソニック)
(その1)では今大会の全体状況とイベント関係の概略を、(その2)では多種多彩な4K/8Kカメラ、高感度・高速度カメラについて紹介した。(その3)ではファイルベース化が進む制作について概要を紹介したい。
今年創立40周年を迎えたコンテンツ制作システム界老舗のQuantelは、高画質のカラー&フィニッシングソフトウエア”Pablo Rio 4K”とスムーズなファイルベースワークフローが可能な放送制作システム”Enterprise sQ”を公開していた。前者は従来機種の機能・性能を継承しつつバージョンアップし、入出力系にAJAの”Corvid Ultra”をGPUにNVIDIAの高速アーキテクチャー”Tesla K20”を採用し、4K/60pでのカラーグレーディング、合成、フィニッシング処理がリアルタイムに処理できるようになった(写1)。さらに今回は8K非圧縮ファイルを24fpsで再生しリアルタイムで映像加工処理も実演していたが、今後8Kの展開が進むことを視野に8K/60pの非圧縮ファイルの再生、処理も開発しているそうで、NAB 2014でのデビューを期待したいところだ。後者の”Enterprise sQ”はニュースやスポーツ放送で、スムーズなファイルベースワークフローを実現するシステムで、インジェストから送出までのフローの実演を見せていた。またインターネットを使用し遠隔地サーバにアクセスし、さらに異なるシステム間に接続し、コンテンツの閲覧や編集可能な”QTube”によるワークフローも公開されていた。
世界のトップブランドのGrassValleyは、ファイルベースのニュース、ライブプロダクションなど放送業務をサポートする多種多彩なソリューションを出展した。注目はインテグレーテッドライブプロダクション”GV Director”で、スイッチャー、サーバ、リアルタイムグラフィックス、マルチビュワ、IPストリーミング機能を統合し、専用のコントロールパネルによりオペレーションが簡便に行えるシステムである(写 2)。またファイルベースのニュースプロダクションは、最新ソフトウエアEDIUSを搭載し、高速度、高機能、安定性を備え、XAVCやAVC ULTRAもサポートする最上位のノンリニア編集システムである。さらに4K/8K の展開を視野に4K SDI出力ボード搭載のノンリニア編集ターンキーシステム(コンセプトモデル)も展示していた。また映像素材管理だけでなくメタデータのロギング、ストーリーボード編集などをひとつのインタフェースから操作でき、サーバやノンリニア編集系と連携し高機能で多様なワークフローに対応できる次世代アセットマネージメントシステムも展示していた。
Black Magic Designは10系統の6GSDI対応で、DVE、グラフィックスなど多くの機能を搭載し、4K/HD
/SDのライブプロダクションに使える新型スイッチャー、また6G SDI/HDMI/アナログインタフェースに対応しSD/HD/U HDまでの映像キャプチャーと再生が可能なディスクレコーダ、さらにU HDワークフローへの移行を容易にする6G-SDI対応の各種ミニコンバータなど多彩な機器を展示していた。また例年人気スポットのカラーコレクションは、映画とテレビ界で使われている様々なソフトウエアとのワークフローを統合し、4K/HD/SD で2Dおよび3Dの作業が可能になった”DaVinci Resolve 10”を使い、第一線で活躍中のカラリストによる実演が行われていた。
朋栄は多種多彩なコンテンツ制作用機器を展示していた。ファイルベースワークフロー系として、多チャンネルの入出力コーデック、高速ストレージを搭載したマルチチャンネル対応の高機能、高性能インジェスト/プレイアウトサーバ、またLTOテープへの運用可能なインジェスト/アーカイブ用コンパクトレコーダ、さらにビデオI/Oが不要なファイルベース運用に向けた素材管理用に小型、低価格化した最新のLTOサーバなどを展示していた(写3)。主力のスイッチャー系では、初公開の最大256×256まで運用可能な4Kにも対応する大型ルーティングスイッチャー、HD/SD混在入力可能でフレームシンクロナイザー、DVE、クロマキーヤなど豊富な機能を搭載し、本体と操作パネルを分離できるモデルとコンパクトな一体型モデルを並べていた。プロセッサー系としてはFS機能、カラーコレクター、アップグレードにより4Kにも対応可能なオールラウンドプロセッサー、またデュアルチャンネル化したマルチパーパスシグナルプロセッサーなどを並べていた。さらに最大4系統のQFHD映像のモニタリング可能な高精細マルチビュワ、テロップの入力、編集、送出が可能な4K対応キャラクタージェネレータなど多種多様な機器を展示していた。
