私が見た"NAB SHOW 2014"における技術動向(その4)ディスプレイ、配信、符号化技術編
2014.5.7 UP
マスターモニター用の有機ELモデルを展示(ソニー)
リアルタイムエンコード/デコードによる4K/60P伝送(NTTグループ)
4K→8K周波数拡張方式超解像技術(計測技研)
測定器も4K対応へ(リーダー電子)
ここまで3回にわたりNABの全体概要、高性能化が目覚ましいカメラ、ファイルベース・ネットワーク化する制作系について見てきた。最終回の(その4)では、それらを使い制作された超高精細映像を表示する映像モニターやディスプレイについて、さらに制作したコンテンツを配信・伝送する技術、そしてあらゆる分野のベースを支えている符号化技術や測定技術について紹介したい。
パナソニックはプロジェクションソリューションを掲げ、各種ディスプレイを多数使い展示をしていた。ブース天井に据付けた大型カーブスクリーンに、2台のDLPを使い迫力ある映像を投影し(タイトル写真参照)、ジオラマの洞窟のような壁面スクリーンに超短焦点の1チップDLPにより背面投射で恐竜の映像を映し人目を集めていた。映像モニターとして、広視野角のIPS αパネルを搭載しデジタルシネマ4Kおよび放送系QFHDに対応する31” 型LCDリファレンスモニターを展示したが、4Kだけでなく4画面のHD映像や波形・ベクトルの同時表示も可能なタイプだ。また視野角、コントラスト比も広い98”と84”サイズのLEDバックライトの U HD対応LCDテレビも並んでいたが北米向け製品だそうだ。また4K対応としてHDMI 最新規格に準拠し60Pにも対応し動きボケが少ない65”型液晶テレビ、さらに4K市場を拡大すると期待される20”型タフパッドも展示されていた。
ソニーもブース天井に4K SXRDプロジェクター2台による2画面映像をエッジブレンディング機能により重ね合わせ、全体として8K×2Kの超高精細ワイド画面を映していた。モニターコーナーには自発光式で高輝度、高コントラスト、応答性が良く、機能の追加、操作性向上がはかられ、視野角が広く多人数での制作作業が効率的にできるマスターモニターやピクチャーモニター用のHD対応25"と17"サイズ有機ELモデルを展示していた(写1)。その他30”サイズの4K有機ELモニターも参考出品していた。
キヤノンは、LEDバックライトの広視野IPSパネルを搭載し色域がDCI仕様と広く2000:1の高コントラスト、フル4K/2K/HDに対応する30”型LCDタイプ4Kリファレンスモニターを出展した。隣接の4Kシアターでは4KカメラEOS C500やEOS 1D Cで撮影された”Man and Beast”などの4Kコンテンツが、Barco製プロジェクターを使い200”サイズ位の大画面スクリーンに上映されていた。
池上通信機は、広視野角、広ダイナミックレンジで応答性が良く黒の再現性も良いHD対応の25"と17"型有機ELマスターモニターを初出展した。画面上にユーザーマーカを自由に描写でき運用性高く、CRTガンマ機能を有しCRTと同等の使用感だそうだ。また3G対応の17”型のHDマルチフォーマット対応のLCDモデルに加え、32”サイズのLEDバックライトの4K LCDモニターも展示していた。
大画面ディスプレイ分野で大きなシェアを持つクリスティは、レーザー光源搭載のDLPプロジェクターでドルビー式3D映像をシアターで上映し評判になっていた。右目/左目用映像をレーザーで分光表示し、フィルターなしプロジェクター”Christy Duo”で投影し、ドルビー式(光波長分割式)3Dメガネをかけて立体像を見る仕組みである。輝度が8000ルーメン、スクリーン上の明るさは17ftLと通常の映画館並みで、3000:1のコントラストで、3D版”Frozen”、"Avator"などを上映していた。その他、HD対応の3チップ式DLP Jシリーズ、4K/60pに対応し光出力35000ルーメンの最新機種DLP、 さらにモジュラー型DLPを使ったマルチディスプレイ”Micro Tiles”などが展示されていた。
NTTグループは日本が誇る最新の伝送・配信技術、符号化関連技術を公開していた。NexTVフォーラムが今年6月に実施する4K放送の35Mbpsに合せ、リアルタイムHEVCエンコード/デコードによる4K/60p映像伝送のデモをしていた(写2)。またIP伝送の映像品質を確保する方法として、2つのIPストリームを異なる経路で伝送し、一方でパケットロスが生じたら他方のデータで補完するデモや3G-SDI対応のハイエンドエンコーダ/デコーダを複数台使い4K/60pの高画質伝送も公開していた。また超高速ビデオサーバを使い4K非圧縮映像を3ストリーム、HD非圧縮映像なら15ストリーム配信することができる”via Platz”による遠隔協調編集ワークフローや試作段階の高性能ソフトウエアエンコードエンジンを使い4K/60P/4:2:2/12bit、8Kにも対応しイベントのパブリックビューや番組のネット配信に使えそうな映像配信も公開していた。
