【INTER BEE CONNECTED 2017報告】(6)「番組制作とネットコミュニケーション」視聴率とのジレンマを乗り越え、“体験”を作り出すネット活用へ
2018.1.10 UP
固定ファンを作るためにはSNSアカウント“人格”をしっかりコントロールした運用が必要という
「恋がヘタでも生きてます」は番組視聴者の層に近い女性のキャラクターを作り込んで絵文字の使用など文体も徹底
アカウントひとつについて“人格”がひとつとは限らない
放送と通信の融合に着眼するINTER BEE CONNECTEDは、その立ち上げ以来、放送とSNSに代表されるネットとの関係に関心を払ってきた。この間、番組制作へのネットの影響は大きくなる一方だ。実際に制作者は何を考えてネットの声を聞き、発信し、どのように番組制作に活用しているのか-この問いに迫ったのが本セッションだ。
モデレーターのメディアコンサルタント・境治氏が「番組のネットコミュニケーションについて、誰も答えがわかっているわけではない」と切り出したとおり、ひとつの最適解は存在しないのがこのテーマだ。試行錯誤しながら積極的に試みている制作者がパネリストである。
フジテレビ「貴族探偵」プロデューサーの羽鳥健一氏(現在はWOWOWに出向中)、讀賣テレビ「恋がヘタでも生きてます」(恋ヘタ)プロデューサー・ディレクターの汐口武史氏、NHK「あさイチ」プロデューサーの渡邊悟氏、テレビ東京で「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(充電)などを手がける制作局制作CPチームの平山大吾氏の4人が登壇した。
(取材・文:関根禎嘉)
■ネットコミュニケーションのカギ(1)アカウントの“人格”
4人の取り組みに共通して言えるのが、一つは番組の固定ファンを作るためにはSNSアカウント“人格”をしっかりコントロールした運用が必要だということだ。
「貴族探偵」では“貴族づきIT班”として振る舞う。「恋がヘタでも生きてます」は番組視聴者の層に近い女性のキャラクターを作り込んで絵文字の使用など文体も徹底した。汐口氏曰く「2万人、3万人という常に(番組を)見て語る固有のファンを作ることができたのは成果」。
アカウントひとつについて“人格”がひとつとは限らない。「あさイチ」のInstagramは基本的に番組スタッフによる投稿だが、有働アナが直接登場してくることもある。「充電」では手がける平山氏が直接運用し、出川哲朗というパーソナリティをもり立てる裏方目線だ。
■ネットコミュニケーションのカギ(2)動画活用
もう一つの共通点は、動画の活用だ。「貴族探偵」のネット施策は多岐にわたっていたが、動画展開も非常に多様だ。放送前の3月から毎日異なる告知スポットを流しすぐYouTubeにアップしたり、スピンオフ360°動画を作ったり、次話にゲスト出演する俳優(橋本環奈)による番組視聴のようすをリアルタイム配信したりといった具合だ。
「恋ヘタ」もオフショットを静止画だけでなく動画でも投稿。「充電」ではPeriscopeでオフショットを配信。もはや、テレビ向けの映像をそのまま流すということはありえない。プラットフォームの特性を理解し動画活用が不可欠だろう。
■デジタルプラットフォームでアナログな体験を
パネルディスカッションは、ネットとテレビの関係はどんなものになっていくのかというより本質的な議論へ進んだ。「テレビ視聴率を考えなければいけないのか、ネットに上げたコンテンツでビジネスになればいいのか」(渡邊氏)、「民放で生きてる以上はスポンサーがあるのでテレビで見せることに集中しなきゃいけない。ただ見てもらうためにはいろんなことをしなければいけない」(羽鳥氏)、といった発言が象徴するように、ここにはジレンマがある。
これを解きほぐすと思われるのが“体験”という観点だ。出川哲朗はロケ先で出会った人全員と握手をするようにしているという。そういったアナログな“体験”を提供しうるデジタルなプラットフォームとしての可能性がSNSにはある。汐口氏が「テレビの視聴率のためにネットを使うということではないことを考えていかなければいけない時期なのでがんばりたい」と意欲を示すとおり、制作者の創意が発揮され続けていくことに多いに期待したい。
固定ファンを作るためにはSNSアカウント“人格”をしっかりコントロールした運用が必要という
「恋がヘタでも生きてます」は番組視聴者の層に近い女性のキャラクターを作り込んで絵文字の使用など文体も徹底
アカウントひとつについて“人格”がひとつとは限らない