アストロデザインは制作系機器として、高速転送、収録しながらハイライト編集可能でSHVスポーツライブ制作などに向く8K用非圧縮SSDレコーダ、輪郭補正や色収差補正などがリアルタイムに高速処理できる8K用カラーグレーディング装置、4Kなど異なるフォーマット間を繋ぐダウンコンバータやクロスコンバータと色域変換装置、デジタル信号発生器など8K制作を支援する多彩な機器を展示していた。
計測技術研究所は4K/8K関連機器を使い迫力ある8K SHV映像を公開していた。再生に使われていたレコーダ”UDR N50A”はHDD/SSDのハイブリッド構成、フルHDから 4K/QFHD/60Pまで対応し、8台同期運転により8Kにも対応する。また映像編集系”SCRATCH Play”とUDRを組み合わせた4K/8K映像編集システムも公開し、その他にも4K対応の小型コンパクトなI/Fコンバータ、SDI/HDMIコンバータ、ミニコンバータなどを並べていた。
ソニーはライブソリューションコーナーで様々な4K/HD制作用機器の実演を公開していた。サーバシステムとして4K4chマルチポートストレージユニットは、4K/HD(240Pも可)ライブ制作に使え2TB内臓メモリーを標準装備し4K/60pで約5時間、HDなら24時間収録可能である。スイッチャー系としてはハイエンドモデルを4K対応にアップグレードオプションソフトウエアとHD→4Kアップコンバータボードを展示していた。アーカイブソリューションとしては、今春発売したオプティカルディスクシステムの次世代機として、従来モデルの約2倍の1.1Gbpsの高速データ転送を実現しUSB3.0対応のドライブユニットと同機を複数台搭載できるライブラリーマスターを展示していた。
キヤノンは4Kハイエンドワークフローコーナーで、4Kカメラ”C500”ファームウエアアップによる新機能紹介をしていたが、BT.709やDCI P+より広い色域を持っており、従来より広く忠実な色再現性が実現できるようになった(写4)。また同カメラに対応可能なアストロ、Codex、 AJAなどのレコーダによるシステム構築やC500を核にする4Kライブ伝送システムの提案もしていた。さらにメインステージではEOSシリーズなどを使う4K撮影テクニックやハイエンドワークフローなど、多彩なテーマについて国内外のアーティストやジャーナリストらによるセミナーも開催され大勢の聴講者を集めていた。
パナソニックは、HD/SDマルチフォーマットに対応、SDI×32系統とDVI×2入力、SDI×16出力の豊富な機能を装備し、多彩なトランジッション効果可能なDVEをME毎に4系統搭載している次世代の2MEライブスイッチャーを初公開した(写5)。機能、性能のわりにコンパクトで直感的な視認性と操作性に優れており、来年には3ME、4MEへと機能アップを予定しており次世代制作系の核として期待される。また次世代制作法としてAVC Long Gクラウドワークフローを提案していた。カメラレコーダで収録済みプロキシデータを4G/LTEネットワークを介してクラウドサーバにアップロードし、WEBアプリによりプレイリストを編集後、その結果によりカメラから高画質データ部分だけをクラウドに再アップロードする。必要部分だけを的確に送り、作業時間の短縮、コスト削減できる新しいワークフローである。
映像技術ジャーナリスト(Ph.D.)石田武久
(写2)インテグレーテッドライブプロダクションシステム(Grass Valley)
(写3)4Kファイルベースワークフロー(朋栄)
(写4)4Kハイエンドワークフローコーナーの実演(キヤノン)
(写5)次世代制作系の核となるスイッチャー(パナソニック)