【Inter BEE 2013】私が見た”Inter BEE 2013”動向(その4)映像ディスプレイ系、符号化技術・配信系
2013.12.9 UP
(写2)96面のマイクロタイル(リア型DLP)式8K外画面ディスプレイ(アストロデザイン)
(写3)ソニーブースと繋いで行われた4K映像伝送実験(NTT)
(写4)次世代コーデックHEVCへの取り組み、H265/H.264の画質比較(富士通)
(写5)4K機器を揃えた次世代マスターシステム(NEC)
(その1)から(その3)まで、今大会の全体状況、多種多彩なカメラ関係、ファイルベース化が進む制作系について書いてきた。(その4)では映像を表示するモニター系とデジタル時代をベースで支える符号化技術、コンテンツ配信系について概略を紹介したい。
デジタル化移行により番組・コンテンツは一層高画質、超高精細度化しており、映像を確実に監視、管理する映像モニターや作品を上映、公開するディスプレイはますます重要になっている。今回は展開が目覚しい4K/8K対応の多種多彩なディスプレイが場内各所で出展され何れも注目されていた。
ソニーはスイートルームで最新型4K SXRDプロジェクターを2台使い超ワイド・大画面スクリーンに、アフリカ大地のワイルドライフなどの鮮明で迫力ある映像を映していた。DCI仕様のフル4KのSXRD素子と6灯高圧水銀ランプ光源を搭載し、高輝度・高コントラストを実現した。2台のプロジェクターによる2画面映像をエッジブレンディング機能により自然に重ね合わせ、全体として7680×2160の超高解像、ワイド画面を表示していた(写1)。また4K放送へ対応するべく85"型4K LCDテレビブラビアも置き、世界遺産などの素晴らしい4K映像を上映していた。映像モニターコーナーには、自発光式で高輝度、コントラスト、応答性が良く動きボケの無い高画質の有機ELマスターモニターが展示されていたが、フルHD対応の25"と17"サイズで、視野角が広くカラーシフトが小さく多人数での制作作業が効率的に可能だ。またその横にはIBCにも公開された30”サイズの4K有機ELモニターも展示されていた。
キヤノンは映像モニターとしてNABやIBCで参考出品した4Kリファレンスモニターの製品モデルを展示した。RGB LEDバックライトと広視野角IPSパネルを採用した液晶型、DCI色域でフル4K/フルHDに対応し高解像度と高コントラストを実現した。画面サイズは30”型でEOSカメラのCanon Log ガンマに対応し、忠実な色再現性と高信頼性で、色調、輝度の自動補正など運用性も高く、撮影現場での映像確認やポスプロでのカラーグレーディングやVFX作業にも使えるそうだ。
パナソニックも放送業務用31”型プロ用リファレンスモニター4K LCD型を出展した。水平垂直方向とも広視野角IPSパネルを採用し、フル4K、10bit階調で色域は業界標準のBT709を100%、DCI色域をほぼカバーしている。DCI仕様4K/2K、4K放送のQFHD、フルHDの制作業務をサポートする。4K解像度を活かして画面を4分割し、2KまたはHD映像の表示と同時に波形モニターやベクトルスコープ表示なども可能である。映画や放送だけでなく、CGやシミュレーションなどにも活用できるそうだ。またシーテックで高い評価を受けた20”型4K IPSパネルを搭載した世界最軽量、最薄タブレット”TOUGHPAD”と、4K放送を視野に65”型4K液晶テレビビエラも展示していた。
池上通信機は、従来からの液晶タイプに加え25”と17”サイズでフルHDの有機ELモデルを初出品した。3G対応、広視野角、広ダイナミックレンジで応答性が良く動画ボケがなく、黒の階調再現性に優れているマスターモニターである。CRTガンマ機能を有し従来のCRTマスターモニターと同様の使用感だそうだ。また参考出品ながら32”サイズの4Kモニターも展示していた。アストロデザインはブース正面に大画面8Kディスプレイ設置した。クリスティのマイクロタイル(20”モジュラー構造リア投射型DLPユニット)を96面組み合わせ、アストロのビデオウオールプロセッサーで処理し全体で215”サイズの大画面を実現した(写2)。ユニットの数で任意のサイズが実現できる新しい方式のディスプレイで、8Kパブリックビューやデジタルサイネージ用に使えそうだ。ブース内には高品質のIPSパネル搭載の32”型液晶型を初め、各種サイズの4Kモニターを展示いていた。