計測技術研究所は、8K/4K/2K各フォーマットの交流に有効な独自開発の超解像エンジン技術を展示していた(写3)。非線形信号処理することで原画像にない周波数成分を復元する周波数拡張方式FE(Frequency Expand)で、HD→4K、4K→8Kへ拡大変換する際、映像素材の解像度感や質感を大きく改善することができる。なお8K映像は58”サイズの4K LCDモニター4台を張り合わせ全体で116”相当の8Kディスプレイに表示していた。元の4K 60p映像は非圧縮4Kレコーダ”UDR-N50A”で再生され、4台の軽量小型のFE超解像ユニット”FE-B1”を通ってディスプレイに送られていた。
符号化技術は多くの企業から様々な技術展示やソリューションが公開されていた。ハーモニックは品質、効率、経済性に配慮したコンテンツ制作、配信システムや符号化技術の実演公開をしていた。HEVCをベースにした”PURE”圧縮エンジン搭載のソフトウエアトランスコーダを使いHD/4K/60pの画質評価と4K/ 120pの映像を見せていた。また高性能の共有ストレージMedia GridとAdobe Premiereによるコラボ編集や4K編集環境、素材のインジェストからプレイアウト、エンコードから配信までをビデオプロセスプラットホーム“VOS”で提供する実演もやっていた。intoPIXはデジタル時代に添う多彩な最先端技術として、JPEG2000をベースにする独自圧縮方式”TICO”と呼ぶ視覚的に劣化がない大変軽い圧縮技術、JPEG2000による低遅延の4K/8Kコーデック、SMPTE 2022 Video over IPなどを展示していた。DekTechはHEVCによる4K/60pのソリューションを、Barnfindはジッターレスの4K/60p伝送系を、さらにFPGAメーカーのAlteraやXilinxのブースでも符号化関連技術が展示されていた。
Digital Rapidsは柔軟なファイルベースのワークフローを実現する”Transcode Manager”などを、Digi-metricsは処理速度を大幅に短縮したファイルベースQCツール”Aurora ver5”を出展していた。ATEMEは4K/60P のHEVC圧縮、Akamaiはクラウド活用による様々なビットレートによる4K/60p配信の実演を、Envivioも高画質、効率的で多チャンネルに対応可能な4K/60p HEVCと従来の各種コーデックとの画質比較などを公開していた。このように今回、符号化関連技術の展示は多彩で大変多かった。
測定器メーカーも超高精細映像時代に応え、4K制作や配信を支援する様々な機器を展示していた。リーダー電子はフル4K/QFHD 対応で、信号波形、ベクトル、オーディオなどを映像と同時表示でき、コンテンツ制作時のフォーカス合せ用に拡大表示機能も持つ高機能波形モニター”LV 5490”を出展した(写4)。またコンテンツの品質管理のニーズに応え、多彩な検査項目によりエラーが識別された場合に波形やベクトルが容易に確認できるファイルベースのQCツールも展示していた。テクトロニクスも3G SDI対応ポータブル型波形モニター”WFM2300”の展示に加え、4KやU HD展開にとって不可欠な次世代符号化技術HEVCストリームを解析する技術や既存の測定器を4K対応にアップグレードする技術、さらに膨大な計算処理と経費が掛かるQCチェック対策としてクラウドベースの方式もの公開もしていた。
ここまで4回にわたり、NAB 2014の概略を紹介した。分量の制約もあり十分言い尽くせなかった点が多く、今回のNABがどんな状況だったか、今、世界で進展しつつある放送メディアの動向について大まかにご理解いただけただろうか。5月末には東京、大阪にて、”AFTER NAB Show”が開催され、国内からNABに出展した多くの企業が参加する。文字や写真では伝えきれなかった実際の機器、システムやそれらで制作配信されたコンテンツなどを体感できる絶好の機会である。ぜひ参集されることを期待していたい。
映像技術ジャーナリストPh.D.石田武久
マスターモニター用の有機ELモデルを展示(ソニー)
リアルタイムエンコード/デコードによる4K/60P伝送(NTTグループ)
4K→8K周波数拡張方式超解像技術(計測技研)
測定器も4K対応へ(リーダー電子)