計測技研は58”サイズの4K LCDモニター4台を張り合わせ全体で116”(7680×4320)相当の8KディスプレイでSHV映像を映していた。4K/60p映像は非圧縮レコーダ”UDR-N50A”で再生され、超解像ユニットにより画質改善され8Kにアップコンバートされる。東芝の4KモニターはLEDバックライトの広視野角、表面に高性能な低反射フィルムを張り合わせた32”型LCDパネルを搭載し、QFHD対応の業務用モデルで、色域はAdobe RGBカバー率99%と広く、さらに超解像技術によりフルHD映像も4Kに拡張できる。
4K、8Kの展開が進み、コンテンツの制作、送出・配信にとって高画質、効率的な符号化技術は極めて重要で、多くのブースで多種多彩なシステム、機器が公開されていた。
NTTグループは会場内で4K伝送実験をやっていた。コンフェデ杯サッカーで制作された4K/60p映像が、ソニーブースでエンコーダ(フルHD H.264 2CH)を2台カスケードしエンコードされ、長距離大容量接続を低コストで実現するブロードバンドネットワークスイッチにて光ケーブル経由でNTTブースへIP伝送され、4台のH.264デコーダ(10-bit 1080/60p対応の高機能デコーダ)をパラ運転しデコードされ、4Kディスプレイ上に表示された(写3)。スポーツやコンサート中継も高画質、4Kクオリティで伝送できることを実証した。またH.264の2倍の圧縮効率、高画質を実現し、4K映像変換にも対応する世界最高性能のHEVCエンコードエンジンを搭載したソフトウェアコーデック開発キットも出展された。その他には、IPネットワーク上で4K非圧縮映像ワークフローを構築できる映像活用システム、低ビットでも放送品質の高画質、低遅延をIP回線で実現する映像配信ソリューションなど多彩なシステム、機器が展示されていた。
富士通は、撮影・取材、素材伝送、局内での編集・アーカイブ、そして放送・配信までカバーする「メディアプラットホームソリューション」の提案をしていた。また4K/8K時代の映像伝送ソリューションとして、先日のアリスライブコンサート4K生中継でも使われたリアルタイムIP映像伝送装置を利用する提案をしていた。この生中継では送受信側とも同装置を2式ずつ使い、4K/60p映像をH.264でエンコード/デコードして行われた。この時の生中継は筆者も見たが、伝送されてきた4K映像は精細度、迫力とも十分でまるで武道館にいるような臨場感だった。また次世代コーデックHEVCへの取り組みとして20Mbpsと15MbpsのレートでH.264との画質の違いを見せていた(写4)。さらにクラウドを活用したトランスコードサービスも参考出品されていたが、多様なフォーマットの映像をクラウドに蓄積しスマフォなどマルチデバイスに低コストで配信するサービスである。
NECは次期マスターシステム実機を展示した。コンパクトなマスター卓の周辺に4K出力映像モニターや4Kマルチビュアによる監視機能システムを配置し、一方で省スペース化と省エネ化を図りスマートなシステム構築を目指している(写5)。また4K放送を実現する4K/60P対応のリアルタイムHEVCエンコーダを参考出品したが、今後本放送に向けチップ化を目指して行くそうだ。ファイルベースコーナーには、フレキシブルで多機能・高信頼性を維持しつつ構成単位を小さくし記録メディアとしてHDD/SSDを選択でき4つのI/Oボードを搭載した新型サーバを展示していた。
東芝も次世代放送を視野に、”VIDEOS neo”で構成される統合サーバシステムを核にするテレビマスターシステムを提案していた。記録メディアに高信頼フラッシュメモリーを採用し、低消費電力、省スペースでファイルベースワークフローの核として、ニュース送出、CM送出サーバ用などに適している。また9月からNHKで始まったハイブリッドキャストに応え、コンテンツ制作の支援システム、検証システムも公開されていた。三菱電機は8K用HEVCリアルタイムエンコーダを開発済みで今年のNHK技研公開やIBCでも公開しているが、今回は小型基板1枚で実現したフルHD対応HEVCコーデックを展示したが、同基板を複数枚使えば4K、8K放送用エンコーダとして対応できるそうだ。
映像技術ジャーナリスト(Ph.D.)石田武久
(写2)96面のマイクロタイル(リア型DLP)式8K外画面ディスプレイ(アストロデザイン)
(写3)ソニーブースと繋いで行われた4K映像伝送実験(NTT)
(写4)次世代コーデックHEVCへの取り組み、H265/H.264の画質比較(富士通)
(写5)4K機器を揃えた次世代マスターシステム(NEC)